地上波テレビからスポーツ中継が消える日
2024年11月1日早朝、こんなニュースがスポーツニッポンから報じられた。
テレビ朝日が世界水泳の中継から撤退するというニュースだ。2001年からテレビ朝日系スポーツ中継の主力コンテンツとして長年中継したなかでこの記事だ。SNSにはそれを悲しむ様々な投稿がなされた。
公式発表でなく、スポニチも朝日新聞やテレビ朝日との関係は薄いため、信憑性は低く、飛ばし記事も最近野球を中心に多い。しかしながら、火がないところに煙は立たない。撤退については少なくとも検討はなされているだろう。
現に今年3月、40年以上続けてきたゴルフ・全英オープンの中継から撤退した。
撤退の理由としては視聴率や放送権料などの総合的理由としていた。
スポーツ中継は近年減少傾向にある。現に巨人戦中継はかつて毎日のように全国ネットで中継していたが、現在では年数回、それも週末のデーゲームが半数以上で関東ローカルの試合も多い。
一週間の番組表を見ても、プライムタイムに民放各局がスポーツ中継を行わない週も珍しくない。
スポーツ番組の視聴率も減少傾向だ。あくまで関東圏の話ではあるが、NPBの日本シリーズも視聴率は年々下がっており、平均視聴率が40%を超える年もあったが、近年は5%を切ることもある。Jリーグに至っては1%台のこともあった。
笹川スポーツ財団の調査によれば、テレビによるスポーツ観戦率は減少傾向にあり、2008年の94.6%から2022年では79%に下がった。
とはいえ、地方ではJリーグの視聴率が10%以上を獲得したり、日本シリーズでも2023年に関西圏で26%を獲得するなど、決して視聴率の問題ではないことは明らかだ。
近年ではプロスポーツそのものが地域密着を推し進めている。Jリーグは当初からそれを推進して、NPBも球界再編問題以降は地域密着を旗印にしているチームが多い。逆に言えば、読売巨人軍のような全国的な人気を誇るチームの人気が落ちてきたともいえよう。
現に人気のあるスポーツでも代表戦は視聴率が取れていることも多く、ここ数年のテレビ高視聴率ランキングの殆どはスポーツ中継だ。
スポーツ中継をすれば視聴率は取れる。
だが、その考えを壊すようなそれ以上の問題がある。放映権料の問題だ。
近年、スポーツ中継の放映権に対する料金は世界的に高騰している。
特に顕著なのはFIFAワールドカップだろう。
かつて、日本が初出場した1998年・フランス大会までは放映権料は5~6億円(NHKのみ)だった。しかし、2002年・日韓大会以降は放映権料は年々増え続け、2018年のカタール大会では各局合わせて600億円となり、特に日本戦や準決勝・決勝などを中継できない局にとっては痛い出費となっていた。
その高額な出費を嫌って、2022年カタール大会では2022年に入っても中継が確定せず、今年の中継は無いのではないか?という不安の声もあった。(結果、ABEMAとNHK、民放2局が計約200億円で放映権を獲得した。)
勿論、その波は単なるリーグ戦にも及んでいる。
欧州サッカーでは年々放映権料が増えており、プレミアリーグの2022年の各国すべて合わせた放映権収入は30億ユーロ、当時の日本円にして約4200億円。おそらく日本だけでも十数億円は動いているだろう。
もちろん、ゴールデンの視聴率は様々な面から期待できず、深夜放送で放送しようにもテレビ局の経費削減の波に押されている状況であり、各局が放映権の購入を回避し、スポーツニュースで他社の映像を借りるのみということも多くなった。
そうしているうちに、気がつけば日本の地上波から欧州サッカーの中継はほぼ消えた。
日本でもすでにこの高波はじわりじわりと押し寄せている。
サッカーではDAZNのJリーグ放映権の買収が記憶に新しい。これにより、衛星放送から中継が消え、テレビ中継は地上波(NHK)が週一回行う程度となった。
格闘技では、那須川天心対武尊戦というキックボクシング界での夢の一戦がテレビで放映される予定だった。しかし、直前に放映権料の折り合いがつかずにテレビ中継が消滅した。そこでPPVでの有料配信に舵を切ったところ、25億円もの配信収益を挙げた。
ここから一気に格闘技中継はPPVや配信にスイッチ。RIZINは1大会で10億円程度の配信収益を挙げることも珍しくない。格闘技界は地上波放送にサヨナラを言っていると言っても過言ではない。
テレビの勢いは年々ネットなどに押されているのは明らかだ。現にテレビの設置率は年々減っている。そんな中では広告料なども減ってコストもかけられない状況だ。
かつて、「テレビじゃ見れない川崎球場」なんてキャッチコピーがあったが、今の状況では「テレビじゃ見れないプロスポーツ」となる日も近い。
地上波テレビ放送の大衆性は他のコンテンツの追従を許さない。エンターテインメントとしては珍しい「公共財」としてのコンテンツを24時間365日発信し続けている。有料放送やいわゆるサブスクの「クラブ財」などが持つ排除性は一切ない。
誰もが同時になんの障壁もなく視聴できるサービスとして、スポーツもテレビと共にあった部分は大きい。かつての巨人軍・野球人気や各種スポーツのブームもそういったテレビのおかげである部分は大きい。
プロスポーツ側としてもここでサラバを突き付けるというのは寂しいが、これも宿命か。果たして10年後、我々ファンはどういった形でスポーツを見ているのだろうか?
参考文献
株式会社ビデオリサーチコミュニケーションズ:「過去の視聴率 プロ野球日本シリーズ 」,ビデオリサーチ,2024年,https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/sport/baseball/02/post-21.html(参照日:2024年12月1日)
株式会社ビデオリサーチコミュニケーションズ:「週刊リアルタイム視聴率ランキング VOL.8 2023年 2月13日(月)~2月19日(日)」,ビデオリサーチ,2023年,https://www.videor.co.jp/tvrating/2023/02/75002.html(参照日:2024年12月1日)
共同通信社:「繁栄支える巨額の放映権料、スタジアム転用や新ビジネスで収益源を多角化【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑨】」,47NEWS,2024年8月17日,https://nordot.app/1190590803354534210?c=39546741839462401(参照日:2024年12月1日)
文部科学省:「トップスポーツのさらなる拡大③ スポーツDX 事務局説明資料」,文部科学省,公開日不明,https://www.mext.go.jp/sports/content/20230323-spt_sposeisy-000028849_3.pdf(参照日:2024年12月1日)
不破雷蔵:「単身87.2%、二人以上95.1%…カラーテレビの普及率の現状をさぐる(2023年公開版)」,Yahoo!ニュース,2023年6月11日,https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/01de2e11f1f29ef1a64c0cb82e34e1bb5c06f764(参照日:2024年12月1日)