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4.

由美子は言った。

「私、東京で仕事を続けたいと思っています。マネジャー、私の面倒見てくれますか?」

和夫は上司として答えるべきか、男として答えるべきか迷う事がなかった。すぐに男として答えてしまった。

しかし、逃げ道も必要だったのであくまでも冗談ぽく言った。

「ああ、君の面倒は見るよ、一生見るよ。」

その冗談ぽい和夫の言葉に由美子は真剣な声で言った。

「マネージャー、ぜひ 私の面倒を一生見てください。」

 えっ、今なんて言ったの。

面倒を一生見てくださいってどういう意味?

和夫は心臓が破裂するかと思った。

和夫は慎重にあくまでも冗談ぽく言った。

「でも、俺バツ一だし、その時財産ほとんど置いてきたし、養育費も多めに払っているから、君を養ってはいけないしなあ。」

「私も働くから大丈夫ですよ。」すぐにこう答えた由美子は和夫の状況を知っているようだった。

「結婚式もあげられないしなあ。」和夫はあくまでも冗談ぽい感じをやめなかった。

「私、結婚式に興味ないので。」この答えも由美子は早かった。

 この会話をどのように受け止めたらいいんだろう。

真に受けたら笑い者になるんだろう。

一週間後に札幌に行くからその時、確かめよう、和夫はそう思いながら、もう冷静ではいられなかった。

 この一週間の間、由美子の店に電話するのはやめようと和夫は思った。

嬉しそうに何回も電話をしたら、笑われてしまうという気持ちが和夫にはあった。

我慢 我慢だと和夫は思った。

 和夫は由美子とのあの会話について半信半疑だった。

信じられない気持だった。

しかし、由美子が和夫をからかって何の得があるんだろうか。

26歳の社会人の女性がする悪戯としてあまりにひどすぎる。

 でも、なぜ和夫がいいのだろうか?

まだ、知り合ってから3か月しかたっていない。

あんな可愛い26歳の初婚の女の子がなぜ、バツ一で経済力もない和夫を選ぶのだろう。

やっぱりおかしい。

 和夫の堂々巡りが止まることがなかった。とにかく 一週間後だ。

つづく