NCAAとオリンピックの関係:大学アスリートの国際舞台での活躍
7月24日から8月11日まで開催されたパリオリンピックでは、32競技329種目が行われ、アメリカ代表が金メダル40個、銀メダル44個、銅メダル43個を獲得し、メダル総数で全出場国中トップの成績を収めました。この成果には、NCAAに所属する、または過去に所属していた学生アスリートたちの活躍が大きく貢献しています。NCAAはアメリカ国内の大学スポーツを統括する組織で、加盟する1,200以上の大学と23の競技に、毎年4万人以上の学生アスリートが参加し、国内外で注目されるカレッジスポーツの舞台となっています。
このNCAAでの競技経験が、オリンピックに出場するアスリートたちにとって大きな支えとなっているのです。本記事では、NCAAがオリンピックにどのように貢献しているのか、またその仕組みがどのように次世代のトップアスリートを育成しているのかを探っていきます。
NCAAアスリートのオリンピックへの参加
今回開催されたパリオリンピックに出場した各国代表の中で、NCAAに現在所属している選手(current)、所属していて卒業した選手(former)、これから入学する予定の選手(incoming)は合計で約1,100名おり、そのうちアメリカ代表は385名だそうです。アメリカ代表選手団は合計592名の参加となったため、そのうち約65%がNCAAに所属していた、または所属する予定の選手であることがわかります。
また、この統計から約700名ほどの選手が、アメリカ国外の代表選手としてオリンピックに出場していることもわかります。
メダル獲得に関しても、パリオリンピックにアメリカ代表として出場したNCAA所属アスリートの大学別ランキングが発表されており、アメリカンフットボールやバスケットボールで有名な大学に限らず、特にマイナースポーツに力を入れている大学も上位にランクインしています。例えば、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などは、NCAA内でも競技に対する総合的な支援が充実しており、その結果がオリンピックでも実証されています。
NCAA出身のアスリートがオリンピックで大きな成功を収めていることは過去の例からも明らかです。例えば、元競泳選手のマイケル・フェルプス(ミシガン大学出身)はオリンピックで28個のメダルを獲得し、陸上のアリソン・フェリックス(USC出身)は7個の金メダルを手にしています。彼らはNCAAで培ったスキルと経験を活かし、世界舞台での活躍を果たしてきました。
このように、NCAAが学生アスリートに提供している支援が、競技面だけでなく学業や人格形成の側面でも彼らの成長を支えており、それが国際大会での成功に繋がっていると考えられます。NCAAの仕組みは、アスリートがスポーツだけでなく、広範な教育とサポートを受け、社会に出てからも多方面で活躍できる土台を築くものです。これは、アスリートが長期的に成功を収めるために欠かせない要素であり、オリンピックでもその成果が見られます。
NCAAの学生アスリートに対する支援
NCAAは、学生アスリートの支援において、単にスポーツ面での成長を促進するだけでなく、学生生活全体の充実を図るためのさまざまな取り組みを行っています。具体的には、人格形成支援、学業支援、キャリア支援、資金援助、そして保険制度の提供などを通じて、学生の安全確保と文武両道を実現するための仕組みを整えています。これにより、オリンピックで活躍できる人材の育成にも繋がっていると考えられます。
例えば、NCAA加盟校は毎年18万人以上の学生アスリートに約35億ドルのスポーツ奨学金を提供しており、さらにNCAAは、家族に不幸があった場合の飛行機代や冬用のコートの購入といった基本的な費用をサポートするため、8,700万ドルを超える学生支援基金を提供しています。また、学生アスリートは諮問委員会やカンファレンスを通じて意見を反映できる場があり、リーダーシッププログラムを通じて、自分たちの声を生かし変化をもたらす機会を得ています。
さらに、健康と保険の面でも、NCAAは脳震盪や薬物検査、精神衛生に関する研究を進め、学生アスリートがスポーツ中に負った重大なケガに対しても最大2,000万ドルの保険金を支給しています。加えて、ディビジョンIとIIの学校では、栄養士や医療専門家がサポートし、無制限の食事が提供されています。
こうした支援が学生アスリートの学業にも好影響を与えており、ディビジョンIでは卒業率が全学生の平均を上回っています。NCAAの学問改革により、2004年以降17,500人以上の元学生アスリートが学位を取得しています。
例えば、2023-24シーズンをルイジアナ州立大学(LSU)の女子バスケットボール部で過ごしたヘイリー・バン・リス選手は、今回のパリオリンピックで3×3バスケットボール女子アメリカ代表として銅メダルを獲得しました。彼女は学業にも優れており、2020年〜2023年の3年間、ルイビル大学に所属して学士号を取得、その後ルイジアナ州立大学に編入し1年間所属し、2024年8月に修士号を取得しています。オリンピックデビューとなった今回の大会での活躍をはじめ、今後の彼女の成長が期待されます。
NCAAには国外の選手も多く所属していますが、このような支援は国内の選手だけでなく、国外の選手も同様の対応が受けられます。奨学金の差はなく、同じチームに所属する選手と同様の対応が受け流ことができますし、また留学生としてのサポートプログラムも充実しており、学生アスリートとして、また留学生としても充実した支援が施されています。選手としての能力だけでなく、一定の成績を取ることが試合に出場できる条件となっていることもあり、このような支援があるのだと考えられます。
このように、NCAAは学生アスリートを単なるスポーツ選手として扱うのではなく、一人の学生、一人の若者としての成長を促すためのプログラムを大学に奨励・監修しており、非常に効果的な支援体制を築いています。
マイナースポーツの未来
パリオリンピックでは32競技が行われましたが、その半数以上が競技人口の少ない、いわゆるマイナースポーツです。一方で、NCAAではアメリカンフットボールなど収益性の高い競技を中心にカンファレンスの再編が進んでおり、その影響でPac-12は事実上消滅し、アメリカンフットボール以外の競技を支えていた状況が変化しています。カンファレンスの再編に関して詳しくはこちらで説明しています。
今回のパリ五輪でも、大学ごとの出場者数(現役・卒業生を含み、アメリカ以外の出場国も含む)では、スタンフォード大学が51人で1位、南カリフォルニア大学(USC)が44人で2位、カリフォルニア州立大学バークレー校(Cal)が39人で5位となっています。これらの大学はPac-12に所属しており、マイナースポーツが盛んな大学です。そのため、先ほどご紹介した表からPac-12に所属している大学がメダル獲得に大きく貢献していることがわかります。
しかし、カンファレンス再編によって、大学の部活動が存在しても所属カンファレンスがなくなり、競技活動の継続が困難になるケースも増えています。とりわけ、Pac-12の崩壊によって影響を受ける競技は少なくありません。スタンフォード大学はBig 12へ、南カリフォルニア大学はBig Ten、カリフォルニア大学バークレー校はACCへと、いずれもPac-12から出ていくことが確定しており、また、次の加盟先ではマイナースポーツが取り扱われていません。
これまでの記事でも紹介してきた通り、NCAAにはさまざまな批判がある一方で、マイナースポーツを支える仕組みが存在しており、それがオリンピックでの成果に繋がっていることは事実です。
最後に
NCAAはオリンピックをはじめとする国際舞台で活躍するアスリートの育成において重要な役を担っています。一方で、現在起きているカンファレンスの再編や資金の集中によってカレッジスポーツの構造が大きく変わりつつあり、特にアメリカンフットボールやバスケットボールといった収益性の高い競技が優先される中、マイナースポーツの未来に対する懸念が高まっています。これらの競技はオリンピックでも重要な役割を果たしており、NCAAが引き続きマイナースポーツを支援できるかどうかは、今後のスポーツ界全体に大きな影響を与えると思いますので、これからも注目していきたいと思います。