古民家再生はじめました ~職人技あればこそ、古材が活きる~
現場監理も行ってくれている建築士さんから、和室の柱の傷んだ根元を「金輪継ぎ手」で補修した写真が送られてきた。新しい木材と古材がピッタリ合わさって一本の柱になっている。何度でも言うが、これを現場で合わせ込める大工さんて、本当にすごい。「職人技」という言葉どおりだ。
実は、これとは別に、間口を支える柱にも、より深刻なダメージが発見されていた。二間町家入り口の左右の柱、両方だ。とりわけ向かって左側の柱は、シロアリ被害だけでなく、傷んだ屋根からの水漏れもあって腐食が進んでいたのである。これはどうにもならないということで、丸ごと取り換えることになった。一方、右側の柱は、土台近くにはシロアリ被害があったものの、上部はしっかりしているらしい。市役所との話し合いの結果、傷んでしまった土台を取替え、柱は根元部分だけ新しい材を継ぎ、金物で補強するやりかたに決着した。もちろん、できる限り防蟻処理は行っておく。
以前も書いた通り、すべて新しい材料に取り換えてしまうのなら話は早いが、保存事業なのだからそうはいかない。ひとつひとつ行政と合意しながら進めていくしかないのである。実際のところ、新築で最初から作るほうが、時間も費用も少なくて済むだろう。それでも、こうしてかつての日本に当たり前に存在した古きものを残すことには意味があるとワタシは信じている。
初めて目にする「継ぎ手」などの大工仕事に感嘆するワタシに、建築士さんは「腕のいい職人さんです」とメッセージをくれた。思い出したのは、どんなリノベが可能か話していたとき、工務店社長の息子さんが言ってたコト。「古いものを直せる大工は、もうそんなにいないんで。」
いまや新築物件は工場で準備した材料を組上げる作業がメインなので、経験がなくても現場ではさほど問題ないそうだ。一方で、現場の状況に合わせて適切な判断しながら細工ができる職人さんの数はどんどん減っているのだという。現場の高齢化が進み人手不足が深刻だというような話は、知識として知ってはいるが、目の当たりにしてみると切ない。それでも、古材を活かす技術をもつ職人さんたちとの御縁があり、次の世代に引き継ぐことができる私たちは幸せだと思う。
かつて、機械化・オートメーションによってヒトは力仕事から解放された。さらにコンピュータが、大量の情報処理を易々とこなして多くの単純作業を代替した。そして今や「人工知能AI」は、ほぼすべてのことをヒトの代わりに行ってしまいそうな勢いである。
職人技だって、いずれ同じようにコピー可能さ、という考えもあるだろう。けれど人工知能は、江戸時代の大工仕事を見ながら職人さんの思いを想像したり、古い家で生活していた人の暮しぶりを懐かしんだりはしないはずだ。では、私たちはそこで何を見つけていけるのか。今から楽しみなのである。