店舗開発のお仕事6:設計・内装/設備工事業者の違い
ここまで、多店舗化を目指して商圏調査や事業計画書策定について記載してきました。ここからは物件取得後の店舗づくりについて考えて行きます。
1:店舗設計/店舗デザイン
取得物件の状況の違いで内装工事費は大きく変動します。
店舗設計や店舗デザイン、内装工事の用語と仕事内容の定義をします。
1-1:店舗設計・店舗デザインとは
顧客が持つ店舗イメージ、物件や予算に合わせて図面を描くこと。
工事中は、図面通りに工事が行われているか監修する業務担当者。
国家資格である建築士免許を持つ方々も内装デザインを行いますが、アクリルデザインで有名だった倉又史朗氏の時代から森田泰道氏しかり、内装の意匠デザイナーは国家資格などを保持せずに、インテリアデザイン(空間デザイン)のみ行うデザイナーが多いです。
設計業務は概ね以下の流れで進みます。
店舗全体の空間を機能、導線や用途別に位置や広さを決め配置します。
これをゾーニングといいます。その上で、順次図面を描いていきます。
①ゾーニング(区画全体の配置割と導線)
②基本設計:空間デザイン(床・壁・天井の図面)
③その他:意匠図・建具図・家具の配置等の図面
④設備計画(計画以降、実施図は設備業者が作成する)
*照明に拘る店舗だと、照明会社(照明デザイナー)が企画・作図することがある。
内装工事業者決定後、工事の内容を監修します。設計事務所によっては、提携先と共同で電気・給排水・給排気等の設備設計も行います。
1-2:設計会社 / デザイン事務所の種類
設計を依頼できる会社
1)設計事務所/インテリアデザイン事務所(個人/設計専門事務所)
2)設計・施工の内装会社(設計部門を持つ内装会社)
3)設備設計会社(設備専門設計事務所)
4)設備会社の設計部門
1)2)のいづれの場合も、提携 / 協業している設備会社がいる場合が多く、発注の際に設備設計まで出来るか、確認すると良いでしょう。
大型物件(ビル1棟など含む)や複雑な設備を要する場合、3)専門の設備設計会社を入れて監修することが多いです。
また、飲食チェーン店では設備不良が営業に大きな影響を及ぼすため、4)設備業者を指定業者とし、設計から工事までを一貫して発注するがあります、この場合、設備設計費用は3)の専門設備設計者よりも安くなる傾向があります。
*弊社で大型物件のCM(コンストラクションマネジメント)を含む業態転換を行う場合は、設計者/設備設計者 共に中立な設計者を選定し工事入札を行います。
上記を纏めると以下の表になります。
設計において、ゾーニングは大変重要です。
理由は、導線が上手く機能しなことで死角ができ、作業効率が低下、配置人数が増える、等の問題が起こることがあり生産性低下に関わるからです。
ゾーニングは店舗全体の配置に関わるため、ゾーニングに不備があっても簡単には変更できず、変更に当たっては、リニューアル工事に相当するような、既存解体工事を含む大きな改修工事になることがあります。
ゾーニングの意向は出店者側の利便性・生産性が反映する必要があります。店舗開発者が設計監修を行う場合は、現場や関連部署の状況を把握しながら監修することが重要です。
1-3:図面の種類
①基本図:平面図・天伏図(天井の図面:照明やエアコンの配置・配管図)展開図(壁面の図面)の3つの図面のことを指します。
②その他図面:意匠図(壁面や天井に何等かのデザインを行う場合の図面)
や建具図(扉・ドアノブ・丁番の図面)やサッシュ図・家具図・看板(サイン)図等
③設備図:電気配線図(非常照明含む)・照明器具図・空調配置図(室外機含む)・空調配管図・給排気配置図・給排気配管図・設備機器承認図(設備機器メーカーから発行される設備機器図のこと)防災計画図
③-2設備図:厨房図・厨房機器リスト・厨房機器承認図・防犯図
*厨房図面に関しては、納品する厨房メーカーが図面を描きます。
また、建築士ならば万能で店舗設計もできる、と考えそうですが、似て非なる職種と考えるべきです。建築士の方々は住宅やビルなど大型物件の設計・工事監督に関してはプロですが、厨房と客席の導線を考えたゾーニングの提案を相談しても、難しいことが多々あります。
発注者側が、ゾーニングに関して設計者をハンドリングできる場合は別ですが、スケルトンから設計を丸投げする場合は、開業予定の業態(飲食店なら飲食店設計)の経験がある設計者または設計・施工の内装会社を選択する方が安心です。
業態の設計/工事の経験のある業者を選定する、という点ではアパレル店舗やスーパー・ドラッグストアの工事歴はあっても飲食工事経験の無い設計士・内装工事業者は防水工事等の知識や給排気工事の知見が薄い可能性があるため、避けた方が無難です。
2:内装工事業者/設備工事業者
内装工事業者=設計図面に基づき、内装工事を行う業者。
内装工事業者には以下の3パターンがあります。
2-1:工事業者の種別
① 工事免許無し工事業者:500万円以下の内装工事受注可能
➡クロス工事・塗装工事・建具(扉・襖)など単体の工事を行う業者(職
人)が多い。
稀に無免許で500万円以上の総合内装工事を請負う業者がいるため、注意
が必要です。
例)安いからと、電気工事を免許事業者に依頼せず無免許業者で工事を行
い後日、発火する等のトラブルが発生。
上記事例は、実際に昔聞いた事例です。
チェーン店でも、実際に100万・200万程度の小規模改修工事で小回りの利く免許無し工事業者に依頼することがあります。しかし、500万以内の工事発注でも、内装会社の下請け状況が分からない場合は、設備業者などは免許業者に工事を任せるのか、確認した方が良いでしょう。
② 一般建設業免許 :4000万未満の工事請負が可能(資本金500万以上)
③内装仕上工事免許:4000万未満の工事請負が可能(資本金500万以上)
内装仕上げに関わる工事請負が可能:インテリア工
事・天井仕上げ工事・壁貼り工事・内装間仕切り工
事・床仕上げ工事・たたみ工事。ふすま工事・家具工
事・防音工事など
④建築一式工事免許:4000万未満の工事請負が可能(資本金500万以上)
⑤ 特定建設業免許 :4000万以上の工事請負が可能(資本金2000万以上)
注1)入居するビルの管理部に内装工事免許の提出が求められることがあり
ます。そのため、発注金額に見合う工事業者を選定する必要がある。
また、ショッピングセンターの工事は必ず、工事免許のコピー提出が
必要です。
注2)チェーンストアの店舗開発部では、内装工事・設備工事・厨房工事・
看板工事を分離発注することでコスト削減を行うため、内装工事単体
の発注金額は4000万以下に減額し、一般建設免許を持つ小規模工事会
社に発注することがあります。
大手が発注している内装業者だから、と金額を考慮せずに発注すると
後で問題になることがあります。
2-2:施工管理技士(内装工事監理)
一般・内装仕上げ・建築一式・特定のいづれの工事業者を選定する場合でも、会社内に施工管理技士が在籍している会社が安心です。
注1)工事免許は施工管理技士の資格が無くても、一定の経験年数があれば
取得できます。
1)二級建築施工管理技士
建築一式工事や建築系の専門工事を網羅できる資格で、一般建設業許可
において専任技術者になることが可能。
2)一級建築施工管理技士
建築一式工事や建築系の専門工事を網羅できる資格で、特定建設業許可
において専任技術者になることが可能。
2-3:電気工事士
*電気工事は「電気工事士法」の基づく免許事業(国家資格)です。
①二種電気工事士:一般住宅や小規模な店舗、事業所などで、電圧が600V以
下の電気工事(配線工事や電気設備工事)などを行うことが可能。
②一種電気工事士:電力会社等(電気事業者)の電気設備以外のほぼすべて
の電気設備の工事を行うことが可能。
③二級電気工事施工管理技士
施工計画・施工図の作成・工程管理・安全管理など施工時の管理をする。
一般建設業の営業所における「専任技術者」及び現場に毎に設置される 「専任技術者」になれる。
④一級電気工事施工管理技士
施工計画・施工図の作成・工程管理・安全管理など施工時の管理をする。
2級業務範囲+特定建設業の営業所における「専任技術者」及び現場に毎に
設置される 「専任技術者」になれる。
電気工事士の試験は、経済産業省から委託を受けた「電気技術者試験センター」が実施します。
2-5:水道工事/空調工事の免許
①水道工事
水道工事は、の3つの工事範囲に分かれます。
「給水管引込工事」
・道路下の埋設管から敷地内に給水管を引き込む工事
「下水道排水設備工事」
・排水口から汚水桝への配管工事
「屋内配管工事」
・水道メーターから建物内の配管工事を行う工事
新築建物の建築において、道路等の埋設配管から建物敷地内に給水配管
を引き込む、水道メーターの設置を行うには給水装置工事主任技術者(国
家資格)を専任し、「給水装置工事事業者の指定」を自治体から受け
る必要があります。
また、敷地内から道路下本管への下水道工事を行うには、下水道排水設備
工事責任技術者を専任し、自治体から指定工事者の認定を受ける必要があ
ります。
建物内(屋内配管)を区画内に給水管・排水管の立上りから行う場合に
は、資格は必要ありませんが、管工事施工管理技士(1級/2級)保持者の
いる工事業者を選定する方が安心です。
②空調工事
殆どの場合、電気工事士免許保持者が設置します。
一方で、業務用空調機のフロンの入れ替え・点検・保守サービスを行うには、免許が必要です。
・第一種冷媒フロン類取扱技術者、
・第二種冷媒フロン類取扱技術者
3:物件取得と内装工事費
これから多店舗化を目指して店舗展開を始める段階では、資金・人材など様々なリソースが不足していることが多い状況です。物件取得費や内装工事費は事業計画上の予算内で収まるように進めます。
ここでは、飲食店を出店する場合の例として、4パータンの店舗作りを紹介します。
注)飲食店の居抜き物件で開業する場合も、新たに飲食業免許取得が必要
平面図の提出が必要です。
表1-1:居抜き物件の最大利用化
居抜き店舗の区画・備品・内装を全て利用し、看板のみ交換
➡お勧め発注先
看板工事工業者・清掃業者(自分でやれば不要)
注)飲食業免許取得のために平面図を保健所に申請する必要があるため
自分で方眼紙等で引く必要があります。
表1-2:居抜き物件をお客様に見える部分のみキレイに工事する
客席の表装(床・壁・天井)と看板のみ交換
➡お勧め発注先
一般建設業免許を持ち、平面図程度は描ける内装工事会社
②:居抜き物件を可能な利用する
ファサード(入口)/ 厨房区画・トイレ位置はそのまま利用する。
➡水回りを移動させると、防水区画の解体工事/新設工事や給排水工事が発
生するため避け、必要な厨房機器は入替え、追加を行い、便器は交換。
客席区画で使用できない部分を改修工事を行い、店舗全体の仕上げ(塗
装・クロス)貼り替える。看板は新設する。
電気照明の既存は清掃・球替えの上使用し、必要な場合のみ新設する。
給排水工事は、厨房機器を追加し必要な場合のみ行う。
有圧扇またはシロッコファン、ダクトは清掃の上使用する。
防災設備はチェックの上、問題なければそのまま利用する。
➡お勧め発注先
飲食店に実績のある設計・施工内装会社(一般・特定)に依頼する。
表1-4:スケルトン物件でイチから店舗を作る
ゾーニングから全て自分の思うように店舗作りができます。この場合、店
舗イメージや自分がイメージしている店舗に近いお店に設計者と一緒に行
くなど、明確なイメージを伝えます。
また業態(和・洋・中)でどんな料理を出すのか、お客様へのサービ
ス提供をするためには必要なことなどど、きちんと設計者に伝えることも
重要です。簡単なことでも後手だと2重の手間が掛かることがあります。
例)オーダーの取り方を決める
① 伝票でスタッフが注文を取りに行く。
② モバイルアプリを利用し、お客様がオーダーを入れ、タブレットでオ
ーダーが表示される。
③ レジ連動型オーダータブレットでお客様がオーダーを入れ、キッチン
に注文伝票が出力される。
④ 会計ソフト・レジ連動型オーダーシステムで、お客様がオーダーを入
れ、キッチンに注文伝票が出力される。
現実に、割高の飲食店では人によるオーダーを好む傾向があり、店舗に
よっては、人が取ったオーダーをバックヤードでオーダーシステムに打
っている場合もあります。
一方で、オーダーシステムを導入することで、スタッフが本日のおスス
メ料理の説明を行う時間が増えたり、お客様自身がオーダーを行うこと
でスタッフを探す手間が省けるのか、導入前に比べて客単価が5%アッ
プした、などの話を伺ったこともあります。
自身の店舗がどのような業態で、どう多店舗化に進むのか良く考えてサ
ービスの提供方法や店舗管理方法を設計者に伝える必要があります。
①~④のオーダー方法の違いで、店舗DXの違いが生まれます。
使用機材も違い、コンセント用電気工事費が変わります。
➡お勧め発注先
設計・施工できる内装会社、または設計者+内装会社への分離発注
注)分離発注で設計者に発注する場合は、①設計費用 ②内装予算
③予算内で最大のデザイン性の高い内装工事ができるか、以上の3点
を確認が必要です。デザイン性は高いけど、内装工事費が予算の2倍
近く掛かった、というトラブルが良くあります。
いづれの場合も予算を事前に相談して進めることが重要です。
店舗出店において、一番投資額が掛かる内装工事費を安くしたい、と
誰もが考えることです。
次回は、内装工事おけるコンストラクションマネジメント(内装監
修)における入札やコストコントロールについて書きます。
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