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『天国、それともラスベガスの続き』-アジアの翼、ThinkPad T490の記録

20年代を迎えるにあたって進めていた、世界に向かうための自宅のデスクチューン。その一環として、システムの中心になっていたThinkPadを、7年間連れ添ったThinkPad T430sから、最新のThinkPad T490に買い替えました。

ところで…。

僕がかつて通っていた高校は公立ながら進学校で履修科目がとても多く、2年になると「世界史」「日本史」「地理」の社会科3教科から(1つではなく)2つを選択する必要がありました。なので2年の春にはその組み合わせが話題になるのですが、僕は友達の勧めで世界史と地理を選択しました。

友達曰く、「世界史を勉強するにあたってその土地の地理がわかっていることは風景をイメージする助けになる」「そして逆に、その土地の地理(農作物や産業、言語、民族、宗教)には必ず歴史の背景がある」「だから、地理と世界史をオーバラップして勉強すれば、相互補完的に理解が深まるだろう」…という話でした。

この話、めちゃくちゃ説得力ないですか? 単純な僕は一瞬で影響を受け、即座に乗っかりました。

実際に勉強してみると、例えばアルゼンチンの主要輸出品目の第3位が牛肉(地理)なのは、産業革命後の1870年にフランスで冷凍船が実用化され、当時植民地だった南米産の食肉を凍らせた状態でヨーロッパに運べるようになったこと(世界史)の影響…みたいな感じで、確かに話題が交差します。

面白い。同じ対象を異なる複数の視点からみると、その対象の理解が立体的になり、イメージがホログラフィックになるんだ。

今回のnoteはThinkPad T490がタイトルだったのに、なぜ僕はこんな話をしてるんでしょうか? 大丈夫です。その理由はすぐわかる…はずです。

1. 間に合わなかったThinkPad

Go Andoさんの「デスクすっきりマガジン」にも取り上げていただいて、おかげさまでたくさんの方が読んでくださった僕の自宅デスクチューン物語には、当初計画していたけれど記事公開に間に合わなかったエピソードがありました。そのひとつが、今回紹介するThinkPadの入れ替え話です。

本当はデスクチューン計画の当初からThinkPadは買い替える予定で、4月の初旬にはT490を注文していました。でも、予定納期がなんと6月中旬という連絡がきたので(!)、さすがに待ってられないとデスクチューニングの当初計画から外し、noteの記事にも入れなかったんですね。

ところが記事公開の直後、急に予定納期が早まって、蓋をあけてみれば結局5月中旬にあっさり届きました。なので今日は追加のサイドストーリーとして、本来記事の冒頭を飾るはずだった僕の新しいThinkPadについて、あらためて話をしたいと思います。


2. アジアの翼、ThinkPad

IBMによって1992年に発売が始まったノートブックPC「ThinkPad」シリーズの事業が、香港のLenovo(聯想集團)に丸ごと売却されたのは2004年のことでした。ThinkPadシリーズの研究開発は神奈川県の大和市にあったIBM大和研究所で行われていたのですが、この大和研究所もそのままLenovoの傘下となり、現在は横浜みなとみらいに拠点を移して開発が続けられています。

そして横浜で研究開発されたThinkPadは、中国本土・深圳の工場で日本向けのモデルが生産されています(*一部モデルは日本の米沢の生産です)。

香港、横浜、深圳。気がつけば、かつてIBM時代のCMコピーで「大人の翼」と呼ばれたThinkPadは、いつのまにか「アジアの翼」みたいになっていました。

今回ThinkPadT490を購入するにあたって、僕は大容量SSDへの換装とメモリ増設をするつもりでしたが、「アジアを感じるアジアの翼」ということで、SSDには韓国サムスンの970 EVO Plus、メモリには台湾トランセンドのDDR4メモリを選びました。いわばアジアSPL(スペシャル)です。

それでは、ここまで出てきたメーカーで地図を描きましょう。こんな感じで、アジアを舞台に僕のT490は構成されています。


3. ThinkPad T490でアジアを感じる

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5月中旬。ようやくThinkPad T490が到着したので、いよいよ裏蓋を開けてSSDの換装とメモリの増設を行います。SSDとメモリはとっくの昔に手元に届いていたんですよね。待ってたよ本体。目の前に広がる電子基板に、「香港」「深圳」「横浜」「ソウル」「台北」を構成していきますよ。

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今回のパーツ紹介では、地図だけではなく、その土地の音楽もあわせて聴くことで、立体的にその土地を感じる試みをしたいと思います。世界史と地理の2つの視点である土地を見るように、地図と音楽でホログラフィックな体験をしてもらえたらと思います(冒頭の小話は、ここにつながりました)。

Lenovo本社 | 香港(中国)

Lenovo(聯想集團)の本社があるのは香港です。Lenovoは意外に歴史が古く、その始まりは1984年に中国科学院の研究員11名が設立した「中国科学院計算所新技術発展公司」だそうです。そして香港と日本の時差は-1時間。

香港ではどんな音楽が流れているでしょうか? もちろん香港には多種多様な音楽が流れているはずですが、ここでは香港人アーティストTyson Yoshiの「SP」を紹介します。Tyson Yoshiが2019年にリリースしたアルバム「1st」は、その年のSpotify香港でもっとも聞かれたアルバムだったそうです。

JNY Beatzのプロデュースよる洗練されたトラックに、Tyson Yoshiの中国語ラップが自然なフロウで乗っています。最近、香港といえばデモや警官隊の暴力などアグレッシブな映像の印象が強いかもしれませんが、一方でこんなにもメロウでアーバンな音楽も生まれていたんですね。

■Lenovo生産工場 | 深圳(中国)

Lenovoが持っている36箇所の生産拠点のうち、米沢で生産される一部のモデルを除き、日本向けのThinkPadは中国・深圳で生産されているそうです。深圳と東京の時差も-1時間。

深圳の人口は、2017年の統計で1253万人。東京都の人口がおよそ1300万人なので、同じくらいの規模を持つことがわかります。そして深圳はこの10年でめざましい発展を遂げた「世界の工場」であり、最先端のエレクトロニックシティです。そこに住んでる人は、どんな音楽を作るでしょうか?

早速SoundCloudで「深圳(Shenzhen)」と入れて検索したところ、僕はRoseairというアーティストに出会いました。

Roseairは、ロンドンのエレクトロニカ系レーベルSmall Print Recordingsと契約しているアーティストです。中国という国に対して、どこか猥雑なイメージを持ってる方も多いかもしれませんが、そんな先入観が一瞬で吹き飛ぶ透き通るような洗練を感じさせます。こうしたRoseairの音楽もまた、深圳という都市の一部なのです。

Lenovo大和研究所 | 神奈川県横浜市(日本)

LenovoのThinkPadシリーズは、横浜のみなとみらい地区にあるLenovo大和研究所で研究開発が行われています。大和研究所は、もともと神奈川県大和市に拠点があったことがその名の由来ですが、研究所の名前が世界的なブランドになったため、2011年に現在の場所に移転したあとも変わらず「大和研究所」と呼ばれています。

横浜というところで、代表曲を選んでいきます。

横浜は、かつてナムコ(現・バンダイナムコ)というゲーム会社が開発拠点を置いていた街でもあります。ということで、バンダイナムコのサウンドチーム出身で、現在は独立してソロアーティストとして活躍している井上拓が手がけた「Singing In The Rain」という曲を紹介したいと思います。

今の日本のポップカルチャーの中で、「お金が動いている」という意味で盛り上がっているジャンルのひとつはスマートフォン向けのゲームアプリでしょう。そしてアイドルゲームのように女性キャラクターが多数登場するゲームでは、人気の声優が起用され、アイドルのように歌い、多くのファンがつくといった現象が起きています。

運営が長期にわたるスマートフォン向けゲームの音楽は、楽曲数が必要です。お金が動いていて、楽曲の数が求められる。そのため、若いトラックメーカーが才能を発揮する揺り籠としてスマホゲームが機能していて、その中には音楽を先にすすめようとチャレンジを続ける冒険家が出現します。井上拓も、そういった冒険家の一人です。

「Singing In The Rain」は、ファンタジーRPG「ドラガリアロスト」のセイレーンというキャラクターによるキャラクターソングですが、キャラクターの曲として美しく機能しているだけでなく、叙情的な響きと低く唸る低音に、従来のゲーム曲、アイドル曲を更新しようという意思が感じられます。

こうして日本のアイドルゲームソング、アニメソングの盛り上がりから生まれてくる新たな楽曲と才能は、今後も非常に楽しみな世界の一つです。

サムスン本社 | ソウル特別市(韓国)

アジアのつながりを感じることを目指し、僕のThinkPad T490には韓国サムスン電子のMVNe M.2 SSD「970 EvoPlus」の1TBモデルを搭載しました。韓国と日本の時差はありません。韓国に行くと、外国なのに時計をあわせなくて良いのが不思議な感じがします。

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韓国のポップスといえば、やはりK-POPでしょう。この10年でも急成長したK-POPでは日々新しい曲が生まれていますが、ここではちょっとインディーズよりで、女性シンガーソングライター・OOHYO(ウヒョ)の「Brave」という曲を紹介します。

いまの韓国の音楽産業には力があります。BTS(防弾少年団)やTWICEといったグループが世界的に成功していることもその一端ですが、いまの韓国は、ちょうど90年代の日本と同様に、20代~30代にもしっかりと人口のボリュームがあり、日本と比べて約半分の人口(およそ6000万人)であるにもかかわらず、ユースカルチャーにパワーと存在感があります。

その分、苛烈な受験戦争や就職難といった課題もかかえているわけですが、それすらも世代をつなぐ共通感覚として、韓国のポップスを後押ししているように見えます。

そしてこのOOHYO(ウヒョ)という女性アーティストは、作詞・作曲・編曲も自分でやる93年生まれの若いアーティストです。現在NYで活躍しているDJでありアーティストのYaeji(イェジ)もそうですが、女性の個人活動によるクリエイティブパワーが高くみえるのも、韓国の特徴かもしれません。彼女は現在、拠点をロンドンに移して活動しているそうです。

トランセンド本社 |台北市(台湾)

韓国サムスンのSSDを搭載した僕のThinkPad T490に、さらに台湾トランセンドの16GB DDR4 SO-DIMMメモリを増設します。台湾と日本の時差も-1時間。香港・深圳・台湾は同じタイムゾーンに属しています。

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トランセンド(創見資訊股份有限公司)の本社は台北市内にあります。

台湾におけるR&BやHipHopの人気は、アジアの他の地域と同じかそれ以上に高く、ユースカルチャーの一角をしっかりと占めています。Spotifyでも様々な台北在住のアーティストの曲を聴くことができますが、ここではSJINの「人造月亮」を紹介します。

曲名の「人造月亮」は、人工の月のことだそうです。動画につけられた以下の曲紹介を、google翻訳の力を借りて日本語にしてみましょう。

原生月亮被土星摧毀之後,我們運用了龐大的科技以及想像,發射人造月亮掛回天上,讓人類重新寄情在這充滿未來主義的浪漫樂園。從前的人對著遙不可及的月亮編故事唱情歌,今夜我們站在人造月亮的高樓,隨著心情設定月形光影,展開一場後科幻時代的人造戀愛。
土星によってオリジナルの月が破壊された後、我々は巨大な技術と想像力を駆使して人工月を空に打ち上げ、人類がこの未来的なロマンティックな楽園で愛を新たにできるようにしました。 今夜は人工月の高い建物に立ち、月の光と影に気分をセットして、人工恋愛のポストSF時代をスタートさせます。

こういうSFイメージを台北の若者が描いて音楽にしているんだな、と思うと、また少し台北のことが違って見える気がしませんか?

ちなみにこの曲をリリースしたレーベルは「任意門娯楽股份有限公司」というのですが、レーベル名の「任意門」とは、ドラえもんの「どこでもドア」のことらしいです。ここでもアジアのつながりを感じますね。


4. アジアの縮図、そのつながりを感じるアジアの翼

香港に本社があり、横浜で研究開発され、深圳で生産され、東京の僕の手元に届いたThinkPad T490。僕はそこに、韓国・ソウルのSSDと台湾・台北のメモリを搭載して、5つの都市によるアジアの縮図、アジアのつながりを感じる「アジアの翼」に仕立てました。そしてこちらが、これまで紹介してきた5つの都市の音楽による、Spotifyのプレイリストです。

5つの都市の5人のアーティストによる5つの曲を続けて聴くことで、今のアジアの同時代感覚や地域ごとの違いに触れてられたら…という思いでこのプレイリストを作りました。低音のあしらい方や、ビートに対する感覚、メロディ、ハーモニー。地図を見ながら音楽を聴いて、ぜひそれぞれの世界を感じてください。

これからの20年代、アジアにはどんな音楽が生まれるでしょうか。そして、どんなテクノロジーが登場するのでしょうか。

音楽好きとして、ガジェット好きとして、アジアの楽しみは尽きません。


5. そして2020年5月のデスクをセーブする。

こうして、新たにThinkPad T490を迎えた2020年5月の僕のデスク環境。これがゲームなら一旦セーブするタイミングだなと思ったので、動画で記録しました。動画ということで、恥ずかしながら曲も自作しましたよ。

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新しいThinkPad T490は、Ableton Live(音楽制作ソフト)も軽快に動いていい感じです。なかなか上手にならないので歯がゆい音楽制作ですが、20年代はこのデスクで、引き続き挑戦していきたいと思います。実は、この音楽制作用の49鍵キーボードを置きたいというのが、そもそもデスクの奥行きを40cmから65cmに伸ばすことにしたメインの理由なのでした。

音楽を聴くだけじゃなく、もう1つ「作る」という視点を持つことで、音楽の楽しみ方がさらにホログラフィックに、立体的になるんじゃないかと思うんですよね。そうなったらいいな。それが楽しみで仕方がないのです。

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寺本秀雄(spinnage / spinn)
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