#6 夫婦間における自立について相談がありました_20230423
はじめに
今回は相談をいただいたので、それに答える形とさせていただきます。相談内容は「夫婦間における自立の大切さと依存と自立のバランスについて」です。夫婦というのは、お互いの良い点や悪い点があり、それぞれが一つのチームとして社会で生活を送りながら、場合によっては子育てや両親の世話などもおこなっていくものです。女性からの相談で、子供が育ったあと、自立をしないとと感じているものの、自立ってなんだろうと思ったそうなのです。今回は依存と自立のバランスの大切さついてお話しします。
研究紹介
参考にしたい研究は、Graham Sherwoodさんの2011年に出された論文「The Implications of Relational Activity Motivations for Relationship Well-Being and Daily Relational Functioning in Marriage」です。この研究では、夫婦間のさまざまな関係活動(例えば、コミュニケーション、共同活動、愛情の表現など)に対する動機を、自己決定理論に基づいて調査しました。自己決定理論は、自主性、有能感、関係性の3つの基本的な心理的ニーズを重視し、これらが満たされることで幸福感や人間関係の質が向上するとしています。
研究結果は、夫婦が関係活動に対して自主的な動機(つまり、自分自身やパートナーとのつながりを向上させることを望んで行動する)を持っている場合、関係の幸福感や日常的な関係機能が高まることを示しました。一方、外部からの圧力や義務感によって関係活動を行う場合、関係の幸福感や機能が低下することが示されました。また興味深い点は、女性が自立心を持って夫婦のために活動することが、男性がそれを行うよりも夫婦の役割を果たし、幸福に寄与することが示唆されたことです。男性は基本的に社会に向かって行動しやすく、女性は家庭に目が向きやすいため、女性が主体的に自立心を持って活動することが夫婦にとって非常に重要であることが示されました。この論文は、結婚生活において、関係活動の動機が関係の幸福感や機能に重要な影響を与えることを明らかにしています。夫婦が自主的な動機を持って関係活動に取り組むことが、良好な関係を維持・向上させるための鍵であることが示唆されています。
この研究から、強制や義務ではなく、主体性を持って自立心を持って活動することが大切だと感じます。ある和尚さんが、毎日鏡に向かって自分を主人公だと言い聞かせ、目を覚まし、これからもしっかり行動するように自分自身に語りかけていたそうです。自分の人生を主体的に生きることが大切であり、自由に生きることが自立につながると思います。
人間が持つジレンマ
自立心は非常に重要ですが、しかしここで私たちが考えるべき人間が抱えるジレンマが発生します。人間が幸せに生きるために何が大事だったかということを思い出してみましょう。時間がありましたら、#1幸福の鍵を見てください。ハーバード大学が75年間にわたって行っている研究があります。繰り返しになりますが、この研究では、人々が生まれてからの人生を追跡し、どれだけのお金を持っているか、どのような地位にいるか、そしてどのような状況で、どれだけ幸せかということを調査しています。私が知る限り、最も長期間の研究であり、素晴らしい研究だと思います。それでは、結局人間が幸せに生きるために必要なことは何だったかということを思い出しましょう。それは、お金や地位などではなく、人間関係だったという研究結果でした。つまり、人間が幸せに生きていくためには、より良い人間関係を育てていくことが不可欠です。自立という言葉が強くなると、努力して他の人と比較し、抜きん出る能力を身につけたり、能力を発揮して社会で活躍してお金を得ることが王道だと思いがちですが、これからの時代、それでは人間関係をうまく育むことが困難になると思われます。今まで占星術で言う土の時代でした。土の時代では土地やお金に力があったので、それで良かったのかもしれません。しかし、これから時代が大きく変わり、風の時代になります。その時代が変わる中で、大事なことはどのように人間関係を育てていくかということになると思います。
先ほど言ったように、努力して自立し、能力を発揮してお金を得るという生き方が今後ますます難しくなっていくでしょう。もちろん、その過程で良い人間関係が育つのであればいいのですが、もし結果がお金持ちになるだけや、良い地位につくだけ、豪華な家に住んでいい車を持つだけであれば、もしその人の目標が幸せであるとしたら、ちょっと幸せの道とはずれてしまうのではないかと思います。
AIと人間との関係性
そして、今後はAIがますます進化していきます。私は医者であり、研究者でもあり、研究活動を行っていますが、2022年の11月には、ChatGPTというAIプログラムが登場しました。驚きましたね。私たちは研究データを論文にして、それを出版社に送って発行・出版するのですが、その過程でこのAIは驚くほど助けてくれます。私が「こんな研究をして、こんな結果があり、こういうことを伝えたい」と言ったら、美しい英語で文章を書いてくれます。それで投稿していいかは喧々諤々の議論が現時点ではされています。時代はすでにそんな状況になってきています。確かにAIは非常に便利で、恐ろしいほどの性能を持っています。一説によれば、今後数十年で人間が行う仕事の50%がAIによってカバーされると言われています。もちろん、AIが新しい仕事を生み出し、人間が活躍できる場が増えるという研究もあります。しかし、テクノロジーの進化は、ある程度の便利さを提供する一方で、多くの失業を生み出すことが一般的です。例えば、アマゾンの登場により、私が大好きだった小さな屋さんのような場所が次々と姿を消していっています。
だから、テクノロジーの進化と共に失業が増える現代を考慮すると、今後AIが進化していくことで、自分の能力をお金に変えたり、自分の能力で社会で認められることが難しくなっていくのではないかと思います。つまり、人間ががんばって努力して能力を育て、その能力をお金に変えるという今までのやり方は、徐々に通用しなくなってくると思われます。そこで大切になるのが人間力やコミュニケーション力だと思います。例えば、特に仕事ができるわけではないけれど、職場が明るくなる人や、場を和ませる人がより評価されるようになるでしょう。
仏教が教えてくれる知恵
そんな時代に適応するためには、仏教が教える方法が参考になるかもしれません。仏教では、「四摂法(ししょうぼう)」という教えがあります。四摂法は、布施(ふせ)、愛語(あいご)、利行(りぎょう)、同事(どうじ)の四つから成り立っています。
布施とは、自分の持っているものを人に分け与えることです。愛語とは、優しい言葉を選んで話をすることです。利行とは、相手のためになる行為をするように心がけることです。同事は、他人の喜びに共感し、共に喜ぶことです。このような心を持ち、人間力やコミュニケーション力を大切にすることで、これからの時代に適応していくことができるでしょう。
こういった四摂法を日々実践することで、より人間力が育っていくと思います。これはすぐにはできないですよ。最初は「これは偽善じゃないか」とか「これは私じゃない」という反発が心の中に出てくるかもしれません。しかし、筋トレと一緒です。筋トレを始めると最初は腕立て伏せが10回しかできなくて筋肉痛になりますが、徐々に11回、12回と回数が増えて筋肉が育つでしょう。最初からバーベル100キロを上げることはできません。心も徐々に育っていくものだと思います。例えば、筋トレには腕立て伏せやスクワットといった種目がありますが、心の筋トレとして四摂法を実践していくことが大切です。少しずつ、日々一つでも二つでも良いので、自分の中の反発をクリアしながら心がけていくと、徐々にそれが自然にできるようになり、知らないうちに人がそばに寄ってきてくれるでしょう。人がそばに寄ってくれることで、さらに嬉しくなり、その四摂法がより自然にできるようになるという良いサイクルが生まれると思います。
仏教は、どのように人間関係を築き、どのように心を育てていくのかということを教えてくれます。仏教の目指すところは、良いことを行い、悪しきことを遠ざけて心を清らかに保つことです。その中で心の育て方というのを、何百年も考え続けた宗教は、心の育て方について、どのように育てるのが良いかということを、いろんな形で教えてくれています。今後もそれらを紹介していけたらと思います。もちろん、科学的根拠に基づきながら皆さんと一緒に勉強していきたいので、もし興味のある方は読んでいただけるとうれしいです。
欲を見つめて
さらに一つ付け加えさせてください。先ほど義務感や共生を持って良いことをするよりも、主体性を持って自由な心で行動する方が良いとお話ししましたが、ここで注意してほしいことがあります。人間には欲というものがあります。この欲望は、生きるためのエネルギーとなる一方で、きちんと自分の欲を見つめて整えていかないと、四摂法を実践し、心の筋トレをしても、苦しくなったりしんどくなったりすることがあるのです。
人間には様々な欲があります。例えば、「生存欲」という生きたいという欲、「食欲」という食べたいという欲、そして「性欲」という子孫を増やしたいという欲があります。これらの欲望は、生きるためのエネルギーにはなっているものの、適切に管理しないと問題が生じます。ですので、心を育てる過程で、自分の欲を理解し、適切に整えることが重要です。「睡眠欲」という寝たいという欲もあります。そして「歓楽欲」という楽しみたいという欲、「怠惰欲」という怠けたい、ゆっくりしたいという欲があります。さらに「承認欲求」という、人に認めてもらいたいという欲があります。現代の文化では、承認欲求が非常に刺激されやすいですね。例えば、芸能人のように人々に注目される存在に憧れたり、多くのフォロワーを持つSNSアカウントに羨望したりします。このような承認欲求が刺激される文化の中で、承認欲求が肥大化してしまうと、四摂法を実践することが難しくなります。
例えば、相手に優しい言葉をかけたとしても、自分が認められたいという欲求が強い場合、自分の心が成長する余地がなくなってしまいます。主体的に相手のためを思って行動することが大切ですが、人間は承認欲求によって動くこともあります。ただ、なるべく承認欲求に振り回されず、主体的な行動を心がけることが重要です。そうでなければ、効率が悪くなり、欲求が育つことでさらに苦しくなってしまうでしょう。承認欲求と向き合いながら、主体的な行動を意識して心を育てていくことが大切です。
結果として、相手が例えば自分が良いと思ったことに対して、怒ったり悲しんだりしたときに、承認欲求の反動で嫌になってしまったり、疲れてしまうこともあります。ですから、自分の中で自問自答しながら、これは主体的なものなのか、欲求に基づくものなのかどうかを自分の心を見つめてください。
自分が欲求に基づいて動いていることに気づいたら、無理に抑えずに注意しながら、気持ちを整えて四摂法を実践していくことが大切です。それがわかっていれば、徐々に主体性のある行動に近づいていくでしょう。また、そういった行動が非常に気持ちよく感じられ、ポカポカした感じで良いと感じられるようになるでしょう。
この感覚を理解し、自分自身を見つめながら日々心の筋トレを行うことが大切です。今日もお話を聞いていただき、ありがとうございました。
Reference: Graham Sherwood Graine. The Implications of Relational Activity Motivations for Relationship Well-Being and Daily Relational Functioning in Marriage. Psychology. 2011.
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上記のお話に加え、慈悲の瞑想をしています。
音声の方が聴きやすい方もおられると思いますので良かったら利用ください。
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