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ロサンゼルスに誕生した2つのランドマーク①:Intuit Dome

4年後に3度目の夏季オリンピックを控えるロサンゼルスに、今年2つの新たな施設が誕生しました。1つはNBAに所属するロサンゼルス・クリッパーズの本拠地であり、オリンピック時のバスケットボール会場にも決まったIntuit Dome、そしてもう1つが新たなジャンルのエンターテインメント施設としてデビューしたCosmです。スポーツビジネス界で注目を集めているこの2施設のうち、今回はIntuit Domeについて概要のご紹介とともに実際に現地で体感した様子をお届けします。


オーナー:スティーブ・バルマーが目指したアリーナ

名称:Intuit Dome(インテュイット・ドーム)
収容人数:18,000
チーム:ロサンゼルス・クリッパーズ
開業:2024年8月15日
建設費:20億ドル

ロサンゼルス・クリッパーズのオーナーであるスティーブ・バルマーは、2014年に当時NBA史上最高額となる20億ドルでクラブを買収しました。バルマーはマイクロソフトの30人目の社員であり、かつ創業者ビル・ゲイツの後任として14年間CEOを務めた人物で、その資産はなんと1,210億ドルと言われ、2024年時点で世界で最も裕福なスポーツチームオーナーに選ばれています。

またバルマーはお金持ちというだけではなく大のNBA好きで、オーナー業に集中するためにマイクロソフトの取締役をすぐに辞め、試合中にはコートサイドでファンと一緒に感情を爆発させるほど熱狂的な人物。クリッパーズ(つまりオーナであるバルマー)が100%資金を拠出して建設したIntuit Domeは、その彼の思想を色濃く反映し、いかに熱狂的なファンが試合に集中して応援することができる環境を作るか、そしてそれによってチームが勝てるようにするか、という思想に偏った、例を見ないアリーナになりました。

熱狂的なファンだけが入ることのできる”The Wall”

上記Xの投稿でバルマーが立っているのが、The Wallと呼ばれるクリッパーズファン専用のエリアです。これはアウェイチームベンチ側のエンド裏に設置されており、間にボックスルームがある他の場所と違い、まるで壁のように観客席が反り立っています。これは熱狂的なファンで知られるブンデスリーガ所属ボルシア・ドルトムントのゴール裏をイメージして作られており、アウェイチームに圧力をかけるためにこの場所に作られています。アメリカの4大スポーツというと、もちろん熱狂的なファンもいるものの、どちらかというとエンターテインメントとしてスポーツを楽しむ来場者が多い印象がありますが、ここではチームを全力で応援する場所が作られているのです。

コートサイドから見るThe Wallの圧迫感(動画の最終盤に見えます)

このThe Wallのチケットを購入するためには、クリッパーズのファンであることを証明しなければなりません。アウェイチームのユニフォームを着ている場合入場できないというだけでなく、事前にオンラインでクリッパーズのギアを着た服装をアップロードしたりニュースレターに登録したりすることで、承認を得なければならないのです。さらにシーズンシート購入には面接まで必要になりますが、その分他の座席に比べて非常に安い価格で購入することができます。

またThe Wallとは別の話になりますが、このアリーナの特徴の1つにサイネージの少なさがあります。アメリカのスタジアムやアリーナといえばコンコースやラウンジ・バーエリアにもたくさんのサイネージがあり、どこにいても試合の様子を知ることができるようにしていることが常ですが、Intuit Domeでは試合映像の代わりに試合の残り時間や試合開始までの時間だけを表示しています。徹底して応援させたいアリーナなのです。

試合の残り時間だけがサイネージに表示されています

待機列を作らない”GameFace ID”

クリッパーズの試合やそれ以外を含め、Intuit Domeで試合を観るときには必ずアリーナアプリをダウンロードしてチケットを登録することが求められます。さらに自分の顔を登録してGameFace IDを作成したり、クレジットカード情報を登録したりすることで、チケットを提示せずに顔パスでアリーナに入場し、売店でグッズや飲食を購入することができるようになります。

これは、バルマーがアリーナを建てる際、選手やファンがアリーナに求めるものを聞いた際「列に並びたくない」と言われたことから導入された仕組みです。すべての売店には写真のようなゲートが設置されており、入場時に顔を認証するとその後はほしいものを手にとってゲートを出るだけで自動決済されます。会場ではまだ慣れていない人も多く、ゲートの前で手間取っている観客も多くいましたが、認証自体は2-3秒で完了するためまさに待機列ゼロを目指せる技術です。

右側の丸い画面の上にカメラがついており、認証されるとゲートが開きます

最初に使ったときはまるで万引きをしてしまったかのような緊張感があるのですが、アプリで確認するとその使用履歴を確認することができます。余談ではありますが、筆者が訪問した際に後日アプリを確認すると、購入した覚えのない購入履歴がありました。返金依頼をするとすぐに返金されましたが、まだ技術的な課題は残っているようです。

天井に設置された大量のカメラが、ゲート入場後の動きを追っています

”Halo Board”と一体感を高める演出

座席からコートを見ると圧倒的な存在感を示すのが、Intuit Domeのメインビジョンである”Halo Board”です。アリーナ上部に設置され表裏両方に表示されるこのビジョンは、総面積が3,565.2㎡(バスケットコート約8.4面分、東京ドームメインビジョンの約3.4倍)という想像を超える規模感になっています。同じエリアにあるNFLのホームスタジアムであるSoFi Stadiumと同様の形状ですが、規模の小さいアリーナにあることでより印象に残ります。

やはりビジョンが大きいため載せられる情報量が非常に多く、点数だけでなく試合のスタッツやリプレイ映像などが効果的に表示されている印象でした。映像も非常にクリアで、これもスタジアムと比べたアリーナの利点だと思います。

どこの座席からでもしっかりと情報を得ることができます

また、こちらもこれまでのスポーツ施設では考えられなかったことですが、Intuit Domeでは価格を問わずすべての座席に電源が設置されています。そのため、スマートフォンを充電しながら試合を観戦することができ、さらに参加型ゲームで使用するボタンまでついています。(設置費用だけでなく光熱費もかかる仕掛けなので、なかなか他の施設では導入できそうにありません。

座席の肘掛けにつけられたボタン・ライト・電源

コート側に設置された白い部分はライトになっており、音楽に合わせて光ることで一体感のある演出を作り上げています。これはコンサートなどで見られるペンライトをイメージしたものだそうで、使い捨てされるのはサステナビリティの観点で適切ではないから取り付けた、とのことでした。

座席ライトが効果的に使われていました

最後に

今回はIntuit Domeについて、その他に見られない特徴から3点をご紹介しました。スティーブ・バルマーのブレない思想に基づいて構想し、建てられたアリーナであることを感じていただけたかと思います。記事中で関係者が「決して収益性を高める造りではない、今のトレンドと逆行する部分もある」と語っている通りだと思いますが、ファンはきっと通いたくなってしまうアリーナなのだと思います。

もう1つのランドマークであるCosmについては、また次の機会にご紹介します。


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