見出し画像

世界のゴルフツアー団体が統合!? プロゴルフ業界の現状について

先月10月24日~27日にかけて、PGA TOURとZOZOが主催するZOZO CHAMPIONSHIPが日本で開催されました。パリ五輪でメダルを獲得した松山英樹選手の凱旋試合ということもあり、日本でも多くの観客が詰めかけ、盛り上がりを見せました。ゴルフ大会は日本でも男女共に人気の競技であり、国際的にも様々な国で大会が開催されています。しかしながら、様々な大会が乱立している関係もあり、各団体がどの大会を開催し、選手はどのようにその大会に参加しているのか、非常にわかりにくい面があります。今回はゴルフ界の情勢についてご紹介します。


タイガーウッズも参戦したZOZOチャンピオンシップ

先月開催されたZOZOチャンピオンシップは、今大会で6回目の開催を迎えました。コロナの影響で2020年はアメリカ開催となりましたが、それ以外はすべて日本での開催です。本大会はPGA TOURとZOZOが共催しており、賞金総額は約13億円と日本ツアーと比較すると非常に大きな大会と言えます。2019年の第1回大会には、タイガーウッズ選手やローリーマキロイ選手など、ゴルフ界を代表するスーパースターに加え、松山英樹選手等日本人選手も参戦していました。

※2021年大会で優勝した松山英樹選手

※2024年大会で優勝したニコ・エチャバリア選手

▼ZOZOチャンピオンシップと日本ツアーの賞金比較

※JGTO公式サイト参照(https://www.jgto.org/tournament?&tourna_kbn_id=1) 筆者作成

今大会は4日間を通じて、37,069名が来場。日本ツアーの平均10,939名(2023年)と比較しても3倍以上の来場者で、出場する選手が世界トップレベルということもあり、多くの方が詰めかけました。松山英樹選手は2014年からPGA TOURに参戦し、2021年大会では優勝を記録しています。

世界のゴルフ団体について

世界にはいくつものゴルフ団体があり、他競技の協会、リーグなどの役割を担う組織が複数あります。今回ZOZO CHAMPIONSHIPを主催したPGA TOURもその一つで、全米ゴルフ協会(USGA)から独立した組織として、アメリカ合衆国及び北米における男子プロゴルフツアーを運営する団体、およびこの団体が運営するツアートーナメントを指します。あくまで世界のゴルフツアー団体の一つです。下記の通り世界にはいくつものゴルフ団体があります。

世界のゴルフ団体 ※筆者作成

ゴルフ界は完全に統一された団体はありませんが、世界ゴルフ連盟(IGF)がその役割を担っています。IGFの中は、ナショナルメンバーとプロフェッショナルメンバーの2つで構成されています。
ナショナルメンバーは、主に各国を統括するゴルフ団体(NF=National Federation)と呼ばれる組織が加盟しています。プロフェッショナルメンバーは主にツアーを運営する団体が加盟しています。
ゴルフ界の構成がわかりにくい理由としては、4大大会の主催者がそれぞれ異なり、出場資格も大会ごとに違うことや、同じ国の中にもいくつかの組織があり、それぞれの役割は違うものの同じような名前の大会が開催されていることが挙げられます。
これは世界のゴルフ団体だけでなく、日本国内にも大会を開催する団体は男女合わせて4つ存在します。

日本のゴルフ団体 ※筆者作成

ゴルフ世界ランキングについて

世界ランキングの算出方法を見てもゴルフ界の複雑さが伺えます。
例えばテニスは、男子はATP、女子はWTAがツアー大会を管理しており、4大大会はすべてITFが管理しているシンプルな状況です。世界ランキングはATP、WTAのポイント獲得ランキングがそのまま世界ランキングになり、4大大会への出場資格は男子であれば、ATPツアーにて獲得したポイントのランキング上位104位以内にシードが与えられ、ワイルドカード8枠(大会関係者推薦枠)、それ以外は予選を勝ち抜いた16名の合計128枠とわかりやすい設定です。
※ATP(Association of Tennis Professionals)=男子プロ選手協会
※WTA(Women’s Tennis Association)=女子テニス協会
※ITF(International Tennis Federation)=国際テニス連盟

ゴルフ界の場合は、世界ランキングはオフィシャルワールドゴルフランキング(WGR)によって算出されます。WGRに認定されているツアーに出場し、その順位に応じてポイントが付与され、獲得ポイントによって順位が決まる仕組みです。テニスのように一つの団体の中でツアーが開催されているわけではないゴルフの場合は、各ツアーが様々な場所で同時並行で開催されていますが、それぞれを評価し、ポイントを付与している状況です。

また、4大大会の出場条件も様々な出場枠があり、下記のどれかに該当すれば出場できることになります。いい意味では幅広く様々な大会で出場する権利を得られる可能性もあると言えますが、これだけの参加枠があるとファンや応援する側からすると推しの選手が出場できるのか…と正直複雑すぎてわからないという懸念もあります。

▼全米オープン選手権出場資格
・過去10年の「全米オープン」優勝者
・2023年「全米オープン」上位10位タイまで
・2023年「全米シニアオープン」優勝者
・2023年「全米アマチュア選手権」優勝者
・2023年「全米ジュニア」・「全米ミッドアマ」優勝者、「全米アマチュア選手権」2位
・過去5年の「マスターズ」優勝者
・過去5年の「全米プロ」優勝者
・過去5年の「全英オープン」優勝者
・過去3年の「ザ・プレーヤーズ選手権」優勝者
・2023年欧州ツアー「BMW PGA選手権」優勝者
・2023年PGAツアー「ツアー選手権」進出者(フェデックスカップ上位30位)
・直近1年間のPGAツアー複数回優勝者(フェデックスカップ・フルポイント大会)
・2024年3月20日時点でのフェデックスカップ上位5人(有資格者を除く)
・2023年コーンフェリーツアー年間王者
・2023年DPワールドツアー(欧州ツアー)上位2人(有資格者を除く)
・2024年5月20日時点でのDPワールドツアー(欧州ツアー)上位1人(有資格者を除く)
・2023年「全英アマチュア選手権」優勝者
・2023年世界アマチュアランキング1位(マコーマックメダル受賞者)
・2024年NCAAディビジョンI個人戦優勝者
・2024年ラテンアメリカアマチュア選手権優勝者
・2024年5月20日時点の世界ランキング上位60位
・6月10日時点の世界ランキング上位60位(有資格者を除く)
・全米ゴルフ協会(USGA)特別承認選手

US OPEN公式サイト :Currently Exempt Players for 124th U.S. Open

LIVゴルフ VS PGA TOUR

ゴルフ界のツアー大会の中でもNO.1の実績と規模を誇るのは、これまでアメリカのPGA TOURでした。前述のZOZOチャンピオンシップもPGA TOUR主催の試合で、賞金額は日本円で約13億円、それに対して日本のツアー平均賞金総額は約1.2億円です。約10倍の賞金を懸けた大会を開催できるPGA TOURは世界の中でもNO.1のツアー団体と言えます。
野球のMLBでプレーするのと同じように、日本人を含むゴルフ選手にとって、長年PGA TOURで戦うことが最高の舞台とされてきました。

そのような中、LIVゴルフという新たなゴルフツアー団体がPGA TOURに匹敵する規模のゴルフツアーを開催しようと仕掛けます。LIVゴルフとは、サウジアラビアの政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)から支援を受け2021年に発足した団体です。大会構想者はPGA TOURでも20勝を記録しているグレッグ・ノーマン氏です。

現在LIVゴルフは年間ツアーとして14大会を開催しており、サウジアラビア資本ではありますが、アメリカ国内で7大会、その他、メキシコ、オーストラリア、香港等、他国での開催を7開催実施しています。
LIVゴルフの特徴の1つは、その支援を受けている財力を活かした賞金総額です。賞金総額は4大大会と比較しても約1.5倍と高額になっており、最下位になった選手でも日本円で約1,600万円を受け取れるという仕組みになっています。また、招待制であり、参加人数も48名と他のツアーと比較すると非常に少なく、これだけを見ると選手にとって非常にいい環境がLIVゴルフにはあると言えます。

メジャー4大大会とLIVゴルフツアー1試合の賞金総額一覧 

また、LIVゴルフは個人戦だけでなく、参加した48名を12チームに振り分けて開催されるチーム戦も一つの特徴で、同じツアーの中に個人戦とチーム戦、両方の試合が組み込まれています。

さらには、ショットガンスタート(各選手がバラバラのホールからスタート)の採用による試合時間の短縮。ゴルフは一般的に静粛な雰囲気で開催されますが、「ゴルフだけどもっと騒がしく」というコンセプトのもと、会場では毎回音楽ツアーも開催される等、今までのゴルフの常識を覆すユニークな大会となっています。

このLIVゴルフと対立するのがPGA TOURです。LIVゴルフはこの豊かな資金力を活かしてPGA TOURの選手を引き抜こうとしました。フィル・ミケルソン選手に2億ドル(約280億円)、ダスティン・ジョンソン選手に1億5000万ドル(約210億円)を支払うなど、PGA TOURの有名選手たちに高額な移籍金を提示して参入を呼びかけました。PGA TOURはこれに待ったをかける形で、LIVゴルフに参戦した選手にはスポンサー推薦も含めて今後永久にPGA TOURへの出場資格を剥奪する方針を打ち出しました。
これはツアー団体の抗争というだけではなく、アメリカとサウジアラビアの政治的関係からも多くのファンから批判が集まりました。サウジアラビアは女性蔑視や人権活動家への迫害といった問題や、政府がテロ組織に資金を提供しているとの疑念も晴れていない状況。加えて、9.11テロ事件の背後にはサウジアラビアが関与していたと信じているアメリカ国民も多く、このような背景からLIVゴルフに流れる選手に対して批判が多く集まりました。
さらに、サウジアラビアはゴルフだけでなく、F1やサッカー、ボクシングなどのスポーツにも莫大な資金を投入しており、それらは不都合な事実を覆い隠す「スポーツウォッシング」だとの批判も根強く残っています。

また過去には、グレッグ・ノーマン氏は「少ない選手・少ない試合・高額賞金」というコンセプトを打ち出し、ワールドツアー構想も掲げていましたが、PGA TOURがこれと同じような構想の試合、さらには、世界ゴルフ選手権の構想を打ち出し、ノーマン氏の掲げたコンセプトを模倣されたこともあり、両者は過去から遺恨を残している関係性でもありました。

ゴルフ界の統一はあるのか?

このような両者の状況の中、2023年6月に急遽LIVゴルフとPGA TOURが統合されることが決まった、というニュースが報じられました。PIFとPGA TOUR、加えてヨーロッパのツアー団体であるDPワールドツアーの3団体の統合です。PGAとDPは、PIFと新たな団体を作り、そこにPIFが資金協力する、というものです。
急転直下の電撃統合案に、選手たちも驚きを隠せない状況ではありました。世界中のゴルフ団体でもトップを走るこの3団体が統合することは、テニスのATPのようにゴルフ界にも統一された団体が誕生する歴史的なことでもあります。また、報道では、前述の通り、LIVゴルフに参加していた選手がPGA TOURに参加できなかった状況も変化する可能性について、触れられています。よりいい選手を見ることを期待するファンにとっては朗報です。
統合に関する報道が出てから、2023年10月に至るまで、統合に関する進展はありませんでしたが、2024年11月になり、PFIが20億ドルを新団体に資金提供するという報道も出てきました。また、サウジアラビアとの関係性は、先日のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利したことを受けて改善されるのではという報道や、トランプ氏がゴルフ愛好家ということもありゴルフ界の発展に向けて一役買うのでは、という報道もあります。

上記については、正式に当事者からの発信がない中で、あくまで報道の範囲ですが、政治とも関係性が強まってきている中、どのように決着がつくのか、今後も注目していきたいと思います。



いいなと思ったら応援しよう!