山本清流の傑作ショートショート④『夢で不倫か』
2020年6月17日、早朝の出来事であった。山形県内のマンションの一室で同い年の妻と新婚生活を送る坂木さん(24)が午前6時ごろに目が覚め、早すぎたために二度寝をしたときに、それは起こった。
坂木さんは夢を見た。その夢の中で、坂木さんはホテルの一室と思しきところのベッドに座り、あぐらをかいていた。坂木さんが座っていたのはダブルベッドで、シャワー室の方からシャワーを利用する音が聞こえた。その相手が妻であるようには感じなかったという。
坂木さんは、押し寄せるような性欲の波に揉まれて昂揚していた。これは不倫だろう、と坂木さんは気付いていた。いけないことだとはわかりながらも、だからこそ、いっそうに昂揚感に満ちていた。坂木さんは、相手がシャワー室から出てくるのを待ち望んでいた。
「で、少しして、シャワー室から出てきたんですよ、その相手が」
大きな黒い目。細い顎。つるりとした額。ありえないほどに華奢な身体。なんて美しいのだろう、と坂木さんは感じた。そう、それは紛れもなくリトルグレイの宇宙人であった。
なんとも言えない金属的な美しさの声で、全裸の宇宙人は、坂木さんを誘った。坂木さんは至上の満足感に包まれながら、そうして、宇宙人との行為に及ぶことになった。
「うるうるとした大きな黒い目が恥じらいながら瞬きするものだから、興奮が止まりませんでした」
宇宙人は、坂木さんとの行為に及ぶ間、キュー、キュー、と喘ぎ声を上げた。その甘美な声に興奮を強めて、坂木さんはすぐに果ててしまったという。そこで、目が覚めた。
午後7時ごろ、坂木さんが目覚めたとき、横から妻に睨まれていた。「なんの夢見てた? へんな寝言が聞こえたんだけど」との妻の追求に対し、坂木さんはひやひやしながら、どのような寝言だったのかと訊いた。すると、妻は打ち明けたという。
「我々は、不倫中だ、って言ってたけど?」