店舗開発のお仕事5:事業計画書策定・予実管理②
前回、店舗出店を決定したらまず事業計画書を策定が必要なこと、策定の手順を書きました。事業計画書自体は開業まで何度も修正を行い、開業後は予実管理をしながら角度を上げていく必要があります。
今回は、実際の収支予測を含む数字を回していきます。
1:事業計画書:収支予測を策定する
前回の最後に、業態を一部見直し、以下の業態で設定しました。
業 態:立ち飲みもできる海鮮大衆居酒屋
想定条件:20坪、家賃50万円(管理費・共益費込)
席数:25席(内カウンター5席)他;立ち飲み席あり
上記を前提に売上予測と投下資金予測を策定します。
*以下の事業計画書は、敷金/内装費/開業備品等をこちらで設定した金額で算出しています。
あくまでも参考例としてご確認ください。
1-1:売上予測
1-2:投下資金予測:物件取得費
1-3:投下資金予測:内装工事費
*内装工事費については別途、コンストラクションマネジメントで詳しく記載しますが、以下の点は注意が必要です。
注1) 内装工事費は仕上げ材によって金額差が大変大きくなります。あくまでも大衆的な海鮮居酒屋を前提に、床・壁・天井の仕上げ材を汎用性のある部材で選定した場合の最低金額(坪単価:30万)を前提にしています。
参考:コンビニエンスストアでスケルトンから床壁天井を仕上げ、電気・給排水・換気等の設備工事を行った際の内装費が坪30万程度と言われています。コンビニ各社は内装材を大量発注するなどマニュアル化することで、坪単価を30万から下げる努力をしています。
注2) 居ぬき物件の表装替えのみ工事では、内装工事費単価は下がりますが、厨房位置を変更すると、既存解体・防水層解体・新規防水層工事が発生し高額になる場合があります。
注3) 設備工事は物件の状況によって変動します。
ビルに既存ダクトがあり、屋上のシロッコファンのみ新規交換、電気・空調・換気・給排水工事は一般的な設備備品で想定しています。
*炭火を使用する場合は、通常排気の3倍の吸・排気設備が必要です。
注4) 設計業務は、① 設計士(インテリアデザイナー)に発注 ② 設計・内装工事(設計・施工)の両方ができる内装工事会社に発注。の2つの方法があります。
①②のいずれの場合も飲食店舗実績がある会社を選定します。1号店をテスト店として検証後、今後、ゾーニング・内装使用変更する前提で開業する場合は、飲食に実績のある内装会社に設計・施工で発注する方法が安く済みます。長期的視点から、店舗マニュアルを作成したい場合は、デザイン性が合う飲食店舗に実績のある設計者・デザイナーを選定する発注する方法があります。
1-4:投下資金予測:開業・販促費
上記により、投下資金合計:18,036,000円 になります。
実際には、投下資金にプラス1~3ヶ月ほどの【家賃・人件費】の運転資金を持っていた方が安心です。
1-5:人件費算出
人件費の算出は、キャプションの設定で行いました。
現在、アルバイト求人広告のネット記事を読むと飲食業では時給1200円~1500円となっています。2022年8月現在、東京都の最低時給1041円、10月1日から1071円になりますが、最低時給で求人を掛けても東京都では人材の確保が難しい、と考えた方が良いでしょう。
上記人件費の算出では、アルバイトスタッフがフルタイムで働けるとは限らないため、アルバイト(キッチン含)4名のシフト体制で見ています。
1-6:家賃・販管費
1-7:損益計算書
上記の1カ月運営のための販管費・損益計画書では多店舗化を前提に3つの経費を計上しています。
①本部経費:企業様の新規事業の場合は、本社スタッフの経費になります。独立開業の場合はオーナー社長自ら現場に立つことが多いですが、損益計算上は『売上×1%』『売上×3%』『売上×5%』でも構いませんので、計上してください。多店舗化していく中で、本部経費の総計がいくらになればオーナー社長が経営に専念できるのか目安になります。また、FC化の場合はロイヤリティになりますので、ロイヤリティを払っても利益がでるビジネスモデルとしてのエビデンスになります。
②修繕積立金:飲食店経営で一番重要機器は厨房機器です。盛夏の頃に製氷機が故障すると、営業に関わります。一般的に厨房機器は厨房メーカーの保守契約に入りますが、毎月の保守契約費用と排気ダクトのメンテナンスに備えて修繕費の積立を経費計上しておくことをお勧めします。
③カード手数料:都心では現金を持ち歩かない成人も増えてきました。立ち飲み営業でスムーズに決済できるように、決済サービスを設定しました。
決済サービスの利用頻度:売上×50% 手数料:3.5%で設定しています。
減価償却について、本事例では厨房機器・内装工事費共に6年の償却期間で算出しています。通常は、厨房機器:6年、内装工事:10年以上(内装材による)税法上はこちらが適用されますが、事業計画上は6年も過ぎると、扉の丁番の不具合クロス張替えなどの何らかの内装工事(修繕)が発生することが多いです。そのため、事例の損益計算書では6年で算出しました。
参考:国税庁ー減価償却耐用年数
1-8:損益分岐点
2:1回目事業計画書以降の課題
2-1:限界利益率確認
1回目の事業計画書では、限界利益率:69.5% となっています。
今年TKCから発表された『宿泊業、飲食サービス業』のラーメン店/そば・うどん店限界利益率よりも、1ポイント以上高くなっていますので、初回の構成としては、健全な事業計画書といえます。
飲食店は日々の売上からの小さな利益を積み上げて行く商売だからこそ、数字をキチンと把握し経営していく必要がありますが、事業計画書を修正する度に各数字を確認していく必要があります。
これから店舗を構築して行く上での課題は以下です。
2-2:店舗構築の過程で何度も事業計画書を回す
店舗物件を探す・食材業者と仕入れの話など準備を進めていると、より業界の理解が進みます。初回は物件家賃や食材原価率は希望額を入力しているため、物件開発(物件決定)や食材調達による食材原価率決定など、実際の金額が確定する毎に事業計画書を修正して行く必要があります。
良さそうな物件が出てきたら、その物件を借りた際の収支と投下資金予測を出す、食材原価が確定したら修正する、など小まめに数字を見て置く必要があります。1回事業計画書を作ったから安心して修正計画書を作って無かった、ということは避けるベきです。
2-3:数字に捉われメニューを疎かにしない
事業計画書は度々修正を掛けて数字を把握しておくことが必要です。しかし数字に捉われ、数字をつくためにメニューや接客を疎かにしないことです。変動費(食材原価)が下げれば限界利益率は上がりますが、メニュー価格と内容が伴わない(値段の割に内容が薄い)とお客様は離れていきます。
2-4:アルバイトスタッフの定着策を行う
アルバイトと定着が悪いと提供するサービスが向上しません。また、年末年始等のイベント時などはアルバイトの確保が難しく、時給が高騰する可能性があるため、安定した事業収支を回して行くためにも人材定着策などを積極的に行う必要があります。
飲食店のアルバイトは中々続かない、巷の飲食店経営者の方からのお言葉を耳にしますが、働き方改革で成功した事例もあります。自分の会社、店舗、スタッフに合った定着策の検討と実施をお勧めします。
参考:スープストックトーキョーの『共感の働き方改革』
また、経験曲線効果とは製造現場でよく使われるマーケティング用語ですが、これは飲食店の現場でも十分に通用する言葉です。長く働いてくれるアルバイトスタッフだからこそ、お客様の顔や好みを覚え、サービスが向上しキッチンとの連携もスムーズに行えます。アルバイトリーダーの育成・活用など是非積極的に行ってください。
参考:経験曲線効果
参考:TKC(令和4年発表四半期データ)
3:予実管理
1号店構築段階で、考えうる策を全て講じたとしても、開業後、2店舗目・3店舗目では、何かしら上手く行かないことは出てきます。その為にも予実管理は重要です。
予定と実行を比べて、
・売上は予定よりも高いか、低いか、その理由として何が考えられるか、
・客単価は予定よりも高いか、低いか、その理由は?
など数字で検証できる指標は全て、レジデータや様々な視点から、予定と実行の差を検証していきます。
一方、数字で検証できない客層やメニュー / 厨房やホールの働き易さ(導線など)など数値で示されない項目の全て比較、管理します。
また、1号店と2号店を異なる立地で出店した場合、立地・物件・顧客層など細かく予実管理することで、多店舗化の出店戦略に生かせます。
その上で、複数店舗を展開するようになると店舗業態もある程度固まり、データーが取れるようになります。その際は、店舗立地・顧客志向など様々な視点から重回帰分析を行うことをお勧めします。
事例:出店戦略に生かす重回帰分析
目的変数:売上または利益率
説明変数:以下
・立地
・交通アクセス
・最寄り駅からの距離
・商圏人口
・店舗の視認性(看板等)
・店舗面積
・店舗の階数(1F・2F以上・B1)階数分けによる説明変数の設定
・競合店舗数
・平均客単価(平均値・中央値・最頻値・標準偏差は事前に確認する)
・座席数
・従業員数
・メニュー数
またアンケートが取れる場合はお客様満足度などを分析していきます
目的変数:お客様満足度
説明変数:以下
・立地
・店舗内装
・メニュー
・接客
一般にパレートの法則で言われるように、2割のお客様が8割の売上に貢献してくれます。『立地』『料理』『接客』は3大集客ポイントですが、アンケート適切に作成し行うことで、重回帰分析を行うことで今現在のお客様の評価(愛着ポイント)や改善点が分かります。
1号店の予実管理以降、多店舗展開する際は上記のようにデータを集めて分析含めた予実管理と、資金繰り表を作成し、売上、支払い、クレジットカード/ICカード等の入金日、借入支払、棚卸資産、などしっかり管理して行くことが必要です。
*本文は事業化に向けた事例として事業計画書の作成について説明していますが、オーナーシェフ店舗や家業としての店舗運営であっても、売上・利益を管理することで継続的な店舗運営ができます。『美味しいものを作ってれば大丈夫』といった安易な気持ちでの店舗運営は止めて、しっかりと係数管理を行う経営をすることをお勧めします。
本文の著作権はスパイカ(株)にあり、転載、複製、改変は禁止です。
店舗開発のお仕事についてマガジンに纏めています。