スポーツにおけるSROI測定海外事例について
以前ご紹介したSROIの活用について、今回は海外の事例を中心にご紹介していきたいと思います!
前回は、そもそもSROIとは何か、SROIはどこから始まりどのように発展してきたのかについて、歴史的にご紹介しました。
今回はヨーロッパを中心に発展している背景を踏まえ、オランダの活用事例から考察を含めてご紹介します。
オランダのスポーツについて
オランダはスポーツがとても盛んな国で、サッカーや自転車競技、ホッケーなど多くのスポーツが親しみを持たれています。約1,700万人の国民のうち、約500万人が何らかのスポーツ団体に所属しているほどです。東京五輪でも36個のメダルを獲得しており、近年は競技レベルの高さも上がって来ているスポーツ大国の一つです。
オランダスポーツのSROI調査
このスポーツ大国オランダでは、SROIを活用し国をあげてスポーツのもたらす効果を検証しています。今回も政策がどのような効果をもたらしたのか、という観点でスポーツナレッジセンターがミュリエ研究所に委託し、本レポートが発表されました。
ミュリエ研究所とは、2002 年に設立、オランダ唯一の独立した非営利のスポーツ研究機関です。スポーツナレッジセンターは調査をミュリエ研究所に委託し、2019年6月19日にオランダ・ユトレヒトで開催されたスポーツ・自治体協会の会議中に、スポーツナレッジセンターのカリン・ファン・デル・マート氏によって発表されました。
このレポートより抜粋し、3つの項目についてご紹介します。
➀スポーツのもたらす社会的メリット
この調査では、健康、社会、労働と3つの項目において、スポーツがもたらすメリットを調査しています。調査結果からはそれぞれにメリットがあったと記載されています。
例えば、健康面では、スポーツ実施者の健康について、各カテゴリー(5歳~24歳、
25歳~64歳、65歳以上)の糖尿病、結腸がん、乳がん、うつ病、認知症、脳卒中などの病気のリスクが軽減。医療費の 負担が軽減されるとされており、健康面でのメリットが証明され、レポートでは金額換算もされています。
➁オランダ国内の社会的投資効果
オランダ国内のスポーツに関する総支出(政府、オランダオリンピック委員会・スポーツ連合、地⽅⾃治体、企業、スポーツ団体が負担するすべての費⽤の合計)は約44億ユーロとされています。対して社会的利益は約110億ユーロと計算、社会的投資収益率は2.5倍と測定されています。
支出の最も大きな項目はフィットネス等を実施することが可能なジムの建設・運営にかかる費用で、健康面のリターンが最も大きいとされています。
③特長的な調査結果について
・年代別の費用対効果
このレポートで特長的な結果として、年代によりスポーツを実施したことに対するリターンの大きさに顕著な差が出ている点が挙げられます。
【年代別の社会的利益】
年齢が上がると、社会的利益は上がっていることがわかります。
健康に対する影響が大きなことも起因していると考えられますが、レポート内では健康面に加えて、新たなコミュニケーション・コミュニティの醸成による孤独死の回避や精神的な幸福感の醸成もあげられており、スポーツを通じた繋がりが大きな要因とされています。
高齢者が健康になることで、年金等は増加しますが、その点を差し引いても社会保障費が削減されることや、高年齢者が労働への参画、新たなコミュニティで活動し、消費を行うことでの社会的メリットの方が大きいと記載されていることも非常にポジティブに捉えられるポイントだと感じます。
上記のようにSROIを活用した調査で定量的に示すことができるという点で効果があるものだと改めて感じました。
・費用対効果が高い地域の特長
調査では地域別に費用対効果を計測しており、高い効果が出ている地域の特長として、スポーツへの投資が豊富であること、スポーツ促進の施策が戦略的に計画されていること、特に施設に投資していることが挙げられます。
オランダでは近年、年齢が上がるにつれて、個人スポーツ(サイクリングやランニング)を行うようになる傾向があるようですが、若年層は集団でスポーツに取り組む傾向があり、若年層のスポーツ実施を促進するためには集団でスポーツをできる環境を整えることが必要とレポートでは訴えています。
例えば、小学校から1㎞以内に体育館を設置しなければならないという条例もあり、施設への投資が地域のスポーツを盛んにする要因と分析されています。
今回の調査結果を通じたまとめ
ご紹介した調査結果は日本においても活用できるポイントが多くあります。
今後、日本は高齢化社会が更に加速されると言われており、若者の年金負担も問題視されています。今回の調査結果から、社会保障費削減のためにはスポーツが非常に効果的であると言えると思います。また、特に高年齢者のスポーツ参画が大きな社会的効果をもたらすと考えると、行政をはじめ、スポーツ環境の整備が社会問題の解決の一助になると考えられます。
また、日本でもスタジアム・アリーナの建設が盛んになっており、多くのスポーツ競技団体が行政と手を組み、魅力ある施設を建設しています。しかしながら日本のスタジアム・アリーナは、基本的に観る施設として建設されていることが多く、オランダの事例から見るように若年層のスポーツへの取り組みを加速するためには、スポーツをする施設(気軽にスポーツをするために利用できる施設)が必要になってくると考えられます。
大きな施設だけでなく、小さくても住民が活用しやすく、愛される施設が増えてくるとスポーツの実施率向上にも繋がると思います。
今回のレポートを通じて、SROIを活用した分析により見えてくる課題や、効果を的確に捉え、何を目的にこの結果を活用して行くかが重要であると改めて気付かされました。
レポートに記述されているとおり、効果測定により結果として数字は出ますが、その数字を読み解き、施策に活かすためにSROIは効果的とされています。
今後日本でもSROIを活用し、様々な戦略や施策に活かされることを期待したいと思います!