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北米の女子プロアイスホッケーリーグ『PWHL』が人気急拡大 躍進の2年目に向けた動きに注目

本noteでは、これまで北米の女子プロアイスホッケーリーグ「PWHL」や、北米4大スポーツのうちの一つとも言われる「NHL」をテーマにアイスホッケーに関する記事を公開してきました。
今回は、2シーズン目を迎え非常に勢いがあるPWHLについて、昨シーズンの振り返りと2シーズン目への展望について紹介していきます。

参考記事①
「紆余曲折を経て誕生した女子アイスホッケーのプロリーグ、PWHLの成り立ちに迫る」
参考記事②
「『冬の祭典NHLオールスター』20以上の企業が参加するユニークな取り組み」
参考記事③
「氷上の格闘技、NHLのトレンドに迫る


怒涛の1シーズン目を終えたPWHL


過去の記事でご紹介をした通り、不安定な体制で連盟と選手間での軋轢が生まれていた北米の女子プロアイスホッケー界。プロ女子ホッケー選手協会(PWHPA)が設立されたものの、試合が開催されないなどの事態もありましたが、ウォルターオーナーによるガバナンス改革の結果、2024年1月に PWHLとなって新たなリーグが開幕しました。そして、5月末にオーナーの名を冠したウォルターカップの開催をもって1シーズン目を終えています。

リーグの基礎情報と1シーズン目の興行成績について、下記に簡単にまとめました。


PWHLリーグ基本情報
PWHLシーズン初年度の数値

わずか6ヶ月の準備期間の中、アメリカとカナダの2か国で興行を開催し、そしてやり切ったことは非常に特筆すべきことと言えるでしょう。SBJの記事によると、PWHLの職員は全6チームの職員を含めて総勢200人程度おり、好カードの際にはリーグ主導でより集客が見込める試合会場への調整なども行われたとのことです。

初年度から収益面が好調

興行として一定の成果を残したPWHLは、営業活動も順調でした。
シーズン開幕当初はいわゆる既存のスポンサー企業のみだったところから、シーズン中に相次いでアストラゼネカ社(製薬メーカー)の喘息治療薬・AIRSUPRAブランドやマテル社(玩具メーカー)の人形・バービーブランドとのパートナーシップを締結しました。

チケット事業やスポンサー事業がPWHL全体の事業に好影響を及ぼし、収入面ではかなり前倒しの計画で進んでいるとリーグ幹部が明言するほどのようです。

見えてきた課題

一方、メディア配信事業については、課題が残る初年度となりました。これまで述べてきたチケット、スポンサー事業は出だし好調でしたが、メディア配信事業は赤字となっています。新リーグの立ち上げということで、まずは視聴者層の拡大を目的にリーグが全ての配信制作費を負担し、アメリカとカナダの二か国での配信を開始しました。

PWHLの配信先

他のスポーツやエンタメと同じ土俵に並んで戦わなければならないメディア配信事業では、赤字状態から黒字化までの道のりは非常に厳しく、PWHLの担当役員はPWHLとしてメディア価値を向上させ、放映権収入を得ながらの放送になるにはもう少し時間がかかるという見通しをしており、今後の大きな動きには要注目です。

ついに6チームのプロパティが決定

1シーズン目は準備期間の問題等があり、PWHL所属の6チームには地域名しか無く、チームのロゴも存在しないという異例の状態でシーズンを終えました。
チームアイデンティティの醸成やグッズ等への展開といった影響もある中で、2シーズン目の開幕を前にしてようやく6チームのロゴとエンブレムが制定されました。また、このタイミングで地域名のみだった呼称にチーム名が加わり、大きな転換を迎えています。
「アメリカとカナダそれぞれで商標登録できるチーム名」といった条件をクリアする必要があるなど両国にフランチャイズを持つPWHLならではの問題もあったようで、非常にユニークなケースと言えるでしょう。

ゲームの世界にPWHLが進出

PWHLの2シーズン目の開幕まで残り1ヶ月と少しに迫った12月上旬にビッグニュースが飛び込んできました。世界的にも有名なシリーズをいくつも世に送り込んでいるEA SPORTSから発売されるNHLの2025シーズン版のゲームにPWHLの全6チームと所属選手が収録されることとなりました。
EA NHLには年間330万人のプレーヤーがいると言われており、PWHLの知名度向上と人気拡大の大きなキッカケになる事は間違いないでしょう。
このビッグニュースは単なるゲームの世界に進出といった面だけではなく、経営面ではライセンス収入の獲得に伴うリーグ基盤の安定化をもたらし、ブランディングの観点では、2シーズン目から新たに制定されたチーム名や所属選手の認知度の向上につながり、競技普及の観点では女性スポーツの身近化と、複合的な好影響をもたらすビッグディールだったのではないかと考えられます。

著者自身も幼少期にゲームでチームや選手の名前を覚え、そこから興味を持つようになって試合会場やテレビ越しに応援をするといったサイクルを経験しており、好循環が期待されることでしょう。

急成長続く新興リーグのこの先は

先ほどのEA SPORTS NHLのX投稿で使用されている画像には、ちょうど数ヶ月前に制定されたチームロゴが右上に配置され、3人の選手のホッケーシャツにもしっかりとチームロゴが入った状態でキービジュアルとして仕上がっています。1年目から2年目にかけて課題であった部分を少しずつ潰しながら更なる飛躍への仕掛けを進めていく様子は見事と言えます。
また、1シーズン目に課題となっていたメディア配信事業では、Amazon Prime Videoがカナダでの配信事業者として新たに加わるなど、PWHLの職員が激動の1シーズンを終えて安堵する事なく、2シーズン目に向けて精力的に活動を行い続けていたことが窺い知れます。

2024年の秋にはカナダ国内の世論調査で名だたるグローバル企業を抑えて、“最も信頼され、評判の高い”組織としてトップの座を獲得したPWHL。

PWHLは女子プロスポーツ界、北米のプロスポーツ界でどのような発展を見せるのでしょうか。今後も目が離せません。


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