スポーツドクターと考える、「傷害予防」と「パフォーマンスアップ」の両立。
今回は、ラグビートップリーグのNTTコミュニケーションズなどでチームドクターを務める、船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センターの星加昭太先生にお話をうかがいました。
星加先生は、「スポーツ医学検定」のMedical Advisory Boardも務めておられます。
<プロフィール>
星加昭太(ほしか・しょうた)。1977年生まれ。東京都清瀬市出身。琉球大学医学部医学科卒業。東京医科歯科大学大学院臨床解剖学分野修了(医学博士)。船橋整形外科病院スポーツ医学関節センター肩肘部門勤務。
スポーツドクターを目指したきっかけ
ーー こんにちは。今日はよろしくお願いします。さっそくですが、まずは星加先生が整形外科医になられたきっかけからおうかがいしてもよろしいでしょうか。
星加先生(以下、星):僕は、大学までサッカーをやっていました。自分がスポーツで「すごく大きなけがをした」という経験はないのですが、捻挫とかはよくありましたね。それでもともとは、トレーナーになりたいと思ってたんです。
ーー そうなんですね!なぜトレーナーを目指そうと思われたのでしょうか。
星:やっぱり、スポーツ現場に必要だと思ったんですよね。監督以外に、体のことをよく知っている人が必要だと。僕が学生だった20〜30年前は、今よりもっとそういう専門家がいなくて、けがしたときに誰に相談していいか本当にわからなかったし、実際誰もいなかった。
選手に寄り添える人になりたいと思ったので、トレーナーとか、通訳とか、色々考えたんです。「でも、やっぱり医師になりたい」という気持ちが強くて、そこからさらに浪人もしましたが、最終的に医学部に入りました。
ーー すごい熱意です。では、医師になったときから整形外科を志望されていて、今のようにスポーツドクターになられたんですね。医師になってから、スポーツ現場にはどのようにして出られるようになったのでしょうか。
星:最初の2年くらいは出れなかったのですが、当時の上の先生がみていたスポーツで、比較的けがが少ない現場から少しずつ行かせてもらうようになりました。いきなりラグビーとかに行っても、使い物になるかわらないですから。最初は体操などを見させてもらってたのですが、とても勉強になりました。
やっぱり現場では、下肢のけがが多いですね。体操の国際大会で、着地の際に「あ、これはがっつりACL切れたな」とひと目でわかる場面があったりとか。受傷現場を見ることは、普段の外来での診療でも非常に活かされました。
怪我の多い選手、少ない選手
ーー そこから徐々に、もともと好きだったサッカーや、けがの多いラグビーのチームドクターを務められるようになったというわけですね。
現在も星加先生はラグビーのトップリーグのチームでチームドクターをされておられますが、先生から見て、けがが多い選手と少ない選手の違いなどはありますでしょうか?
星:そうですね、けがが少ない選手は、やっぱり自分の身体のことをよくわかっているなと感じます。自分のことをよくわかっているから、けがのこともよくわかっているというか。
たとえばラグビーでは、いい選手ほど脳振盪が起こったあと、自らきちんと申告できる印象です。周りにも迷惑がかかったりもするから、「行けます!」「行きます!」とかじゃなくて・・・いけるときといけないときを、選手自身もきちんと判断できるというのはとても重要ですね。
「けがの予防」と「パフォーマンスアップ」
ーー 先生から見て、自分の身体の状態をちゃんと理解して判断できる選手のほうが、結果的に怪我や故障が少ないと感じるんですね。では、けがや故障を減らすために、何が大事だと考えますか?
星:やはり、選手やコーチが、けがについてよく知っておくことが大事ではないでしょうか。実際、けがの「予防」と「パフォーマンスアップ」は紙一重じゃないですか。
コーチが予防予防と、そればっかりになったらもちろんスポーツは面白くならないので、けがをせずにいかにパフォーマンスを向上させるか、そのギリギリをうまく攻めるのがトップアスリート、一流のコーチだと思います。そのためには、やっぱりけがについてある程度の知識・判断力を持つことが大事だと考えます。
トップリーグでプレーするような選手たちは、周りにメディカル専門のスタッフがいるから相談できるけど、たとえば中高生のアスリートが「腰が痛い」とか、「頭を強く打った」などというときに、ちゃんと病院に行かせてあげられるか?これには環境的な要因が大きいと思います。
高校生のラグビーの大会にドクターとして行ったりすると、選手がコンタクトしてふらふらしているのに、プレーを辞めさせない監督さんがいたりします。「他に出す選手がいない」など、いろいろな厳しい状況はあるのだと思いますが、似たような条件でも選手のけがをよくわかって判断をされる指導者の方もおられますから。
若いうちから、セルフケアの習慣を
ーー そうですね。「昔はこれくらいなんでもなかった」というような考え方の指導者も、残念ながらまだ多くおられると聞きます。そういった従来の考え方や価値観を、少しでもアップデートしてもらえるために「スポーツ医学検定」はどのように役立つでしょうか?
星:個人的には、「対象者をもっと下に」するのがいいのではないか、と思っています。具体的には、小・中・高校生ですね。
たとえば、近年盛んに行われている、「野球肘検診」とコラボしてみる、とか。小・中・高校生の選手が来ると、その保護者の方も多く来られることになります。まずはその世代の皆さんと保護者の方々に、よりわかりやすく、ためになる知識を広めたいですね。
星:また、自分でけがを予防できるように、ケアができるならそれが一番です。以前、U-16のサッカーに帯同したときに、選手がトレーナーさんに「マッサージしてほしい」と頼んでいたのですが、そのトレーナーの方は「こうやって、自分でやるんだよ」とセルフケアの方法を指導していました。このように、若いうちから「自分の身体は自分でケアするものだ」と教わることは、とても大事だと思います。
「スポーツ医学検定」を、自分の身体を勉強するツールに
ーー 本当にそうですね。若いうちから自分の身体の声に耳を傾けられると、年齢を重ねた後もさきほど先生がおっしゃった「けがが少ない選手」に成長していけるのかなと思います。
では、最後になりますが、星加先生がスポーツ医学検定に期待すること、あるいは実現してほしいことはありますか?
星:現場指導者や選手の保護者だけでなく、選手自ら、自分の身体を勉強するためのツールになってもらうとよいと思います。
自ら自分の身体を知り、自らを予防する。実際の現場で「障害予防」と「パフォーマンスの向上」が同時に行われることが、何よりよいと考えます。
その結果、スポーツ医学検定の必要性が、プロなどの選手個人から子供たち、そして指導者へと広がってもらえればと思っています。
ーー 星加先生、お忙しい中さまざまなお話をきかせていただき、ありがとうございました。
編集後記:
整形外科医として病院に勤務される傍ら、ラグビーやサッカーなど様々な競技、そして様々な年代/レベルのアスリートをサポートされてきたドクターの目線から、「けがの予防」をテーマにお話していただきました。
若いうちから自分の身体の声をしっかりと聞き、選手自身が体調やけがについて考えることができる土壌をつくるために、レベル別にステップアップしながら学べる『スポーツ医学検定』は、ぴったりのリソースだと思います。
(取材/文:Yuko Imanaka)
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