みっちゃん

僕は学校では所謂ぼっちだ。

内気とかそういうわけではない、と思うが、ともかく友達がいない。

しかし、それでも学校に来ると幸せなことが一つだけある。隣の席のあの子だ。

名前は藤澤さんと言うらしいが、いまだに話したことはない。

高校生にしては整った顔立ちで、そして何よりかわいい。見ているだけで癒される。これだけで学校に来た甲斐があるというものだ。

今日は話しかけよう、そう思っていたある日、突然あの子の方から話しかけてきた。

「ねえ、山田くんってさあ、普段家で何してるの?」

「え、ぼ、僕?」

「山田くんしかいないじゃん笑 何してるの?」

「うーん、ゲームとか、かな?」

「なんのゲームやってるの?」

「ちょっと古いゲームだけど、ロンロンダンパってゲーム…知ってるかな?」

「あ、私もやったことある!面白いよね!」

なんと、話が盛り上がった。僕は有頂天になっていた。それ以降はそのゲームについて話した気がするけれどもあまり覚えてない。でも意外だった、快活な方、ではないけれども比較的明るい藤澤さんが鬱ゲーと呼ばれるロンロンダンパをやっているとは思わなかったからだ。

それから、僕は藤澤さんと定期的にゲームのことや日々のことで話すようになった。

とても幸せだった。

普段人とはあまり話さない、ましてや男性と話しているところなど見たこともないような藤澤さんが僕とだけは話してくれる。それも赤裸々に。とても幸せだった。

長く綺麗な黒髪を見る度に心がドキドキしていた。

しかし、僕たちも高校3年生、受験勉強に専念せねばならない。しかし藤澤さんは可愛い。

お互いの話す話題も受験や勉強の事が多くなってきたある日

「ねえ、山田くん。手紙でやり取りしない?」

「え?手紙で?」

「うん、そう。私たち、受験生で忙しいじゃん。手紙だったら、空いた時間でやりとりできるし。」

なんだかロマンティックだと思った。

しかも、すぐに届くのじゃつまらないからポストに投函することとなり、つまりは、なんとあの藤澤さんの住所が分かったのだ。これはなんという幸運!


山田くんへ

元気?勉強は順調?私は模試の結果が悪くてやばいよー。

藤澤


藤澤さんへ

僕は元気です。僕も模試の成績が振るわなかったですが、なんとか頑張れております。お互いに頑張っていきましょう。

山田


山田くんへ

最近、学校に来ていないみたいだけど、大丈夫?

久々に会って話したいよー。

藤澤


山田くんへ

本当に大丈夫?心配だよ。学校は相変わらずつまらないよ。山田くんが来てくれたらもっと楽しいのにね。なんて笑

早く良くなって学校来てね。

藤澤


藤澤さんへ

心配かけてごめんね。ちょっと体調がすぐれなくて、でも今病院にも通ってるから多分すぐ良くなるよ

よくなったらまた学校で色んな話しようね

山田


山田くんへ

やっと返事くれた。嬉しい。私はお医者さんじゃないから病気のことはわからないけど、早く良くなってね。

藤澤


藤澤さんへ

実は、先日、鬱を診断されたんだ。

親に無理やり精神科に連れて行かれてね。はは。

何もやる気が起きなくて受験とかそれどころじゃないんだ。

山田


山田くんへ

それは大変たね。。私、力になるから辛いことがあったらなんでも言ってね。

藤澤


藤澤さんへ

僕って学校でも友達いないでしょ。それに、頭も良くない。自分の存在意義がわからなくなっててさ。それで、思い詰めてたらこんなふうになっちゃったんだ。正直死んだほうがいいと思ってる。死んだほうが誰にも迷惑かけないし、親も僕の養育費を払わなくて済む。藤澤さんだって僕みたいな人と連絡取らなくて済むし。

山田


山田くんへ

そんなこと言わないで。君は私にとっての数少ない友達なんだから。今度家に行ってもいいかな。話をしようよ。

藤澤


藤澤さんへ

いいよ

山田


それから藤澤さんは本当の僕の家に来た。それから、色んな話をした。将来のこと。学校のこと。些細なこと。とても楽しくて、生きる希望を目の前に見出した。

それから、一つだけ約束したんだ。

「ねえ、山田くん。約束してくれる?」

「何を?」

「私たち、友達だよね。だけど、受験も控えている。だから、お互い励まし合って生きていこうって。」

「じゃあ僕からも約束をさせて。お互いの受験の邪魔にならないように、手紙でのやり取りだけにしよう。こうやって会って君の時間を無駄にするのは申し訳ない。」

それから、僕は、学校に行くようになった。

藤澤さんとは挨拶したり少し休み時間に話したりもしたけれど、基本的にお互い勉強に勤しむことにした。

そして、3月10日

僕は、受験に落ちていた。


藤澤さんへ

僕は落ちていたよ。だから、浪人しようと思う。

山田


山田くんへ

それは残念だね。私はこのまま進学するつもり。手紙、待ってるからね。

藤澤


藤澤さんへ

今日は、模試でb判定を取れたよ。早く大学に行って藤沢さんに会いたいな。藤澤さんは東京の大学に進学したんだよね。東京ってどんなところ

山田


山田くんへ

東京はとっても楽しいよ。一人暮らしは大変だけど、早く山田くんにもいろんなところを見せてあげたいな。

藤澤


藤澤さんへ

そうなんだ。返事が遅れてごめん。また鬱が悪化しちゃって、正直最近あんまり勉強が手についていないんだ。でも、こんな日々が続いてたら今度こそ死のうと思ってるんだ。

山田


藤澤さんへ

今まで迷惑かけてごめんなさい。嫌な思いもさせたよね。でも、もう手紙は送らないから。

山田


藤澤さんへ

最近、毎日藤澤さんのことばかり考えている。藤澤さんに一目会えたらいいのに。そんなことばかり考えている。でもきっとそれは許されないんだろうね。

いつか、君と出会えることを祈るよ。

山田


藤澤さんへ

君は返事をくれないね。もしかして、僕のこと嫌いになったのかな。それとも、ただたんに大学が忙しいのかな。僕は寂しいよ。唯一の心のよりどころである君が僕を無視するなんて。もう本当に参ってしまっている。実のところ、ここ最近本当に死ぬことしか考えていなくて、電車に乗ろうとしてもホームに吸い込まれてしまうようなんだ。

山田


山田くんへ

貴方との関係について親と話をしました。親はそんな脅迫じみた手紙を送るような人とは縁を切りなさいと言われました。私はそこで目が覚めました。確かにそう思います。貴方がこれ以上手紙を送ったり家に来るようであれば警察への通報も考えます

藤澤


18日朝方、岐阜県の踏切で18歳の男性が列車にはねられて死亡しました。

警察は事故の状況などから自殺の可能性があるとみて詳しく調べています。

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