パフォーマンスに結びつく「変革マインドセット」とは?/白木三秀教授(早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 所長)
白木三秀教授 プロフィール
早稲田大学 政治経済学術院 教授
1951年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。
国士舘大学教授等を経て、1999年より現職。専門は労働政策、国際人的資源管理。現在、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所所長、国際ビジネス研究学会会長等を兼任。
最近の主な著作に、『国際人的資源管理の比較分析』(単著、有斐閣、2006年)、『チェンジング・チャイナの人的資源管理』(編著、白桃書房、2011年)、『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著、早稲田大学出版部、2014年)、『人的資源管理の力』(編著、文眞堂、2018年)、『英語de人事:日英対訳による実践的人事』(共著、文眞堂、2020年)等がある。
(豊田)
こんにちは!スパイスアップ・ジャパン代表の豊田圭一です。
「人事」のHRと「トランスフォーメーション」のXを掛け合わせて「HR-X」と名付けた当チャンネルは、「トランスフォーメーション人材で組織を変革する」をスローガンに、「人事」と「トランスフォーメーション」、つまり「変革」というキーワードで様々な取り組みをしているゲストをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。
今回のゲスト、Mr. Xには早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の所長で、弊社の顧問にもなっていただいている白木三秀教授をお迎えしました。
白木先生、今日はありがとうございます。
(白木先生)
どうもありがとうございます。
(豊田)
今日、先生とお話ししたいのは、一緒に研究させていただいたThe Transformation Mindset(X-Finder)についてです。2020年の3月くらいに、以前一緒に研究させていただいたグローバルマインドセット(G-Ship)をアップデートしたい!と連絡をしたところから始まったのですが、その前提として白木先生は色々な企業の皆様と交流してらっしゃいますけど、HRMのスペシャリストとしてこの領域を長く見てらっしゃって、この5年、10年で私たちを取り巻くビジネス環境、環境変化がどうなったかなとその辺りをお聞きしたいと思ったのですが、いかがでしょうか?
私たちを取り巻くビジネス環境の変化
(白木先生)
いやー、それなかなか難しいですよね。
変化はずっと起こっていますし、最近ですとVUCAの時代とか色々言われているのですが、あるいは米中関係で色々なところに振り回されているって感じなんですけど。
いくつかある中で、ひとつ強調できるのは「日本の地盤沈下」みたいなところがありますよね。
90年代にバブルが崩壊してから日本の経済が伸びていないことと、少子高齢化が進んで活力が落ちていると言うんでしょうか、そういう中でグローバリゼーションが日常化しているということが起こっていると思うんですよね。
日本の企業のポジションとしては、グローバリゼーションの中の一員として、どういう形で存在感を示していくか?ということがより強く問われているという感じがしますね。
それ以前の70年代、80年代ですと、日本の企業はすごく着目されていたんですよね。
それから段々とジャパン・パッシングが起こり、経済が伸びないというのが続いているというのが現在じゃないかと思います。
(豊田)
変化は当然常にありますけど、VUCAなんて言葉が出てきたように、今すごく変化が激しい中で今年は特に新型コロナウィルスがありましたから、かなり変化している世の中、この1年だった中で組織や個人はどうすることが求められているのかなと思ったのですが、白木先生はその辺りどのようにお考えでしょうか?
(白木先生)
先ほどVUCAって流行語みたいな言葉を出したのですが、これは要するに環境が想像を超えて変化するという中でどう対応をするか?ってコロナウィルスがその典型のひとつじゃないでしょうか。
だからどうやってそれを乗り越えてくかが求められているということが言えるんじゃないかなと思います。
グローバルマインドセットから変革マインドセットへ
(豊田)
グローバルマインドセットの研究を一緒にさせていただいた時、「マーケットを求めて、特に新興国マーケットを求めて外に出ていかなければいけない」という中で、自分たちのコンフォートゾーン、自分たちがホームとしているところから飛び出したところのアウェイな環境でも成果を出せる人ってどういう人だろう?というので、グローバルという「身を向こうに移動する」ということで私たちはグローバルマインドセットの研究をしましたけど、今はVUCAに象徴されるように、移動するだけではなく周りの環境が全部変わっているので、グローバルじゃなく「どんな環境でも」みたいなところかなと思っていまして、先ほど申し上げたグローバルマインドセットからトランスフォーメーションマインドセットへのアップグレードの研究をしたいと言った時に、最初は「逆境でも成果を出せる人のマインドセット」は?みたいなことで、「逆境」という言葉を使っていまして、結果的には“The Transformation Mindset”、日本語では変革マインドセットという名称にしました。
研究の結果、5つの要素が抽出されたのですが、研究が英語で行われていたので5つの要素は英語で出てきたのですが、私たちが勝手に日本語に訳してしまいまして、Continuous Learningは「あくなき探究心」、Resilienceは「折れない心」、Driveは「やる気」、Adaptability and Creativityは「適応力と創造性」、Human Relations and Teamworkは「周囲を巻き込む人間関係力」という風に出てきたのですが、この5つの要素が出てきた時に、白木先生の印象としてはいかがでしたでしょうか?
パフォーマンスに結びついた変革マインドセット
(白木先生)
そうですね、驚くべき結果ではないと思っています。
ただ、前回のグローバルマインドセットを考えた時と共通した点はありますよ。
何かと言いますと、パフォーマンスを出せる要素はなんだろう?と考えました。
ですから、パフォーマンスに結びつくものを考えようとしたことですね。
一般的には平均的にレベルを上げればいいという議論が多いかと思いますが、我々はそうではなく、「パフォーマンスに結びつく要素はなんだろう?」と考えると、今回出てきた5つの要素は驚くべきものでもないんじゃないかという感じはしますよね。
(豊田)
その中でもグローバルマインドセットと重なる部分もすごくあるかなと思っているのですが、逆に重ならない部分もあるんですか?
(白木先生)
重ならない部分はあまりないんじゃないですかね。
(豊田)
パッションもありましたしね。
実はグローバルマインドセットの研究をして7つの要素を出していただきましたが、それを見た時もすごく不思議でして、何かと言ったら、「これはグローバル関係ないじゃないか?」って思ったんですね。
主体性、行動力、コミュニケーション力などが出てきた時に、グローバル関係なくて日本でも言われていることで、それこそ経済産業省の社会人基礎力でも出てきましたし、当たり前のことかなと思いながらも、場所が変わったらそれらが発揮できないということがあるかなと思っていて、今回のも極めて当たり前といえば当たり前かなと思いました。
(白木先生)
結果的には理解できるものばかりなんですよね。
「あくなき探究心」と訳したContinuous Learning、継続して学ぶ心がないと乗り越えていけないという考えてみれば当たり前なんですけど、ただこれをデータで分析して出したというのが信頼性がありますよね。
しかも、パフォーマンスに結びつくものという計算をしていますから。
(豊田)
以前、グローバルマインドセットの研究をしたときは、日本人のビジネスパーソンをターゲットに研究をしましたよね。
グローバルマインドセットのアセスメントはアメリカにもありますが、それとは違い、日本人ビジネスパーソンをメインのターゲットに考えましたけど、今回は世界の人たちに共通して通用するんじゃないかと思ってやりました。そこは日本人と外国人、比べる必要はないところなのでしょうか?
(白木先生)
そう考えて今回は作りました。
我々のユニークなところは、先ほども強調して言いましたけれども、パフォーマンスと結びつくものはなんだ?という分析なんですよね。
だから平均値がどうとかそういうことではないんですよ。
この5つの要素は被説明変数、パフォーマンスに全部がプラスの影響なんです。
どれが強いか?という順番もあって、そういうのも明らかにしました。
ですから高い人は良いんじゃないかとなりますし、ものすごい高い人はこれ以上高める必要がない人もいるかもしれないし。
変革マインドセットの鍛え方
(豊田)
マインドセットって日本語では「向き合い方」や「心構え」とか「心のあり方」みたいな言い方をしますけど、高い人はこれ以上鍛えることは難しいということもありますけど、低い人が鍛えようと思った時はどういう風に鍛えるのがいいのでしょうか?
(白木先生)
マインドセットとは言ってますけど、実際はコンピテンシーに近いものなんですよね、要素としては。
行動特性をどう変えていくかということなんですよね。
ですから低い人はいくつかのことがあり得るかと思うのですが、1つはあなたは低いというアウェアネスを与えて、気付かせるということ。
それで知識や問題意識を持ってもらう。
一般的には、国内外で色々な経験をしてもらって、自分の置かれた立場とか世の中がどうやって動いているのかを身を持って感じてもらって、足りないところは伸ばしていこうというキッカケにしてもらうことが重要なんじゃないかと思うんですよね。
(豊田)
例えば、Continuous Learningでは、継続する学習意欲の前提にあるのは好奇心という言葉も出てきましたよね。
でも「好奇心を持て!」と言って持てるもんではないじゃないですか。
好奇心が先なのか?行動が先なのか?って言ったら、やっぱり色々な経験をさせることが好奇心に結びついて、経験してこの国を知って、この国のことをもっと知りたいなとか、他の国はどうなんだろうかとか、その繰り返しということですかね。
(白木先生)
その通りです。
今、日本人の話がありましたので言いますけど、やはり日本の若者は先進国病に罹っていると思うんですよね。
だから、多くの人はここで満足してしまっているんですよ。
ですから海外には行きたくないですとか、厳しい環境のところには行きたくないという人が非常に多いようなのですが、世の中で何が起こっているか分からないと現代を乗り切っていけないんじゃないですか。グローバリゼーションは日本にいるから関係ないという世界ではないですよね。
日本の企業の売上高を見ても、海外での売上が9割以上という企業もたくさんあるわけじゃないですか。
(豊田)
そのためには色々な経験をすることが重要ということでもありますけど、人材開発に携わっている私たちがやるべきことは、そういう場を提供するということなんでしょうか?
(白木先生)
そうだと思いますね。
学生含めて、若い時からシステマチックに提供することだと思います。
(豊田)
分かりました。
今年一緒に研究させていただいたアセスメントを世界中の人に受けてもらおうかなと思っていて、その結果を白木先生にお見せしながら改良をしていきたいなと思っています。
(白木先生)
これは使えると思いますよ!
(豊田)
嬉しいです!
(白木先生)
だってパフォーマンスに結びつくやつですから。
一般的にはパフォーマンスに結びつけた研究はほとんどないですよ。
(豊田)
実際、リーダーをやっている外国人の友達に見せたり話したりしたのですけど、興味関心のある分野だ!とかどういう風になっているのか教えて!とか色々言われたので、世界中の人が興味ある分野じゃないかなと思いながら作りました。
(白木先生)
この特徴は、語学については聞いていないんですよ!
ですから語学に弱くて、これが高い人は語学を鍛えれば何の問題もないですよ。
(豊田)
分かりました!
今日はトランスフォーメーションマインドセットについて一緒に研究をさせていただいた白木先生にお話を伺いました。
今日は本当にどうもありがとうございました。
(白木先生)
どうもありがとうございました。
(豊田)
さて、HR-Xではこれからも「人事」と「トランスフォーメーション」というキーワードで、様々なゲストをお呼びしてお届けしたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
改めまして、白木先生、今日はありがとうございました。
豊田圭一(株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役)
上智大学を卒業後、清水建設に入社。約3年の勤務後、海外留学コンサルティング事業で起業。以来、25年以上、グローバル教育事業に従事している。
現在、国内外で「グローバルマインドセット」や「変革マインドセット」を鍛える研修を実施する他、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)にグループ会社があり、様々な事業を運営している。
2018年、スペインの大学院(IE)で世界最先端のリーダーシップ修士号を取得。
2020年に神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部の客員教授に就任。
著書は『とにかくすぐやる人の考え方・仕事のやり方』『ニューノーマル時代の適者生存』など全19冊。
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員、内閣府認証NPO留学協会の副理事長、レインボータウンFMのラジオ・パーソナリティも務めている。
豊田が2020年6月に出した著書『ニューノーマル時代の適者生存』
株式会社スパイスアップ・ジャパン
公式ウェブサイト https://spiceup.jp/
公式フェイスブック https://www.facebook.com/SpiceUpJP/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?