体内時計によって健康な腱が維持される

私たちの概日リズム、つまり 24 時間の明暗サイクルに体がどのように反応するかは、腱の健康を維持するだけでなく、腱の痛みや損傷の診断や治療の情報を提供するために使用できる可能性があります。コペンハーゲンスポーツ医学研究所、デンマークのビスペビャウ病院の上級研究員であるクロエ・ヨン氏は、概日リズムと腱の健康状態との関係に興味を持っています。彼女の研究は、概日リズムの乱れが人間の腱を混乱させることを示した最初の研究でした。彼女は、その結果と、その証拠が腱損傷の新しい治療法にどのようにつながるかについて説明します。

腱：強いが傷つきやすい

腱は、筋肉と骨を繋ぐ線維性結合組織です。これらは、歩く、走る、ジャンプするなどの体の動きや、シャツのボタンを留めたり、刃物を使用するなどのより複雑な日常作業を促進する上で重要な役割を果たします。
腱は、ほとんどが I 型コラーゲンと呼ばれる細胞外マトリックスタンパク質でできており、袋に入った乾燥スパゲッティのように、平行配列に配置された原線維に独自に組織化されているため、丈夫です。残念ながら、腱は損傷しやすく、最も一般的なのは繰り返しの動きによる使いすぎによる損傷で、これは「腱障害」と呼ばれます。これらは、コラーゲンの損傷が徐々に蓄積することによって引き起こされると考えられています。
腱のコラーゲンは再生が遅く、その組織レベルが高いため、損傷を修復するには非常に長い時間がかかります。組織が修復された後でも、元の構造が完全に復元されることはありません。組織は腫れることもあり、通常は肩、肘、膝、アキレス腱に痛みやこわばりを引き起こすことがあります。腱損傷は、変形性関節症に次いで 2 番目に多い整形外科疾患としてランク付けされており、医療費に大きく貢献しています。たとえば、英国では毎年約 150,000 人がアキレス腱障害の治療を求めています。

概日時計遺伝子は健康な組織を維持する

概日時計は、人間と動物が私たちの生理機能と行動を環境に合わせて調整するために開発した、進化的に保存されたシステムです。これは、私たちの体が 1 日 24 時間の中で起こる変化にただ適応するのではなく、予測して準備するのに役立ちます。
内部 24 時間リズムを持つ組織は末梢時計として知られており、概日リズムの役割は組織を維持することです。2014 年に、私たちはマウスの腱の概日リズムを発見しました。私たちの研究では、「時計のない」マウス（時計遺伝子に変異を持つマウス）の腱には、石灰性腱障害（回旋筋腱板の腱にカルシウムが沈着すること）に似たカルシウムの沈着が組織上に蓄積していることが明らかになりました。
若いマウスと比較して、高齢のマウスの腱の概日リズムが低下しているという事実が、私の好奇心を引き起こしました。加齢と慢性筋骨格障害（40歳以上の4人に1人が罹患）の有病率の上昇との相関関係を考慮して、人間の腱にも同様の概日リズムがあるかどうか、また腱障害が時計の乱れと相関するかどうかを詳しく調査しました。

乱れたリズムを探る

人間の腱を研究するのは簡単ではありません。この手順では局所的な組織の外傷が数か月間持続するため、生検の採取は腱ごとに 1 回に制限されており、サンプルサイズが小さくなる傾向があります。このため、私は遺伝子発現レベル（遺伝物質からの情報が身体的または行動的形質としてどのように表現されるか）に焦点を当てた研究を計画するようになりました。これは、少数のサンプルに対する信頼性の高いアプローチです。12時間間隔で朝と夜に2回の生検を行うことで、それらを比較して概日時計遺伝子の発現の違いを特定することができました。これは人間の腱の概日リズムを示していると考えられ、その証拠が見つかってうれしく思います。

昼夜の変化による影響

私たちは、腱の概日時計がコラーゲンの分泌を制御していることを示しました。私たちが「クロノマトリックス」と呼んだ、時計によって制御されるコラーゲンのこの小さな部分は、毎日更新されます。腱の概日リズムが乱れると、異常なコラーゲン原線維が発生し、組織機能が損なわれることになり、健康な腱を維持するには概日リズムの維持が不可欠であることが示されました。
概日リズムの乱れは、振幅または位相シフトの低下として現れる可能性があり、その結果、スイッチが不適切にオンになったり、時計によって調節される生物学的プロセスがずれたりすることがあります。ヒトの腱では、この破壊は、異所性石灰化（カルシウム沈着の蓄積）、異常なコラーゲン原線維、腱の硬さによる可動性の低下など、時計のないマウスの腱で観察される症状に似ています。

なぜ腱障害が発症するのでしょうか？

損傷した腱における概日リズムの乱れの根底にあるメカニズムはまだ不明です。末梢概日リズムを持つ組織は、視交叉上核と呼ばれる脳の小さな領域にある中枢時計に依存しており、食事や運動などの外部時間の合図によって同期されます。これらの経路内の慢性的な混乱や組織内の同期メカニズムが潜在的な要因である可能性があります。

概日時計を使用した腱損傷の治療

私たちの研究結果は、腱の痛みや損傷を管理するための臨床介入の可能性を示唆しています。これらには、薬理学的アプローチによる概日リズムの回復や、慢性腱障害管理の現在の主な治療法である運動療法のタイミングの検討などが含まれます。