1月のテニスの祭典「全豪オープン」の観客が増え続ける理由
1月のスポーツといえば何が思い浮かびますか?日本のお正月はニューイヤー駅伝に箱根駅伝、高校サッカーや高校ラグビーといったものが思い浮かぶかもしれません。が、日本と季節が逆の南半球の国、オーストラリアでは真夏のスポーツの祭典「全豪オープン」が大いに盛り上がりました。
2025 年の全豪オープンはメルボルンパークに120万人以上のファンを迎え、観客動員数の新記録を公式に樹立
約1年前、「過去最高入場者数の全豪オープンから見るテニス界の変動」という記事でオーストラリアテニス協会による大きなチャレンジと変化を紹介しました。テニスという100年以上の歴史を持つ競技の中で非常に積極的なアクションを起こした全豪オープンは、2025年1月にまたも入場者数記録を更新しました。
オーストラリアテニス協会による飽くなきチャレンジの最新動向をご紹介します。
成長を止めない全豪オープン
2024年に初めて観客動員数100万人を超え大きな記録を残した全豪オープン。2024年は102万763人が来場しましたが、2025年はさらに約8万人ほど増加し、110万人を超えてきました。
また1日あたりの来場者数は、大会が行われた全日程で毎日記録更新されていたそうです。(なんという盛り上がり!)
さらに全豪オープンは、2024年にはビクトリア州に5億3,300万ドル以上の経済効果をもたらしました。当然今年はその数字を上回る経済効果をもたらし、ビクトリア州のホテルはその効果でほぼ満室状態となりました。
そんな成長中の全豪オープンはグランドスラムの1つなわけですが、実はテニスのグランドスラム各大会は始まった時期も成り立ちもバラバラだということをご存じでしょうか。そしてその違いが飽くなき挑戦を続ける全豪オープンの姿勢に繋がっているのです。
今回はテニスのグランドスラムにおける全豪オープンの他大会と違う成り立ちを振り返ったうえで、独特な歴史を持つ全豪オープンゆえの今年の新たな挑戦と変化を見ていきたいと思います。
小さな動物園でグランドスラム開催⁉
テニスのグランドスラムといえば一年に二週間しか使われない伝統のセンターコートや、番狂わせが多いことで魔物が住むと言われる赤土のローラン・ギャロスといったイメージがあります。しかし、全豪オープンはかつてオーストラリアの西南部にあるパース動物園で開催されたことがあるのです。
しかも「全豪」オープンなのに過去にはニュージーランドで開催したこともあるという変わった歴史もあります。
開催地も転々とするほどの大会規模とすれば、今の全豪オープンとは全く違った姿であったことがわかります。
これらの初期のトーナメントは、現代のグランドスラムの経済的事業とは程遠いものでした。
シドニーに抜かれたメルボルン、それに助けられた全豪オープン
このように毎年開催地を転々として規模も小さかった全豪オープンは、メルボルンの都市成長に大きく助けられて今に繋がっています。
地図でも分かる通り超広大な大地を持つオーストラリアには、溢れるほどの羊が生息しています。オーストラリアは、その羊の毛(ウール)をかつての領主国であるイギリスに輸出することでお金を生み出していました。
オーストラリアは羊毛の輸出量が世界第1位。羊毛は、1970年半ばころまでは主にイギリスへ輸出されていました。
しかし、イギリスが1973年にEU連盟に加入したことをきっかけに、オーストラリアはより地理的に近いアジアとの貿易を拡大させます。そうして港町として栄えていったのがシドニーです。オーストラリアの最南部にあるメルボルンは、貿易でシドニーに勝てず衰退し始めていましたが、困ったメルボルンが目を向けたのが「スポーツと文化」でした。
メルボルンは経済救済策としてスポーツと文化に目を向け、製造業から観光、レジャー、ショーへと移行しました。
その中で、1988 年に現在の全豪オープンの聖地「メルボルンパーク」を建設しました。
おそらく最も重要なのは、1988 年に全豪オープンの常設施設としてメルボルンパークを建設したことでしょう。
広大な土地を転々としていた全豪オープンにとって、これが何よりも大きなターニングポイントとなりました。
このような決して綺麗でも楽でもない歴史があったからこそ、全豪オープンは常にもっとたくさんの人にもっと楽しくテニスを、そして全豪オープンという楽しい2週間を提供することに積極的なのではないかと推測します。
さて、紆余曲折な歴史をたどってきた全豪オープンの成り立ちがわかったところで、チャレンジ精神溢れる全豪オープンの2025年のトピックを見てみましょう。
ここはテニス会場なのか・・⁉サッカーファンのような観戦スタイル
テニス自体が静かにじっと見るスポーツであるとすれば、これらの映像はグランドスラムの映像としては非常にいい意味で異質です。
ウィンブルドンや全仏オープンでこのような観客を見たことがあるでしょうか・・・?多分いたとしてもすぐに警備員につまみ出されているでしょう(笑)
このような雰囲気や応援文化自体は今年に始まったものではありませんが、これまで協会が試行錯誤して少しずつ大会をより楽しく改革してきたからこそ、このような文化がポジティブに醸成されているのだと考えます。
観客が試合中に移動することや歓声がうるさいことは、これまでも多くの選手から苦言が上がっていました。しかし全豪オープンでは時間を経て、選手たちも寛容に受け入れ始めていることがこの映像からもわかります。
なんか和む・・・まるでWiiのような試合配信
皆さんはこの映像が全豪オープン公式Youtubeがライブ配信した映像であると信じられるでしょうか・・?
全豪オープンは今回主催者とはいえライブストリーミングの放送権を持っていません。そこで考えたのが「アニメーションにしちゃえばいいのでは?」だったようです。なんともユニーク!
筆者はこれらの映像が完全にWiiにしか見えません。通常の映像では緊張した表情や灼熱の中で戦う選手の汗もよく映り、白熱した様子が画面越しにも伝わってきますが、その白熱した戦いは変わっていないはずなのになぜか和んでしまう・・・不思議ですね。
前半日程では各試合の再生回数は数万回だったものの、日程が進むにつれてこのユニークさとゆるさに惹かれた人も増えていったのか、再生回数は数十万回となっています。
コントロールできることに集中するというユニークさ
何だこりゃ⁉と思わせる面白いことを仕掛ける全豪オープンですが、もちろんしっかりと来場者が時間を楽しく過ごすために重要な、ベース部分のサービスもパワーアップさせました。
オーストラリアのスポーツイベントの代名詞である「生ぬるいパイ」や「ふやけたチップス」はなくなり、代わりにメルボルンで最も愛されているレストランがいくつか登場しました。
1月ですが南半球は真夏、灼熱。そんな環境ではなかなか難しいのが飲食です。
暑すぎて温かいものはいらない、でも暑すぎて冷たいものはすぐに熱くなるし、ドリンクを飲もうにも売店が大行列。こういった課題が全豪オープンにとっては悩みでした。
これらを解決すべく、全豪オープンは飲食を刷新しました。簡易的な売店ではなく、高品質なレストランを出店し、暑さ等の環境に左右されず常に美味しいものを提供しています。
そして全豪オープンのチャレンジといえば「PartyCourt」ですね。
スタンドの列の代わりにコートの隣にバーとカフェがあり、音楽が流れ、昨年はあったプレー中の騒音制限がなくなりました。
レベルアップした飲食をテラスで食べながら、おしゃべりしながらテニスをみても何の文句も言われない環境まであるのですから、顧客体験としては非常に満足度が高いはずです。
最後に
本記事では、2025年の初めに南半球で大いに盛り上がったテニスの祭典をもう一度掘り下げてみましたが、いかがだったでしょうか。
派手なことや楽しいことを沢山増やしているだけに見えていたかもしれません(筆者もそう思っていました)が、実は全豪オープンは過去を探ると歴史的背景も含めて紆余曲折があったのでした。
歴史の流れに命拾いした大会と言っても過言ではないかもしれません。
でもだからこそ、テニスをする人、テニスをみる人、テニスをささえる人、みんながもっと楽しいと思える大会にしたいという意思が強いのではないでしょうか。
そしてUncontrolableな歴史を持っているからこそ、Controrableなことへのチャレンジ精神が強いのかもしれません。
毎年ワクワクさせてくれる全豪オープンが今後テニス界にどんな影響をもたらすのか、今後も楽しみですね。