見出し画像

スピン的哀しみのクラシック音楽史(9):グスターヴ・ホルスト 組曲「惑星」

グスターブ・ホルスト (1874-1934) 組曲「惑星」, op. 32
指揮:ディーマ・スロボデニューク
演奏:ガリシア交響楽団 (Orquesta Sinfónica de Galicia)
1. 火星、戦争(戦い)をもたらす者 (0:40)
2. 金星、平和をもたらす者 (8:28)
3. 水星、翼のある使者 (16:21)
4. 木星、快楽をもたらす者 (20:26)
5. 土星、老いをもたらす者(28:50)
6. 天王星、魔術師 (38:14)
7. 海王星、神秘主義者 (44:15)   演奏時間:57分29秒

この記事は、スピン的哀しみのクラシック音楽史(9):ショスタコービッチ 交響曲 第15番 の続きです。

第一次世界大戦 開戦前夜から戦中にかけ、西側に生きたグスタフ・ホルストが書いた、大変に詩的で象徴的な曲です。

東側に生きたストラビンスキーやショスタコービッチの感性に共鳴した曲と感じさせてくれると同時に、時代の不条理を切り取った、切実で、凄みの
ある世紀末を感じさせる音楽であります。

第1曲 火星-戦争をもたらすもの

ブルックナー交響曲9番第2楽章のよう。迫りくるカエサルの軍隊、じわじわと確実に押し寄せる圧制の軍靴、イメージするものは迫り来る危機。
抗えない不条理・理不尽な宿命・・・

第2曲 金星-平和をもたらすもの

平和をもたらす金星のカードを開いても、暖かいまなざしの平和の女神は
不在。まるで、傷ついた人々の間を、治療のための薬もなく、途方にくれて歩き回る、従軍看護婦の歩みのよう。

第3曲 水星-翼のある使者

妖精のきらきらとした舞。降りおちてくる凍えた雪片のきらめき。
「馬鹿な人間!」と嘲りながら、愚かな人間の間を飛び回るティンカーベルの飛行のような・・・

第4曲 木星-歓楽をもたらす者

サーカス、ジプシーの縁日。 練り歩く巨象。 トンボを切る曲芸師。
行進するペルシャ風の楽隊。
風に舞う花火・・・嬌声・・・
ほんのひと時の悦楽。

第5曲 土星-老年をもたらす者

暗闇に支配された静寂の空間。漂う虚空に張り詰める紛れもなき事実。
乱れ打たれる教会の鐘。 混乱。 粛然とした終末 - 死・・・

第6曲 天王星-魔術師

曲芸をする施政者。踏ん反り返る政治家。
勢いを増して行軍する狂信者・・・
この未来にあるものは和平でも理想郷でもない・・・昏い波濤・・・

第7曲 海王星-神秘主義者

「2001年宇宙の旅」に出てきたよう、時のかなたから聞こえる神秘な歌声。
虚空に張り詰める静寂。
暗黒に吸い込まれゆく「終焉」。そして、なにもない世界・・・・「無」

終曲の、メッセージも何もなく宇宙の果てに消えていくあっけない終わりが、身震いするほどの暗澹とした未来を指し示しています。

音楽は、まことに時代を鋭く、激しく描きだすものであります。
ここにある、人類の未来を見つめる作曲家の「予感」が誠に痛ましい・・・

結局の処、政治と権力にねじ曲げられた音楽は「無」しか産み出しません
でした。
歴史は、それをよく示しています。

気鋭の指揮者 ディーマ・スロボデニュークさんの荒々しいまでの造形力に、これからのクラシック音楽の明るい展望を感じたい。
新しい世代の音楽家たちが、よき未来を創りだして行ってくれることに期待をしたいスピンであります。

スピン的哀しみのクラシック音楽史、
お読みいただき、衷心より感謝申し上げます。 スピンネーカ 拝。

いいなと思ったら応援しよう!