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スポーツの社会価値におけるSROIの考え方について

「スポーツビジネス」という言葉が少しずつ市民権を得てきた近年。プロ野球をはじめ様々なスポーツ団体がスポーツの持つ「価値」を活用して収益を生み出しています。
1980年代はメディアを起点としたビジネスモデル、2000年代は球団・球場の一体経営、そして現在はスポーツの価値と他産業の価値を掛け算すること、すなわち「スポーツを活用する」方向にシフトしています。
「スポーツは社会性、公共性があっていいよね!」という話はよく耳にしますが、スポーツがあることやその事業によって社会に対しどれくらい貢献しているかを測りにくい点が課題となります。

今回は社会に対する貢献度の測定手法の一つである「SROI(Social Return on Investment)」について、ご紹介したいと思います。


SROIとは

SROIとはSocial Return on Investment=社会的投資収益率と訳され、社会的活動を行う組織において、成果及び業績を数量化して測定する指標の一つです。

▼SROIの計算式
社会的投資収益率(%)=
アウトカムの貨幣価値換算価額の合計÷インプットの貨幣価値換算価額の合計

【アウトカムの貨幣価値換算価額の合計】
測定事業において、仕事が生まれ就労者が獲得した賃金や、健康状態の改善による社会保障費や医療費の削減等の合計額

【インプットの貨幣価値換算価額の合計】
測定事業において必要な人件費やボランティアの労働時間の価値換算額等の必要となった経費の合計額

SROIの特長としては、3つ挙げられます。
社会的価値の貨幣価値化
従来のままでは貨幣価値として捉えにくかった社会的価値についても、「代理指標」を用いて貨幣価値化することで、社会的価値を含めた形で事業のパフォーマンスを把握できるようになります。

ステークホルダーにもたらされた価値の可視化
事業によって創出された価値について、事業の直接の対象者(例えばサービスの利用者)のみならず、事業に関わるステークホルダーにもたらされた価値についても明らかにします。これにより、事業がもたらした価値をより広く捉えることが可能になります。

参加型評価のフレームワーク
SROIは分析の課程に事業の直接の対象者を中心としたステークホルダーを参画させることで、分析結果の妥当性を高めます。これにはまた、各ステークホルダーにおいて、結果に対する納得感を高めたり、事業の価値の再認識につなげる意味もあります。その結果として、出資者や協働事業者、そして事業スタッフらの更なる事業への貢献につながるなどの効果も期待できます。

上記の通り、SROIは社会的活動を貨幣価値換算し、実際に投資した金額に見合った活動が実施できているかを測定する一つの指標です。企業によっても採用の要否はあると思いますが、活動の継続判断等に用いられるケースもあります。
例えば、スポンサーをする企業の立場、またはチームやリーグなどコンテンツホルダーとして営業する立場ですと、「社会的にいい活動はしているが、なかなか価値を伝えることができない」というケースに直面することがあります。定量的な根拠をもって社内外に説明が必要な場合、SROIは説明材料になる可能性を秘めています。


SROIの歴史

SROIは1997年から1999年にかけて、米国RobertsEnterprise Development Fund(REDF)によって開発されました。開発時は大きな注目を集めながらも、REDFのSROI活用は中止。理由としては、SROI評価の測定のためには様々な活動についての定量化されたデータが必要であり、そのデータ収集のための工数が、非営利組織の大きな負担になり実用的ではないことが挙げられます。
動きがあったのは2009年。英国とスコットランドが政府主導でSROIプロジェクトを推進し、運用ガイドラインが策定されました。
また、2013年には政府の業務委託事業についてはSROIでの報告が必須となるなど、国を挙げてSROI推進が進み始めます。

運用ガイドライン:http://www.socialvaluelab.org.uk/wp-content/uploads/2016/09/SROI-a-guide-to-social-return-on-investment.pdf


ヨーロッパスポーツでのSROI活用事例

SROIの推進が進み、以降はスポーツでも活用されてきました。
欧州サッカー連盟(UEFA)は草サッカーが社会にもたらす価値についてSROIを活用した調査を実施しています。UEFAに加盟しているサッカー協会の内、7つがUEFA GROW SROI プログラムに参加しており、スコットランドサッカー協会もその一つです。スコットランドにおける草サッカーの直接的な経済効果は2億2,700万ユーロ以上、社会的利益は3億4,000万ユーロ以上、予防医療支出は7億9,400万ユーロ効果があると試算しています。

また、2020年にはイングランドのシェフィールド・ハラム大学での研究で地域スポーツや身体活動への投資は4倍のメリットがあると発表をしています。


日本におけるSROIの活用事例

日本でもスポーツではありませんが、厚生労働省主導で複数のSROIを活用した事業評価が行われています。初めて活用された事例は、高齢者向けのセーフ ティネット支援対策事業「安心生活創造事業」 について、野村総合研究所がその効果測定のための手法開発を受託し、日本で初めてSROIを活用して評価を実施したものになります。

▼野村総合研究所:セーフ ティネット支援対策事業「安心生活創造事業」https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/social_security/20150422-2_report.pdf?la=ja-JP&hash=EF67F523AEA7D588A0EFA2B36C006D705A8CBD3A

このように、SROIは欧州が発祥のイメージもありますが、発祥は米国で、発展させたのは欧州ということです。また、日本でも10年前から実施されるケースが増え、スポーツでの活用のみならず、様々な事業で活用されていることがわかります。
また、ガイドラインでも定められていますが、SROIは測定プロセスの中に必須項目として参加したステークホルダーへのヒアリングが定められています。測定プロセス、分析項目を設定することが非常に重要であり、結果については、この測定範囲や定義が結果にも大きく影響することが伺えます。


日本スポーツ界におけるSROIの活用事例

下記は、Bリーグオールスターゲームの社会的価値(効果)としてSROIを活用した事例です


オールスターの試合に紐つく子供たちや地域への活動、まさに「いい活動」を可視化したレポートです。
Bリーグオールスターも試合の価値はもちろん、オールスター前後を活用したお祭り感、地域の活性化等、興行自体も素晴らしく、スポーツを活用することが詰まった内容となっています。
スポーツのSROI活用時には営業収入や露出価値換算も数値に含められるケースも多くありますが、今回の報告書の定義としては、この点を含めず、あくまで社会的価値にフォーカスし、社会的価値の定義に関しても明確に定められわかりやすい一例となっています。
このようにオールスターゲームだけの価値ではなく、社会的に意義のあるもの、と認められれば、次回以降のオールスターに関わりたい企業や団体は増加すると思われます。


最後に

今回はSROIの基礎的な内容と事例をご紹介させていただきました。
スポーツを活用する、ということの定量化は今後他産業のスポーツへの関わりを促進する非常に重要なポイントだと感じます。SROIはあくまで一つの手法であり、全てを網羅している分けではありませんが、今後も注目していきたいと思います。
次回以降は海外スポーツでのSROI評価事例を詳しく見ていきたいと思います。

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