見出し画像

ワールドラグビーの取り組みから考えるラグビーの世界観

フランス時間9月8日(金)に開幕したラグビーワールドカップ2023。10月28日(土)の決勝まで毎週、フランス国内各地のスタジアムで熱戦が繰り広げられます。今年のワールドカップは1次リーグから決勝戦まで全ての試合間隔が最低でも中5日空くという日程上の大きなルール変更が行われています。激しいコンタクトスポーツであるラグビーという競技特性上、試合の間隔が長くなることは選手にとって良い影響をもたらします。この画期的な決定を行ったのが「ワールドラグビー(以下WR)」という組織になります。今回はWRについて深掘りをしていきます。



ワールドラグビーとは

オリンピックイヤーの前年である2023年はスポーツの国際大会が多く開かれ、サッカー、野球、バスケットボールと日本国内でも盛り上がりを見せています。諸説ありますが、スポーツの三大大会の一つとも言われるラグビーワールドカップ。この大会の主催者が、ラグビーの国際競技連盟*であるWRになります。

*(参考)他種目の国際競技連盟、サッカー:FIIFA、バスケットボール:FIBA


ワールドラグビーは何をしているのか

WRの活動の1つとして国際大会の運営があります。規模が大きい主催大会としてワールドカップ、WXV、セブンズシリーズ(7人制)の3つがあります。
ワールドカップは2019年(男子)、2021年(女子)、2023年(男子)、2025年(女子)というように2年おきに男女が入れ替わるという仕組みになっています。かつては“男子”ワールドカップ、“女子”ワールドカップと大会名に性別が付いていましたが、2021年のワールドカップ(コロナウイルスの影響で大会自体は2022年に延期)から性別の表記はなくなり、「Rugby World Cup 2021」という大会名となりました。また、WXVは2023年から新たに開始した女子のワールドカップに次ぐ国際大会で、2025年のラグビーワールドカップを見越して女子ラグビーの全体的なレベルアップを果たすために発足しました。4年に一度の女子ワールドカップと異なり、毎年大会が行われ、WXVの成功が今後の女子ラグビーの競技力向上と商業化の鍵を握ることが予想されています。

そして、現在開催中のラグビーワールドカップ2023。前述の通り、この大会から競技運営上の大きな改定が行われました。それが、予選から決勝戦まで全ての試合において、各チームの試合間隔を「最低中5日以上」とする新たなレギュレーションです。これはWRが大事にしている考え方の1つである、選手の健康と安全を守る“プレーヤーウェルフェア”に基づいて取り決められました。

また、ラグビーは激しいコンタクトスポーツという競技特性から脳震盪が起こりやすいと言われています。WRでは脳震盪に関する研究や試合や練習で発生した傷害調査レポートを取りまとめており、国際競技連盟として“プレーヤーウェルフェア”に相当の労力と費用をかけています。
ワールドカップ開幕前に行われた日本対サモア戦では、相手の頭付近へのタックルという危険なプレーが行われたとして日本チームの顔とも言えるリーチ マイケル選手に、3試合(のち、2試合に軽減)の出場停止処分がWRから下されました。このように、脳震盪に影響を及ぼす可能性が高いハイタックルへのファールが厳しくなっています。できるだけファールは少ないほうがよいですが、今後試合を見る際にはぜひ注目をしてみてください。


世界のラグビーを動かすハイパフォーマンスユニオン

ラグビーワールドカップイヤーの2023年5月、日本国内の各メディアは「日本がハイパフォーマンスユニオン正式決定」「ラグビー日本、世界最上位層へ」と報道をしました。日本ラグビーフットボール協会のリリースによると、日本時間5月11日夜に行われたWRの評議会の決議を受けて、評議会での日本の投票権が2票から3票になったと書かれています。

これまでラグビー界では「ティア1」という言葉で上位のチームが括られており、その中でテストマッチなどの国際試合が行われていました。この「ティア1」はラグビー界のいわゆる上位国として、実力や伝統、格式を兼ね備えた国の集まりとされていました。
それでは、今回取り上げるハイパフォーマンスユニオンはどういったものなのか。WRのWebサイトでは「High Perfomance Union」と記載されており、日本国内では直訳した形で報道されています。この決定を受けて、日本ラグビー界にどのような影響力をもたらすのか、WRの意思決定機関の存在から考察していきます。

WRの成り立ちは遡ること137年前、トライか否かが紛争となったのをきっかけに、ラグビーの規則について合意し統治する中立的な評議会を創設すべきであるという提案をしたアイルランド、スコットランド、ウェールズの3協会によって、WRの前身である国際ラグビーフットボール評議会(IRFB、以下評議会)が発足しました。
1890年に、世界で最初に創立され最も長い歴史を持つラグビー協会であるイングランド協会が評議会に加盟。評議会で合計12の投票権がある中、半分の6票をイングランド協会が保有し、残りの6票を創設メンバーの3協会でそれぞれ2票ずつ持っていました。
IRFBは1998年には「国際ラグビー評議会」 に改名 、2014年11月に国際競技連盟として大規模なリブランディングをし、その名称を「ワールドラグビー」に改めました。

現在、WRには132の国が加盟をしています。その中でも、WRが様々な取り組みをする際の議決権(会長、副会長を除く)を持っているのが23の国と地域の協会です。

 WRのWebサイトにて、評議会は以下のような権限を持っていると説明されています。

「WRの最高意思決定機関であり、(中略)ラグビーワールドカップの開催権や競技構造などの問題をめぐる重要な決定に投票し、組合の加盟を承認または除名する権限を持っている。」*筆者和訳

WORLD RUGBY  「Bye Laws」9. THE COUNCIL
ワールドラグビー評議会のメンバー構成(筆者作成)

現在、WR評議会のメンバーは52名いる中で、保有可能最大票数である3票を保有しているのが全部で10か国あります。10か国の内訳はアルゼンチン、オーストラリア、イングランド、フランス、アイルランド、イタリア、日本、ニュージランド、南アフリカ、ウェールズで、日本以外の国はワールドラグビーの前身となる評議会の創設に関わった地域や、ハイパフォーマンスユニオンの国で占められています。ワールドラグビーの規約や規則、また競技ルールの改正には評議会の4分の3となる39票が必要となるため、ハイパフォーマンスユニオンの持つ政治力は相当のものがあると言えます。


日本ラグビーが世界に伍していくために

ブライトンの奇跡とも呼ばれる歴史的活躍を見せた2015年のワールドカップ、初となるハイパフォーマンスユニオンの国以外での開催で大きな盛り上がりを見せた2019年のワールドカップ。この2大会を通じて日本ラグビー界を支える、オンフィールドの選手、オフフィールドのフロントスタッフ、双方の努力によってハイパフォーマンスユニオンに加入できたのではないかと考えるのが自然だと思います。
そして、現在行われているワールドカップ2023。ピッチ上で繰り広げられる熱戦の裏側には、WRを中心としたフロントの動きが大きく関与しています。ワールドカップ2023が終盤を迎える10月の中旬には、並行してニュージランド、南アフリカ、ドバイでWXVの各カンファレンスでの大会が開幕します。ワールドラグビーにとっても大きな1年となる今年。確実に力を付けている日本代表と、WRの中でも存在感を発揮できる土壌を生み出した日本ラグビー協会。競技力に加えて、スポーツの世界での政治力や外交力といったものも今後より一層必要とされてきます。
オンフィールドの選手とオフフィールドのフロントの双方が力を合わせることはラグビーのみならず、他のスポーツでも同様に大事になってきます。
日本ラグビーが真の国際競争力を付け、世界に名を轟かせるその過程にこれからも注目していこうと思います。


次回は、ラグビーならではの仕組み「国籍、代表資格」この辺りに着目をした記事を公開予定です。ぜひお楽しみに!


いいなと思ったら応援しよう!