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学生トレーナーだからできたこと。ひとつのことに真摯に向き合うことで得た経験は必ず将来につながる
都築真珠
東京大学後期教養学部
東京大学ラクロス部 学生トレーナー
知識がなくても、一から学び、選手たちと共に前を向いて歩んでいく。
合唱部だった少女が学生トレーナーという仕事につき、初めて味わうスポーツの世界。大学に入学したときは将来の夢もやりたいこともなかったという都築真珠さんでしたが、「東京大学ラクロス部の学生トレーナーという役割を選び学んだことは、選手のサポートをするトレーナーという仕事の大切さと重要さ。そして、ひとつのことに打ち込み、真摯に向き合って取り組むことで得られる経験でした」という都築さん。学生トレーナーとして向き合った4年間を語っていただいた。
――東京大学ラクロス部の学生トレーナーとしてご活躍されている都築さんですが、ご自身はラクロスをしていた、というわけではないし、スポーツをずっとやっていたというわけではないと伺いました。
都築 真珠(以下、都築):はい、スポーツを部活動としてやってきた、というよりは、身体を動かすことは好きなので、いろいろなスポーツを軽く経験してきたというのが高校時代まででした。高校はインターナショナルスクールに通っていたのですが、そこでは合唱部でした。
――そんな都築さんがスポーツの世界に飛び込もうと思ったきっかけは何だったのですか。
都築:東京オリンピックのときに、イギリスのオリンピックチームにボランティアとして関わる機会をいただけました。そこで選手をサポートするのがすごく楽しいと感じたのです。選手の方々が集中力を切らさないために、裏方を担う方々も全力でサポートする。サポートする方々のプロフェッショナルな姿を見て、すごく格好いいと思ってマネージャーやトレーナーという仕事に興味を持ちました。
このタイミングで、選手をやっている友人から誘われてラクロスを観に行ったのですが、衝撃を受けたんです。本当に面白くて唯一無二のスポーツだと思って、絶対にこのスポーツに関わりたいと決めました。それが大学でラクロス部に入る大きなきっかけでした。
――どういう部分で唯一無二と感じられたのでしょうか。
都築:サッカーのコートサイズでバスケットボールみたいな試合展開を、野球みたいに行うスポーツだなと感じたんです。わかりにくいですね(笑)。
まず、プレー中のボール回しがすごく速い。それだけではなく、シュート時の時速は150キロ出る選手もいるくらいダイナミックです。フィールドはとても広いので、戦術も豊富にあって、試合展開もめまぐるしく変わるので、非常に見応えがある。次はどんな展開になるのか、どんなプレーが出てくるのか。とても見応えがあるスポーツです。
それに、サッカーほど戦術が出回っていないので、本当に何をしてくるのかがわからない未知の世界のところが大きい。いわゆるセオリーのようなものがありません。だからこそチームごとに個性も出やすいので、それもラクロスの面白いところだと思っています。
――なるほど。東京大学ラクロス部の選手をサポートする数ある役割の中で、トレーナーを選んだ理由は何だったのですか。
都築:父が大学生のときにバスケットボールをやっていて、鼻が折れたとか膝を故障したなどの話はずっと聞いて育ちました。祖母は医師でもあったので、ケガや故障に携わる機会が普段から多かったので、トレーナーという職業にはずっと興味がありました。
それだけではなくトレーニング自体にも興味がありましたので、ケアという意味でのトレーナーだけではなく、チームを高められるトレーニングを選手たちと一緒に考えて取り組んでいくことに魅力を感じたので、トレーナーを選択しました。
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――東京大学ラクロス部では、社会人トレーナーさんと一緒に、クロスを持たずに行うアジリティトレーニングや筋力トレーニングなどを行うフィールドトレーニングにも取り組んでいます。新しい取り組みをするときに、都築さんが気をつけていることなどはありますか。
都築:トレーニングの質を担保するためには、トレーニング中の雰囲気とか、集中できる環境を整えるなどもしなければなりません。そのために、選手が行うトレーニングを自分自身でもやってみる、ということを大事にしています。自分でやってみると、トレーナーに「このタイミングで声をかけてほしい」とか、「ここであと何秒とか伝えてほしい」、「このくらいの時間がいちばんキツいから励ます言葉がほしいな」とかが良くわかるのです。そういう部分を後輩のトレーナーとも研究して、トレーニング時の良い雰囲気づくりや仕切りの方法を学んでいます。
――選手たちからすれば、良い雰囲気で集中してトレーニングできるのはうれしいですね。都築さんは具体的にどうやって声をかけるのですか?
都築:私はケガをした選手のリハビリにつくことが多くあるのですが、選手たちの話をじっくりと聞き、必ず期待の言葉を伝えるようにしていました。たとえば骨折をした選手が『もう今シーズンはダメだな』と諦めていた時には、励ます言葉をかけるとか。反対に、チームの雰囲気が緩んでいるな、と感じたときには叱咤激励も込めて厳しい言葉をかけることもありますね。
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――声がけも大事な裏方の仕事ですね。お話を伺っていると、新しいことにチャレンジすることを楽しんでいらっしゃるように思えます。
都築:そうですね、新しいことに取り組むのが好きですね。ラクロス部でも、「コンディション管理」というシートを作成しました。選手の疲労度、睡眠時間、各部位の状態を毎日フォーム化して答えてもらうことをやってもらっています。そこで選手個々の小さな違和感をこちらが把握したり、疲労の溜まり具合などをチェックしたりして、未然にケガを防ぐ取り組みを始めました。
――ボディコンタクトもあるので、選手たちからすればありがたいですし、素晴らしい取り組みですね。
都築:あとは、新しい取り組みというわけではありませんが、後輩たちには『当たり前のことをできるようになろう』と伝えています。
――それはご自身の経験からですか?
都築:そうですね。スタッフというのはサポート役なので、自分の取り組みが目に見えてわかるわけではありません。なので、途中で辛くなったり苦しくなったりしてしまう子も多くなります。特に今シーズンは勝てない試合も多くて、スタッフも選手と同じように辛い日が多かったと思います。そういうなかでも、たとえば寝坊しない、体調に気をつけるといった、当たり前のことをしっかりやらないと、選手たちに迷惑がかかってしまう。私たちサポート役が気を抜いてしまうと、選手の体調や身体の変化などを見逃す可能性が生まれてしまいます。そういうときこそ、きっちりと指導者とコミュニケーションを取って、いつも以上に選手のコンディションに注意するようにしないといけません。
そして、時には選手をサポートしきった自分をしっかりと褒めてあげることが大切だと思っています。自分の働きを自分が認めてあげることが、また次に向けて頑張る原動力になりますから。
――大切なことですね。都築さんにとって、ラクロス部で過ごした4年間はどのような時間でしたか?
都築:スタッフではありながら、このチームで絶対に勝ちたい、という気持ちを持てたことが本当に幸せでした。もともと私はあまり感情の起伏がなかったのですが、大学に入ってラクロス部に携わるようになって、本当にいろいろな感情を味わうことができました。
たとえば去年は準決勝で負けたときだったり、今シーズンの入れ替え戦になったことが決まった試合では、初めて大泣きまでしてしまいました。選手たちと一緒に戦うという気持ちを持って過ごしてきたことで、本当にいろんな景色を見ることができて、いろいろな感情を感じられたことが本当にうれしかったですね。
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――ラクロスに出会って、本当にたくさんのことを経験されましたね。
都築:少し抽象的な話になってしまうのですが、人のためを考えたときに自分がどういう行動をしなければならないのか、を学ばせてもらいました。
たとえばですが、その人のことを本当に考えたならば、優しい言葉ばかりではなく、厳しい言葉をかけなければならないこともあります。それって、真正面から向き合わなければできないことだと思うのです。それもトレーナーという役職だからできたこと、学べたことだと思います。そしてこの理念というか、この4年間で得た価値観はずっと持っていたいというのがあります。
――最後になりますが、都築さんのようにチームをサポートする立場になりたい、そういう世界に飛び込みたいと思っている人たちに、何かメッセージがあればお願いできますか。
都築:そうですね。4年間やって思ったのは、本当に楽しかったな、ということばかりです。ケガや故障は、選手にとって辛いことですし、できることなら避けて通りたいことです。そこの自分の手で未然に防ぐことができたり、もし故障をしてもそこに寄り添ったりできる。その選手を復帰までサポートをして、また元気にプレーをしているところを見るとうれしくなりますよね。
だから、たとえばですけど、もしケガや故障で選手を続けられなくなったとしても、ぜひトレーナーなどのサポート役を経験してほしいのです。自分の経験は絶対に他の選手に対してもプラスの経験になると思うのです。
それに、私はまさに文化系の人間でしたが、スポーツに携わることでさまざまな感情を味わうことができました。これが青春というものなんだろうな、と。そういう気持ちで4年間を過ごせたのはとても貴重な経験でしたし、もし迷っている人がいるならば、絶対に良い経験になるのだから、ぜひスポーツの世界に飛び込んでもらいたいな、と強く思います。きっと将来につながる良い経験が待っているはずですから。
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――実感の伴うとても良いお話をありがとうございました。
<編集後記>
大学生として過ごす4年間は、気持ちも身体も子どもから大人に切り替わる期間だと感じています。都築さんのお話を伺いながら自分自身の大学生活を振り返ってみても、良いことも悪いことも含めて、本当にいろいろなことを経験できて、人として大きな成長ができたと感じています。それは、何かひとつのことに全力で向き合い、打ち込んできたからだと思います。それは選手だけではなく、トレーナーを始めとするサポートする役職の方々にとっても同じことが言えます。学生だけではありません。社会人になっても、都築さんのように何かに対して真摯に向き合い、全力で取り組むことできっと新しい世界が開けるのではないでしょうか。自分自身への自戒も込めて。
◇プロフィール◇
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都築真珠(つづき・まこと)
2003年7月5日生まれ。東京大学後期教養学部。6歳のときに父の仕事の関係でロンドンに移住。11歳で日本に戻り、18歳までブリティッシュスクールイン東京へ。高校時代にオリンピックに携わり、ボランティアでイギリスチームのサポートをしたことでスポーツの裏方に興味を持つ。東京大学進学後はラクロス部の学生トレーナーとして主にトレーニングの面でチームを支える。東京都出身。