Before/After
原田マハ著『リボルバー』幻冬舎. 2021
人と人の関係性の不思議さ,多面性をとらえたミステリー。
読みごたえがありました。
パリのオークションに持ち込まれた「ただならぬもの」
それはゴッホの自殺に使われたもの?
そこでオークション会社オーナーは,「来歴(プロヴィナンス)こそが最大の価値を生む」と張り切ってしまう。
主人公の高遠冴は,ゴッホとゴーギャンを主軸に,博士論文執筆に挑む社会人院生。
前述のオークション社に勤務している。
冴は,フランス国立図書館Bnf(に隣接した芸術史研究所)でゴーギャンの史実を洗い出すため,文献調査する。
ある秘密を辿るにはゴーギャンの孫「X」の存在を特定する必要があったから。
>BnfのGallicaに何かと業務でお世話になっており,個人的に近くに感じ親近感がわいてしまう。
https://gallica.bnf.fr/accueil/fr/content/accueil-fr?mode=desktop
このタスクを冴は「文献沼にダイブしにいく」と表現する。修論の参考になる記述を求めて研究者や院生がダイブしてる現状と似てるかも…と。
思わずひとり突っ込みを入れてしまった。
“ゴッホとゴーギャンの緊密な関係性”が,冴という研究者の観点で追跡される。
たっぷりとした南仏とタヒチの風景描写が,ゆったりと著者原田マハの手で芳醇に織り込まれる。
ゴッホに負けず波乱万丈だったゴーギャンの人生は,サマセット・モームが
彼をモデルに『月と六ペンス』を書いて広く世に知られた,と。
研究者が行動分析することで画家の人生跡を追跡し,知見を得る。
ミルフィーユのような美しくも切実な研究背景をしっかりと,階層で折りなす。
物故画家の謎を呼ぶ謎に迫る。
最後まで読むと,「ひまわり」がもうひとつのモチーフであったことが
示される。
ひとつ。つけ加えてもいいですか?
とある経験。あるいは,ある人物との出会いと,その時が織りなす素晴らしい作用によって,人生がある意味Before/Afterのごとく違ってみえる事がある。
そんな風に影響を受けて、Afterの景色の見方や捉え方が変わってしまうことは,どなたにも起こり得るかもしれません。画家が異国の文化や人との出逢いにより、題材・画風に変化があったように。
各自がゆく道で、色合いが変わった景色を大切に行動に反映させ、活かすのか。
そのこたえは,タイムラグを経てゆっくりと,個々人の胸を染めるものかもしれません。それくらい、熟成の歳月が必要かと。