Sports Business 115 I ファジアーノJ1昇格 / NBA China Game / テイラースウィフトツアーとスポーツの交錯点 I #4-241215
2週間経過した今週もスポーツビジネス界隈のニュースや、注目すべきイベントを見ていきたいと思います。
ピックアップニュース
・ファジアーノ岡山、J1昇格
ファジアーノ岡山がついにJ1昇格を果たしました。クラブ創設以来、長年の目標だったJ1への切符を掴み取ったことで、地域にとっても大きな喜びとなっています。
この快挙の背景には、木村オーナーの尽力が大きく影響しています。木村オーナーはゴールドマン・サックス出身という金融プロフェッショナルであり、その経験を活かしてクラブの経営基盤を強化しました。ただし、外資系金融機関から連想される綺麗なビジネスを推進したというよりは、地域の経営者に食い込むための泥臭い営業を組織に根付かせたというエピソードが有名であったり、相当な苦労があったと思われます。そうした木村オーナーのリーダーシップのもとで、選手・スタッフが一体となり目標に向かって努力した結果が、今回の昇格につながったと言えるでしょう。
やや記事の本論からは逸れるものの、外資系の金融機関やコンサルティングファームといった一見キラキラした世界からスポーツの世界に飛び込む人材の数年後の生存率はかなり低く、外部人材のスポーツ業界へのオンボーディングはなかなかハードルが高い印象です。その意味でも木村オーナーは他のプロフェッショナル人材とは一線を隠す人材であったことは間違いありません。
・NBA China game開催決定
NBAが2025年10月10日と12日に、中国マカオのベネチアン・アリーナでプレシーズンゲームを開催することが発表されました。ブルックリン・ネッツとフェニックス・サンズが対戦するこの試合は、2019年以来初めての中国での公式試合となります。
2019年に当時のヒューストン・ロケッツGMダリル・モーリー氏が香港の抗議活動を支持するツイートを投稿したことで、NBAと中国の関係は冷え込み、多額のスポンサー収入や放送契約が停止し、NBAは約4億ドルの損失を受けました。しかし2022年以降、CCTVでの放送再開やストリーミング配信の復活により関係は改善に向かっています。
マカオでの開催は、NBAにとって中国市場での影響力回復を象徴する動きです。以前の記事で紹介したアリババの共同創業者でネッツのオーナーでもあるJoe Tsai氏の存在や、マカオが中国唯一の合法カジノ地区である点も影響していると考えられます。NBAと中国の交流再開は、中国市場だけでなくアジア全体のバスケットボールビジネスのさらなる成長につながる可能性を秘めており、今後の展開に注目が集まります。
・米NFL、PEファンドによる投資の初事例
4か月前にNFLがチームへのPE投資を認める決定を下しましたが、今週ついに以下2件の事例が発表されました。
Arctosによるバッファロー・ビルズの株式10%を取得
Aresによるマイアミ・ドルフィンズの株式10%を取得
これが他のチームにどのような影響を与えるかというと、ファン体験の向上や新たなイノベーションのための資金調達が容易になるという点が挙げられます。
これらを実現するには多額の資金や流動性が必要であり、PE企業がそれを提供できるようになります。今回の2チームはその第一歩にすぎず、今後さらに広がる可能性があります。また、この流れの中で元プロ選手が関与していることも注目されています。例えば、バッファロー・ビルズの取引には、トレイシー・マグレディ、ビンス・カーター、ジョジー・アルティドールといった元プロ選手が少額ながら株式を保有しています。これも非常に興味深い動きと言えるでしょう。
米国でのトレンドは数年後に日本に波及するという流れが一般的であるため、このような投資マネーの流入は今後の日本でも期待できるでしょう。
・Bruin capitalによるエージェンシー事務所の買収
米国のPEファンドであるBruin Capitalが、選手代理人事業の新たな統合エージェンシー「As1」を設立しました。この動きは、Nomi Sports、Position Number、Promoesport、Football Division Worldwideという4つのエージェンシーを統合する形で実現しました。As1は、35カ国以上の選手とコーチ、計300名以上を代表しており、その中にはリヴァプールのルイス・ディアス、マンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデス、チェルシーのモイセス・カイセドといったスター選手が名を連ねています。
この新たなエージェンシーの評価額は約3億1,000万ユーロ(約310億円)とされ、ロンドンを拠点に事業を展開します。As1はTJC(旧ジョーダン・カンパニー)が支援する新たな持株会社「Legion Sports」の一部門となり、世界規模のエージェンシーとしての成長を目指します。
As1のCEOにはイグナシオ・アギロ氏が就任します。同氏は投資銀行出身で、アトレティコ・マドリードやワールドパデルツアーの経営に携わったほか、Kaizen Gamingの創設者兼CEOを務めた経験を持つ人物です。また、ブルーインの創業者兼CEOであるジョージ・パイン氏は、As1の会長も兼任し、新たなエージェンシーを率いることになります。パイン氏は「アスリートがブランドや企業としてグローバルに活躍する時代が到来しており、我々はその流れを最初から視野に入れて事業を進めます。ブルーインの背景やネットワーク、実績を活かし、このプラットフォームを特別な存在にしたい」と述べています。
サッカー代理人業界は近年急速に拡大しており、FIFAの報告によると、2023年には国際移籍に関連するエージェントの収益が8億8,800万ドル(約1,300億円)に達しています。この市場の成長に伴い、大規模な統合や新たな資本の流入が進んでおり、As1もその波に乗る形で設立されました。
As1は、選手代理業務を超えた価値創出を目指しており、特に「クリエイター経済」におけるアスリートのブランド化に注力すると見られます。さらに、TJCのサポートを受けたLegion Sportsのもとで、代理人業務以外にもテクノロジー、メディア、イベント分野での新たな投資を視野に入れています。このように、As1は単なる統合エージェンシーに留まらず、グローバルなスポーツビジネスの変革を牽引する存在となる可能性を秘めており、今後の展開に大きな期待が寄せられています。
分析&論考
Taylor Swift World Tourとスポーツの交錯点
Taylor Swiftの「Eras Tour」が今月、カナダのバンクーバーで幕を閉じました。2023年3月に始まった52公演のアメリカツアーは、最終的に18か月間、5大陸で149公演を行う国際的な一大ツアーへと発展しました。このツアーは音楽業界だけでなく、スポーツ業界や都市経済にまで大きな影響を及ぼしました。
Taylor Swiftは1公演あたり3時間半にわたって44曲を披露し、ファンの熱狂ぶりはシアトル公演で地震計に2.3マグニチュード相当の振動を記録したほどのようです。総収益は史上初めて20億ドルを超え、音楽のみでビリオネアとなった最初のアーティストとしてTaylor Swiftの名は歴史に刻まれました。
さらに、観客1人あたりの平均出費額は約1,600ドルに達し、これはスーパーボウル観戦に匹敵する規模です。これにより、ツアーは「スウィフトノミクス(Swiftonomics)」と呼ばれるほど都市経済に巨大な影響を及ぼし、ロサンゼルスやシカゴ、ロンドン、シドニーなどでは数億ドル規模の税収増加をもたらしたとされています。
このツアーの特徴のひとつは、スポーツチームが所有するスタジアムを中心に開催されたことです。リバプールのアンフィールド(Anfield)やレアル・マドリードのサンティアゴ・ベルナベウ(Santiago Bernabéu)など、欧州を含む多数のスタジアムがツアー会場として選ばれました。アメリカ国内でも、ロサンゼルスのSoFiスタジアム、ニュージャージーのメットライフスタジアムなどが複数夜の公演を開催し、各会場は1公演あたり300万~400万ドルを稼いだとされています。
スタジアムはチケット収益だけでなく、飲食やグッズ販売の利益も得ています。特にSoFiスタジアムのような最新設備を持つ施設では、NFLの試合以外にも大規模イベントが頻繁に開催されており、複数用途の運営モデルが成功を収めています。
日本では現在、アリーナ建設ラッシュが進んでおり、その供給を埋める需要の確保が重要な課題となっていますが、Taylor Swiftのような国際的アーティストを誘致することで、地方経済やスタジアム収益を大きく押し上げる可能性があります。国内の興行主だけに留まらず、国際的なイベントを呼び込むことは、地域経済の活性化とともに、スポーツチームや施設の経営モデルを多角化するための重要な一歩と言えるでしょう。あるいは、そのような誘致を実現するプロモーターのポジションが益々重要な役割を担うとも言えるかもしれません。
Taylor Swiftの「Eras Tour」は特異な成功例かもしれませんが、スポーツとエンターテインメントの融合が今後の重要なトレンドであることは間違いなく、特にメディア権利収入が不透明な時代において、スタジアムやアリーナを多目的に活用することで、新たな収益源を確保する動きは加速しています。日本でも、こうした国際的な潮流を取り入れることで、スポーツビジネスの可能性を広げることが期待されます。
おわりに
記事を気に入って頂けたら、ぜひいいね&コメントをお願いいたします!