料理教室の講師を5年やって考えたこと
プロフィールにも書きましたが、私は、東京都三鷹市にあるキッチンスタジオペイズリーという料理教室に勤めています。
私の師匠、雇い主であり、教室を主宰するのは料理研究家の香取薫先生。住宅街の一軒家という教室にしては座学も実習もかなりガッツリやります。
ひとクラス10人ほどのなかに、飛行機、新幹線、高速バスで通ってくる人が毎回ひとりふたりはいるかもという全国区の教室です。
■スパイス料理教室に集まる人々
スパイス料理、インド料理の教室ってどんな人が通うと思いますか?
生徒さんはベテラン主婦、料理が息抜きの会社員、インド人と結婚した人、アーユルヴェーダの実践者、すでにカレー屋をやっている人、和食や洋食の料理人など、さまざまです。
ことに男性は、料理する機会がなかった方も多いわけで、スパイスカレーブームに触発されて初めて台所に立ちましたとか、退職したので田舎の蔵でカフェやります(料理したことありません)みたいな方もちょくちょくおられます。
■3cm上の風景が見える授業を
そんなレベルの違う人を一度に教えられるの?とよくきかれるんですけどね。
心がけているのは、どんな料理歴の人でも、それぞれの方に目線の3cm上の風景を見せてさしあげられるような授業をすること。
ハイヒールを履く人は分かるでしょ。ちょっと高くなるだけで、目に入るものや感じることが変わるじゃないですか。
だから、ご一緒に調理する数時間、その人の気持ちや関心にぴったりフィットの「レンタルかかと」を試着していただく感じで!笑
「その先」が垣間見えたとき、はじめて、人は動くと思うの。
欲がわくから。自分もそこまで行ってみたい、自分にもできるかな、と。
調理技術は、所詮、その人が手を動かして練習しなければ身につくはずもありません。
だから、やってみよう、続けてみよう、深めてみよう、という動機づけのお手伝いをするのが私の仕事じゃないかと思うわけです。
でも、遠くまで見えすぎても腰が引けてしまう方も多い。
気づかないうちに成長、を狙うならやはり3cmがいい高さよね。
■アンテナを立てると見えること
そういう接客をするには、日頃どのくらい料理をする人なのか、来会された目的はどのあたりなのか、授業開始後の早い段階で見抜く必要があります。
こればかりは見てきた数がものを言うかなと思うので、年間の新規来会が200名に届くような教室に立たせていただいているのは強みかもね。
想像つくと思いますけど、たとえば野菜に包丁を当てる瞬間を見ればある程度は分かるし、座学や雑談のどこに反応しているかで当たりをつけていることも。
教室では新顔なのに、作業の合間に慣れた感じで食洗機回してくださるのは大抵、飲食店経験者。将来的に自分で店をやりたい人も多い。
猛スピードでためらいなく野菜を刻むのは給食などの大量調理経験者。
切るサイズを丁寧に考えたりする、家庭料理向けの落ち着いたペースに戻せる人と、そっちのスイッチはついてない人がいる。
卓上コンロにテフロンのフライパンなのに、ガッコンガッコンふるってすごい音を立てるのは、バイトでチャーハンかナポリタンを作っていた人。
たいていカレーの食べ歩きに熱心で、最近お気に入りの店とか、はまるきっかけになった店を伺うと語ってくれる。
本職のシェフさんとか板前さんは、道具をとろうと振り向いたらすっと差し出してくださることも…!日頃チームでお仕事されてるんですかね、目の端でこっちの動きを完全に読んでいてすごいんだな。
そんな日は完全に姫な気分で頼らせていただいてみたり…笑
■自分より上の人に「教える」?!
ということは、しかし、私より料理人としての技術がはるかに高い方がいらっしゃることも結構あるわけです。
お客さんに分け隔てはしないけど、でも、内心マジでびびるような人が受講されたこともありました。
師匠には「スパイスはまどかのほうが詳しいんだから気にすることない、いつもどおりやんなさい」って言われた。
そうなんだけど、さすがにその時は、数日どうしようって考えたんですよね。
きっと、その人は料理について私よりもはるか遠くが見えている。
調理師学校も出ていない、店の調理場でしごかれた経験もない、家族に三食作り続けた経験もない、しょせん会社員あがりの…
と、自分のキャリアを貶める言葉が脳内をかけめぐる。
実はそのとき悩み抜いて出した答えが…
その方の目線の3cm上の風景を見せてさしあげられる方法を考えてみよう、ってことだったのです。
その後、自分のポリシーになるものが初めて言葉になった瞬間でした。
■「先生」ってなんだろう
教室って何をする場だろう。
先生ってどんな役目を果たせばいいのか。
どんな料理歴の人にも、私で、してさしあげられることが必ずあるはず。
お金を払って時間を割いて通ってくださったぶんの、何らかのインスピレーションをご提供するにはどうすれば。
毎度、真剣勝負で考えて考えて考えて走っていたら、あっという間に5年も経ってしまいました…笑
(つづく!)