古民家再生はじめました ~ボロボロになった襖絵も出てきました~
関東地方に台風が近づいて、気温はいつもより低いはずなのに息苦しいくらいの蒸し暑さだ。新幹線も航空便も運休で、せっかくのお盆休みが台無しになったひとたちの様子がニュースに映し出される。ウチは出かける予定もないので平和だけれど、ちょっと切ない。
今日は、先日紹介した手描きの設計図面とおなじように解体中に出てきた、ふるーい襖絵の話。この家が無人になったときには既に使われていなかったようで、物置の奥にしまい込まれていたらしい。まあ見事にボロボロだ。
古い襖絵が見つかった、と連絡をくれた建築士さんは、きっぱりと言った。「かなり傷んでいるけれど、直して一階の押入れに使いましょう。」
ウチは間口二間の小さな町家づくり。もともと小間物屋を営んでおられた古い街道沿いの一階は、小さな珈琲屋にするつもりでいる。奥に和室を残し、古い家具や建具にそこで息を吹き返してもらう。和室の先の縁側の向こうに、古い井戸のある中庭風テラスをつくる。
黄色く変色したこの襖絵には「壬申 ???? 南江 印」とあり、どうやら、壬申の年に描かれたものらしい。有名な「壬申の乱(じんしんのらん)」は、西暦672年に起きたできごと。江戸時代の壬申の年といえば、1812年 文化9年で、これもかなり昔のことだ。更に60年後が 1872年 明治5年。この年に編製された戸籍は、壬申戸籍(じんしんこせき)と呼ばれているそうだ。つまり、このあたりの時代のものなのかしらん。
ものすごく写実的に描かれたものではないし、決して驚くような価値のある作品という印象もない。けれど、その時代の空気を運んでくれるような気がして、和室の押入れの襖絵が懐かしい風情あるものになると思うと、とにかく心楽しい。
以前にも書いたけれど、「古民家再生」というと手作りであれこれ工夫しながら進めていくイメージが強い。でも、私たちの場合「重要伝統的建造物群保存地区」にある「特定物件」である建物をきちんと補修して当時の外観に復元する、ということが第一優先なので、その道のプロにお願いする一択である。更に、建物が持つ歴史を可能な限り残して伝えつつ、そこで暮らしながら、これから地域に長く貢献していきたいという強い思いがある。だからこそ、自分たちの生活環境を整えることも、とても重要なのである。
生活空間である二階は、可能な限り住宅性能を高めて快適に暮らせるようにしてもらう。マンション暮らしに慣れてしまった身にとって、狭さはそれほど大きな問題ではないけれど、断熱性能とか通信環境とかエアコン設備とかは、大いに気になるのだ。そんなあれこれをどうするかが、目下の課題だ。
暮らしの歴史を引き継ぐワクワク感と共に、現実に生活を組み立てていくことを考えると、なんだか身の引き締まる思いのする、今日この頃である。