家から出ないで
お母さんはお仕事でちょっと遅くなるという。僕は一人で留守番をしている。外は真っ暗で雨音がうるさい。たまにピカッと光ってはすごい音がする。怖いから、部屋の隅でじっとしている。
テレビは気づいたら、見ていたアニメとは違うものに変わっていた。映画だろうか。窓から見えるのと同じような空がテレビの中に広がる。迫りくるゾンビから逃げ惑う人々。声は雨音にかき消される。やけにリアル。怖いのでテレビを消す。
プルルルル
突然電話が鳴った。心臓がどくどくしている。
どうしよう。知らない人からの電話は出ちゃいけないって…でもお母さんかもしれない…どうしよう。でも…
電話の音は迷っている間も延々と鳴り続ける。追い討ちをかけるように雷の音が鳴る。
お母さんからでありますように、と願いつつ受話器を取り耳に当てる。
「風太!?」
あ、お母さんだ!よかった。
何やら騒々しい。お母さんは外にいるのだろうか。
「ちゃんと家にいる!?いいわね?絶対に外に出ちゃダメよ。お母さんが帰ってくるまでいい子にしてて」
ブツッ ツーツーツー…
切れた。
また部屋の隅で待つことにした。雨は降りやまないみたいだ。テレビをつけようか。でもさっきの映画が思い浮かんで、やめた。
*
少し眠ってしまっていたみたい。ドアをドンドン叩く音で目が覚める。
お母さんだ!
すかさずドアに駆け寄る。もう何も怖くなかった。ロックを開けてドアを開ける。
「おかえり、お母さ
そこにいたのはお母さんではなかった。いやお母さんだった、もの。伸びてくる腕。逃げなきゃ、逃げなきゃ。お母さん、お母さん。
『お母さん』の肩越しに外が見えた。広がるのはテレビで見たまさにその景色。
あれは、映画なんかじゃ、なかった。
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