【紹介】進化ゲーム理論が面白いよ!

 こんにちは、山本清流です。






 
 
 突然ですが、数学の一分野として、ゲーム理論を自然淘汰に応用した進化ゲーム理論という分野があるんです。

 ゲーム理論というと、企業同士の戦いとか、提携、契約とか、人間社会の複雑な関係性を分析するものだと思われるかもしれませんが、

 実は、生物学とも親和性があるんです。






 
 しかも、この進化ゲーム理論の成果は、経済学や社会学にも応用されています。

 社会規範はどのように継承されていくのか、伝統が変化するメカニズムとはどのようなものか、といった興味深い問題にも示唆を与えてくれます。






 今回は、進化ゲームを生み出したスミスさんの考え方を、わかりやすくご紹介します!

 では、進化ゲームの世界へ、出発!



 





 最初に、自然淘汰の考え方を確認しておきましょう。

 簡単に言えば、自然淘汰というのは、環境により適応する生き物が生き残っていくという考え方でしたね。適応しない生き物は淘汰(減っていって、いずれ消える)されます。







 さて、ここからスミスさんの独創的な考え方になります。

 スミスさんは考えました。ある同種の生き物の中に、Aという行動様式を持つタイプと、Bという行動様式を持つタイプの二種類がいるとき、AタイプとBタイプの全体に対する割合はどのように変化していくだろうか?

 もちろん、これは自然淘汰の考え方によれば、より適応するタイプが増えていくことになります。

 スミスさんはこれをゲーム理論で考えるために、AとBという行動様式をそれぞれ一種のプレイヤーとして捉えました。全体に対するAタイプの割合がaだとしたら、Aタイプはaの割合で同じAタイプと出会い、1-aの割合でBタイプと出会います。そして、それぞれと出会ったときの利得表を作り、それぞれの期待利得を計算することで、より高い期待利得を得るほうを適応的とみなし、適応的なタイプが増えていくという設定のもとに、自然淘汰をゲーム理論で考えることに成功したのです。







 わかりやすくするために、具体的な設定をつくってみます。

 かりに、ホモサピエンスという好戦的なタイプと、ネアンデルタール人という友好的なタイプの二種類がいたとしましょう。

 ホモサピエンスは戦うことが好きで、自分が得をするために相手を殺してしまいます。

 一方、ネアンデルタール人は、平和的で、なにか獲得物があれば分け合うことで、みんなと併存しようとします。







 
 ホモサピエンスは、ネアンデルタール人と出会うと、殺してしまいます。ネアンデルタール人は、抵抗しないので、簡単に殺すことができます。

 一方、同じホモサピエンスと出会うと、殺し合いになり、悪ければ自分が死ぬことになり、生き残っても大きな怪我を負います。

 そこで、ホモサピエンスがネアンデルタール人と出会ったときの利得を10として、同じホモサピエンスと出会ったときの利得を3としましょう。(この利得は大小関係を表すものであって、利得の大きさに具体的な意味はありません)

 ホモサピエンスの割合をaとすると、ホモサピエンスの期待利得は、10-7aです。







 次に、ネアンデルタール人について考えます。

 ネアンデルタール人はネアンデルタール人と出会うと獲得物を分け合って共存します。自分の持っているものを分け合うとすれば、相手を殺して全てを奪ってしまうホモサピエンスよりは利得が低いはずです。そこで、利得を5としましょう。

 一方、ホモサピエンスと出会ってしまうと、ネアンデルタール人は抵抗することがないので、簡単に殺されてしまいます。利得は0です。

 つまり、ネアンデルタール人の期待利得は、5-5aとなります。







 ホモサピエンスの期待利得は10-7a、ネアンデルタール人の期待利得は5-5a。aを横軸にして図にすると、こんな感じ。汚すぎてごめんなさい🙇‍♂️

 利得の大きさが適応度を表すのだとしたら、どうなるでしょう? 

 aというのはホモサピエンスの全体に対する割合ですが、aがどんな値であったとしても(ただし、aは0から1の間)、ホモサピエンスの適応度のほうが高いですね。つまり、ホモサピエンスの割合がいくらであったとしても、たとえ1%であったとしても、ホモサピエンスのほうが適応的なので、ホモサピエンスの行動様式を持つ個体が増えていくことになります。

 どの割合でもホモサピエンスが適応的であるということは、ずっとホモサピエンスが増えていくということであり、ネアンデルタール人はいずれ淘汰されることになります。







 このようにして、ゲーム理論を用いて自然淘汰を分析できることを、スミスさんは発見したわけです。

 いまの例は僕が適当につくった例ですが、こんな感じで、生物の進化という自然現象も合理的選択の結果であるかのように扱えるわけです。







 期待利得とか、利得とか、そういう概念を知らない人にはあまり面白さが伝わらなかったかもしれませんが、

 要は、人間社会を分析するために開発されたゲーム理論という道具を、生物の世界でも使えるということなんです。これは驚くべきことですね。






 そして、冒頭でも言ったとおり、この進化ゲームの考え方は、逆に、人間社会に応用することもできます。

 社会には文化というものがありますが、それはやはり適応的なものが残ってきたと見るべきではないでしょうか。しかし、こんな疑問もあります。消えていった文化の中には現在の文化よりも適応的なものはなかったのか。もしかしたら、よりより文化があったが、社会での普及割合が低かったために消えてしまった文化もあったかもしれない……。

 そんな、まさに文系っぽいことを、数学を使って考えることができるというのは、驚くべきことだと思います。






 以上。進化ゲーム理論が面白いと思ったので、紹介してみました。

 興味がある方は勉強してみてください。ゲーム理論は数学ですから、数学のできる人なら、より深いところまで辿り着けるはずです。

 僕には数学の教養がないので、数学のできる人が羨ましいです……。いちおう、勉強はしようと思ってるのですが。