『トレバー・ノア』


笑ってひたすら前に進む!

トレバー・ノアを知っていますか?

私は知りませんでした。
全米でもっとも熱いコメディアンで、2018年のグラミー賞のプレゼンターも務めた人。
そして、アパルトヘイトの体制下の南アフリカで黒人と白人の間に生まれた「生まれたことが犯罪」だった人。

生まれたことが犯罪ってどういうこと!?

びっくりすることに、アパルトヘイト体制下の南アフリカでは異なる人種のあいだでの性的関係をもつことは犯罪行為だった。
人種差別が制度化されている社会では、黒人と母と白人の父から生まれた混血のトレバー・ノアの存在は犯罪の結果でもあった。

信じられないことに、トルバー・ノアが生まれたのは30数年前。
つまり、そんな最近までそんな人権を無視したような制度があったことに驚く。

悲惨な生い立ちなのに、笑いがいっぱい。
そんなトレバー・ノアの自伝。

すごい母!

本を読んだらわかるけど、びっくりするくらい凄い母!
そんな時代に自分で選んで白人の男性と子供をつくって、かつ、相手に何も求めなかった。
そして、常識や制度にとらわれずに、自由にわが子を育てていく。

トレバー・ノアのやんちゃでいらずらっぷり
偉大な母の力強さと無茶ぶり
二人のやりとり

悲惨で大変な時代なのに、常に笑いがある。
母の哲学は響くことがいっぱいある。

どこでも行けるし、なんでもできる、そんなふうに育ててもらった。
この世界は好きなように生きられるところだということ。
自分のために声をあげるべきだということ。
自分の意見や思いや決心は尊重されるべきものであること。
かあさんはそう思えるようにしてくれた。

自分の生い立ちに関しても

かあさんは自分を哀れむ気持ちなんて、これっぽちもなかった。
「自分の過去に学べば、その過去のおかげで成長できる。だけど、過去を嘆きはしない。人生に苦しいことがいっぱいあるけど、その苦しみで自分を研ぎ澄ませばいい。いつまでも、こだわったり、恨んだりしたらダメなの」

そしてその特徴のひとつ「人生で受けた痛みを忘れる力」も引き継がれていく。

トラウマになった出来事は覚えていても、そのトラウマにいつまでもしがみついたりはしない。つらい思い出のせいで、新しいことに挑戦できない、とはならない。
痛みを受けとめて、泣きたいだけ泣いて、次の日また起き上がって、前に進むほうがいい。

アパルトヘイトとはなんだったのか?

学生の頃教科書で学んで、ネルソン・マンデラの映画も観てなんとなくは知っていた。
だけど、アパルトヘイトとは何だったのか実はあまりわかっていなかった。
この本は、トレバー・ノアの視点を通して、ユーモアと笑いを入れながらアパルトヘイトの目を背けたくなるような悲惨な過去、そして今も続く差別の現実を教えてくれる。

ただの白人対黒人の上下関係だけでなく、黒人同士の部族間のもめごと、そして白人でも黒人でもない「カラード」の存在。

アパルトヘイトの現実とは、その中で生きる人の現実でもあって、同じ時代を生きている私たちと同じ人間の現実でもある。
私が日本で当たり前に享受してきたことが、決して当たり前ではないこと。

だから、どうだってわけでもないけど、私がこの現実を知ったからってすぐ世の中が変わるわけでもないし、すぐにそれに向けてなにかアクションを起こすわけでもない。
ただ、知らないより私は知ってよかったと思う。

そして、一人でも多くの人に、トレバー・ノアの視点を通して、アパルトヘイトを知るチャンスがあるといいなと思った。

世間で人々がひどいことをし合うのは、その影響を受ける相手の存在に気づいていないからだ。相手の顔が見えていないから。相手を人として認識していないからだ。
アパルトヘイトで虐げられた人々を目にしないようにしていれば、気にならないというわけだ。
今の世の中では、自分が他の人にしていることの影響に気づくことがない。住む世界が違うからだ。
お互いの痛みに気づいて共感しあうことができれば、犯罪をおこなう意味なんて、そもそも絶対にあるはずない。

これからのトレバー・ノアに大注目!

この本を通してはじめてトレバー・ノアを知って一気にファンになった。
こんな人生経験、人生哲学をもった人が、これからなにをしていくのか楽しみでならない。

こんな人がアメリカで活躍していること、世界に発信してくれること。
本当に影響力は凄まじい。
日本では、まだ知らない人も多いけれども、ぜひこの本を通して知ってほしいと思う。

笑って、学べて、考えさせられる一冊。

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