価値ある人生
「硬貨になりそこねたのさ」
アスファルトから突き出した鉄棒は、吐き捨てるように言った。
「オレの人生は硬貨にならなきゃダメだったんだ。
小さい頃からそう言われて育った。
硬貨になって人から人の手に渡り、日本中を飛び回る。
それが価値ある生き方だって教わった。
でも硬貨にもなれなかったし、ここじゃただの曲がった鉄棒だ。
もう生きてる意味も無い。」
鉄棒は話し終えると下を向いて黙ってしまった。
黄落の気配に夕暮れは早かった。
陽が陰りだすと、
アスファルトから突き出た、曲がった鉄棒に、
長旅に疲れたトンボがとまり、羽を休めた。
秋は終わりに近づき、北風はだんだんと冷たくなって来ていたが、
陽の光に熱せられた鉄棒は温かく、
トンボは心地よい時間を過ごした。
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