『春待つ僕ら』完結記念 あなしん先生インタビュー 中編
『デザート』誌上で、6年という長期にわたり連載された、あなしん先生『春待つ僕ら』。その最終巻が本日5/13(水)、ついに発売いたしました! 完結を飾る14巻には、番外編3編や描き下ろしなどを収録。今回は通常版と、ミニ画集付特装版が同時刊行となっております。
* 未読の方のために、あらすじをご紹介 *
『春待つ僕ら』あらすじ
高校入学を機に、ぼっちで臆病な自分を変えたい!と願う女の子・美月(みつき)。その一歩がなかなか踏み出せずにいた矢先、バイト先のカフェで出会ったのは、同じ高校のバスケ部で有名な4人のイケメンだった。彼らと知り合った美月の日常は、そこから少しずつ変わり始めて──。
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この完結を記念してスピカワークスでは、連載を終えられたばかりのあなしん先生に、スペシャルインタビューを受けていただきました!連載を始めたきっかけや、創作上の工夫、キャラクターたちへの想い、そして次回作へのお気持ちなど、ここだけのお話をたっぷり伺っています!!
前編に続くこの中編では、キャラクターづくりから、『春待つ僕ら』の核心に至る部分まで、深く深く伺いました。最後まで、ごゆっくりお楽しみください。
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◆キャラクター設定とその方法
インタビュアー・Kさん(以下、K):連載開始時とその後で、主人公・美月の変化や成長を季節の流れに沿って読者へ伝えていくために工夫された点や、意識した部分はありますか?
あなしん先生(以下、あ):作画の面でいうと、時間をかけるようになりました。最初のころは男の子を描くのが大変すぎて。人数も多いし、「イケメンに描かなきゃいけない」という思いがあったので。でも、美月が永久に恋をしたあたりからは、時間をかけて「可愛くしていかなきゃ」と思うようになっていました。
K:それにも理由が?
あ:美月はいたって普通の女の子なので、「永久」というすごく人気のある男の子と仲良くなっていくためには、どこかに説得力が必要だと考えて。あまり努力せず、ずっと何も変わらないままという子を描くより、恋をしてちょっとずつ変わっていく方が、高校生の女の子としては自然かなと。
K:なるほど、そういった流れで美月の変化が表されていたんですね! 続けて、男の子4人についても伺いたいのですが、たとえば瑠衣と恭介さんでは「どの女の子にも優しい」という意味では同じですけれど、キャラクターとしての個性はそれぞれ違って確立されています。キャラを描き分ける時に、意識していたことはありますか?
あ:感覚で描いてしまってる部分もあるんですけど。まず男の子たちを描く上では、私がしてもらって嬉しいと思う態度や行動はあまりないんです。たとえば永久やあやちゃんの、美月に対する言葉や行動を考える時は「私がしてもらって嬉しいこと」ではなく、どちらかといえば私が男の子側の立場で、「美月に何をしてあげたら喜ぶかな」と考えていました。される方ではなく、する方の立場に立って「何をしたら美月はこっちを向くかな」という形ですべて考えるようにしていて。
K:女の子の気持ちを意識しつつの、男の子視点なんですね。
あ:描き分けとしては、たとえば瑠衣と恭介が同じような行動を取るとしても、絵的には全然違うようなものにしないといけないと思っていました。瑠衣と恭介って、「女の子好き」という点では同じですけれど、徹底的に違うところは「子供っぽいか大人っぽいか」。だから同じ特徴があったとしても、性格として絶対に違うところはあるので、その違いをどれだけアピールできるか、と。
K:ほかにも恭介とあやちゃんは、女の子への対応が似ていますよね。大人っぽい。
あ:そうですね。でも決定的な違いとして、あやちゃんはまっすぐなんですよ。「思いの強さ」をテーマとして描いていた人なので、攻撃的だし、「一直線」みたいなところもある。そこが恭介には全然ない。恭介はどちらかというと自分の思いをあまり出さず、何かを含んでいる感じで、一歩引いて物事を見ている。そういう違いを、作品の中で出せる時に出していく。二人の性格の違いをメインに描く回じゃなくても、セリフや行動にそれを表していくことでキャラづけをしていったような気がします。
K:あやちゃんの「まっすぐさ」は、美月への愛の伝え方にも表れていたと感じます。中でも11巻の、あやちゃんと美月が帰り道に話すシーンで、「好き」という言葉を口にしていないのに、読み手には美月に対する気持ちがすごく伝わってきて。そういった場面は、どのように思いつかれるのでしょう?
あ:永久との戦いでしたね、私の中の(笑)。美月が全然振り向かない時に、「どうやったらこっちに振り向くだろうか」と考える。「これがだめだったらこれ」という感じで、どうやったら永久に勝てるかを、あやちゃんの立場でずっと考え続けていました。
K:そうなんですね!ちなみにあやちゃんって余裕があるイメージだったんですけれども、「永久に負けてるから頑張らなきゃ」といった部分もあったのでしょうか。
あ:永久に負けているからというより、「美月が永久のことを思っているから」かなと。あやちゃんについては、永久と同じ土俵に乗せたくないっていう気持ちがあったんですよ。そこが余裕に見えたのかもしれません。作者の目線として、私があやちゃんをキャラ的に、永久に負けるような人にしたくなかったこともあって、「同じ土俵には立たせない」ことになりました。その結果、美月がどちらを選ぶのかわからなくなったというか、「美月が好きなのは間違いなく永久なのに、こんなに大きな愛情を持っている人がそばにいて、どうするんだろう?」と思わせることになったのかなと思っています。
◆美月が永久を選んだ理由
インタビュアー・Sさん(以下、S):前編で伺った「連載前の案を出す段階」で、候補の一つに「運命の恋」というお話が出ていました。『春待つ僕ら』(以下、『春僕』)では、「あやちゃんが美月の運命の人ではないか」と感じてしまう関係でした。
あ:少女漫画の中で描かれるキャラの一般的な位置づけを『春僕』にはめてみると、永久がヒーローで、あやちゃんが当て馬。でも、それが見え見えの感じで行くのが嫌でした。私、あやちゃんというキャラを「当て馬」と思ったことがないんです。「当て馬」っていうと、ヒーローよりも劣っちゃう部分があるように描く場合があって、そういう物語であればそういう位置づけでいい。でも『春僕』という物語の中で、「あやちゃん」という人間を描きたいと思った時に、そういう描き方は嫌でした。だからたぶん、永久と競ってしまうくらいのキャラになったんですよね。
S:なぜ美月は、あやちゃんではなく永久を選んだのでしょうか。
あ:あやちゃんは美月にとって、「守ってくれる人」なんですよ。あれだけ完璧で何でもできて、美月に対してはさらに理解が深く、守れてしまう人。美月が「それでもいいよ」という女の子なら、それで良かった。でも美月は最初から「あやちゃんみたいになりたい、成長したい!」と思う女の子だったので、そういう子には成長させてくれる、一緒に成長してくれて高め合える永久の方が合ってるのかな……と。あやちゃんを選んで幸せになれる子も絶対いると思うんですけれど、『春僕』は美月が主人公なので永久です、という形になりました。あと、この物語は高校1年生になった子たちの物語なので「青春と恋」がテーマ。あやちゃんと付き合うと「愛の物語」になってしまいます。それは「美月にはまだ早いのかな」という気持ちもありましたし、初恋をしている2人の方がしっくりくるなっていうこともあって。あやちゃんと美月の組み合わせも間違いではなく、でも美月には楽しい恋と青春をしてほしいなという希望がありました。
S:一番描きたかったテーマが、彼らの成長ということでしょうか。
あ:もしそれが「愛」だったら、相手は間違いなくあやちゃんでした。「どうやって支えあってきて、自分にとってどれだけ大事な相手か」を描きたいなら、あやちゃんでよかったんです。でも、美月は「成長したいと思っている子だった」というのがすべてですね。
◆性格設定と距離感
S:美月の変化についてもう少し伺いますね。先生は連載中、最終的には美月がどんな風に成長してほしいと思いながら描かれていたのでしょうか。
あ:「積極的に自分から前向きになろうとしていくように」でしょうか。それは、周りの子たちのおかげだったりするんじゃないかな。全員のキャラを見た時に、美月という女の子はどちらかというと個性をあまりつけずに描いていました。ほかの子は、自分ではすごくキャラ付けをしたつもりです。そんなキャラがたくさんいる中で、美月も埋もれないようにしようとすると、必然的に前向きになれたのかなと。
S:そういうところは、試合中に声を出したりとか、みんなと一緒になって竜二君をちょっとからかってみたりといったシーンにも表れていました。
あ:そうですね、そういうところですね、本当に! 普通のモブキャラの女の子たちの中にいるとあまり目立たない美月が、竜二みたいなキャラ相手にだとけっこう言えちゃうところや、レイナちゃんに勢いよく言われると美月も突っ込まざるをえないとか、ところどころで美月の変化や成長を見せられたかなと思っています。
S:ちなみに、先生ご自身はさばさばしている性格だと仰っていましたが、美月は正反対の性格ですよね。自分とは全然違う性格のキャラクターを描くことは、難しくありませんでしたか?
あ:私は描く時は、キャラクターは全部、自分と別物と考えているんです。そのキャラごとの自然な感情をちゃんと描いてあげたいので。それでもたまに、美月の心情を描く時に自分の感情が入っちゃったりもして、そうならないよう気を付けて描いていました。
S:そうなんですね! でも、先生はどのキャラも「本当にお好きなんだな」ということが作品から伝わっていたのですが、描いていて楽しかったキャラは誰でしょう?
あ:「楽しかった」で選ぶと、自分の一番好きなわちゃわちゃシーンで活躍してくれる子になるので、やっぱりレイナちゃんと竜二かな。出てくると、すごく動くので。ホッとするというか、するするページが、ネームが進むので楽でしたね。また、そういう子たちのツッコミ役として、瑠衣や恭介も動いてくれるようになったのもやりやすかったです。
あ:二人にはめちゃめちゃ助けられましたね。『春僕』には「楽しいところがないと物語が成立しない」部分がありました。もちろん、物語に強弱をつけてドラマチックになる要素も心がけつつ、それ以外の場面ではとても大事な、楽しい二人だったなと思っています。
K:文化祭の女装も、とても印象に残っています(笑)
あ:ありがとうございます(笑) そういうのが「アリ」なキャラも必要ですよね。なにをしてもOKなキャラ!
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中編はここまで! 美月の変化や成長の意味、そしてあやちゃんと永久への想いの違いなど、『春僕』の核心に触れるお話ばかりで、ドキドキされた方も多いのでは……?!
ここまでかなりディープなお話が続きましたが、今インタビュー最後の更新となる後編では、『春僕』の装丁秘話と読者の皆さんへの思いなどを、あらためてたっぷり語っていただきます! 引き続き、どうぞお楽しみに。
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<あなしん先生の代表作・ご紹介>
★『ヒレントリップ』
マンガ家をめざす高校1年生・葵美羽(あおい・みう)は、生徒会長の三科煌星(みしな・こうせい)に思いを寄せている。少しでも彼に近づきたい美羽は、生徒会に入ろうと試みるが叶わない。だがある時、美羽の描いたポスターが、思いがけず生徒会を救うことになって……?!
★『あくまで恋しよう』
★『ユメコイ』
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