アリーナというビジネスチャンス① ~建設の理由~

近年、多くの都市でアリーナ建設計画が立ち上がっている。
ここ2〜3年だけでも佐賀、長崎、千葉などに新しい大型アリーナが落成した。何れもスポーツだけでなく、音楽ライブやMICEの集会に利用されている。

また、建設中のアリーナも多く、神戸、名古屋、お台場などでは現在建設工事が行われており、川崎などでも現在建設計画が進行している。

日本には古くから体育館が各地に存在しており、多くのスポーツをはじめとするイベントの殆どはそういった体育館で行われてきた。
では、アリーナと体育館にはどういった違いがあるのだろうか。
日本総合研究所の東一洋はこのように定義している。

「アリーナ」と「体育館」何が違うのでしょうか。「体育館を英語で言うとアリーナなのではないか」という声を多く聞きますが、「体育館」は「gymもしくはgymnasium」であり「運動するための施設」の意味合いが強いのです。一方、アリーナは施設形状(傾斜がある階段状の観客席に囲まれた空間)を指します。古来、闘技場・競技場・劇場などがアリーナに該当します。

日経BP総合研究所「新・公民連携最前線」|PPPまちづくりより
第10回 スポーツ・エンタメ施設(アリーナ)における「運営重視型PPP」の要諦
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/102700030/121300011/

体育館はスポーツをする場所として定義されている一方で、アリーナの定義は微妙だ。施設形状を指した言葉であるため、すり鉢状の観客席がある空間であれば、それはアリーナである。確かに、欧州のサッカー場は〇〇アリーナと名付けられるケースが多く、日本でもフクダ電子アリーナという名前のサッカー場が千葉にある。

逆に言えば、前述の定義さえ満たせばそれは全てアリーナである。そのため自由度はかなり高く、様々な形状なもの全てがアリーナであり、スポーツのみを念頭に置かなくても良いのである。
故に、スポーツをするに適したこじんまりとしたアリーナや音楽だけを目的とした音楽堂のようなアリーナ、果てはフットボールを開催できるような巨大なアリーナまで、アリーナは大小様々な種類がある。

基本的に、体育館は競技者のみを念頭に置いている。最前列の観客席からコートまで遠かったり、死角が多かったりすることもある。また、飲食店などの観客向けの施設もほとんどないことが多い。なお、床面は木材であることがほとんどで、他のイベント開催時は追加で養生している。

他方、アリーナは体育館と違って、競技者以外も念頭に置いて設計されていることが多い。観客席観客を楽しませる工夫が張り巡らせていることも多い。音響や映像装置は勿論のこと、飲食施設なども整っていることが多い。
また、スポーツイベント以外にもさまざまなイベントを行うため、可動式のステージや観客席を設けていることが多く、床面が音楽ライブなどに適したコンクリート製であることも多い。

つまり、アリーナは屋内で行われることは大体できる万能施設と言える。その上、ある一点に特化することも可能で、横浜のKアリーナは音楽や演劇をメインとしているなど、尖った機能を持つことも多い。

とはいえ、ここまで多くのアリーナの竣工や計画が進んでいるのは近年稀にみる異常事態であることには間違いない。大手ゼネコンは万博も重なって天手古舞だろう。
無論、何か理由があってこれだけ進んでいるのである。ここで、その理由をいくつか推察したい。

推察

各リーグのアリーナ基準の制定

バスケットボールリーグのB.LEAGUEは2021年より「B.革新」を掲げ、新たなリーグ構造を構築しようとしている。
そのような中で、新たに設置されるトップリーグ『B.LEAGUE PREMIER』に参加するためには、5000人以上を収容し、かつ条件を満たしたアリーナが求められた。5000人収容こそ多くの体育館が満たしていたが、VIP席の設置などの条件が重なるため、条件を満たすために改修してしまうと収容人数を大きく減らして対象外となるアリーナも多く、既存体育館の改修では太刀打ちできないものもあった。
そのような体育館を本拠地としているチームは行政やオーナー会社などの力を借りて大規模なアリーナを建築している。

さらに、バレーボールのSVリーグもホームアリーナ検査要項があり、2030年までに、5000人以上を収容しかつVIP席を設置し、常設の飲食店を設置するなどの条件を満たすアリーナを本拠地としなければならず、すでに一部のチームは行政と共同で新たなアリーナを計画している。

また、eスポーツも人気となっている。全国大会や国際大会では数千人の観衆を集めることもあり、一種の人気競技としての立場を確立している。無論、コンピューターやゲーム機を繋げる設備や試合の模様を映す大型ビジョンが必要であり、やはり既存の会場ではリソースが足りない。

このようなスポーツを取り巻く状況下で、新たなアリーナの需要が広がっている。

ここから先は

3,750字

¥ 110

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?