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十分間の駅弁攻防

戦いは静岡県修善寺駅で起きた。

三島行きに乗る直前、改札横の看板が目に飛び込んできた。名物「あじ寿司」。銀色に輝くアジがぎゅうぎゅうに箱に詰まっている。喉鼓を打つ。時計を見る。発車まで10分。いける。

店に飛び込む。「はい、近くのお店で作って持ってきます」。予想外の返事に焦る。しかし、もう舌はアジの味だ。先にお金を払い切符をポケットに用意し、弁当を待つのみの体制を整える。5分経過。来ない。店名を検索し、作っているであろう200m先の店舗へ走る。閉まっていた。走って駅の店へ戻る。残り3分。弁当はこない。もはやここまでか。その瞬間、電話が鳴った。「今届くそうです」。店を飛び出す。遥か彼方に白い袋を下げたお婆さんがいる。ダッシュで向かい息を切らせているお婆さんに謝り、ホームへ全力疾走する。残り1分。車掌さんが車内に片足をかけた横を滑り込む。勝った。

あじ寿司は、この攻防の苦労をはるかに超えて旨かった。

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