運命と神様とファーゴ

ケミカルブラザースのトム・ローランもコーエン兄弟の一員だと思っていた時期もありました。

さて、ファーゴ である。

人は、自分ではどうにも出来ない事を運命と呼ぶ。
同時に、自分ではどうにか出来る事は運命を切り開くなどと都合よく言う。
しかし、運命は運命であり、一度動き出した運命は自分では止める事が出来ないのだ。
何故なら人は神ではないし、決して神になどなれないからである。

コーエン兄弟が描くこの映画のオープニングでは、こんな文章が表示される。

〝この映画は、実話を基にしています〟と。

映画は、アメリカのファーゴという田舎町で発生した連続殺人事件を描いている。
ある冴えないカーディーラーが、借金を返済するために妻の偽装誘拐を企だてて、金持ちの義父から身代金を騙し盗ろうとする。
ところが、誘拐を依頼したアウトローコンビの一人がとんでもないクレイジー野郎だったために、一人殺され、また一人殺され、ついには義父も殺され、妻も死ぬ。
想定外の事態に気付いたカーディーラーが、何とか食い止めようと色々動けば動くほど事態はどんどん悪化していく。

元々がただの冴えないカーディーラーである。偽装誘拐など企てるから人生が狂ってしまうのであり、アウトローの世界をナメてはいけなかったのだ。

そう、人は自分の身の丈に合った事をしなければならない。カーディーラーはコツコツと地道に車を売っていれば良かったのだし、それが運命だったのだ。
世界の広さを知り、自分などまだまだちっぽけな存在だと認識することが大事なのである。
田舎道なのにピッカピカな革靴を履いて笑われてはいけないのだ。

このカーディーラーは、身の丈に合ってないのに運命を切り開こうとした瞬間、人生が狂ってしまった。
いや、自分の人生だけなら良いが、無関係な人の人生も狂わせてしまったのだ。
皮肉にも、神にはなれないが死神にはなれたのである。

合計10名近くが犠牲になったアメリカで起きたこの悲惨な事件は「人は神ではない、謙虚に生きよ」という教訓を投げかけてくる。

だが、この映画のエンドロールには、小さくひっそりとこんな文章が表示されて種明かしされている。

〝この映画は、作り話です〟と。

そう、コーエン兄弟は神だったのである。
だからこの映画は、サスペンス映画ではなく喜劇としてコメディー映画に分類されているのだ笑

おわり

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