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【コラム】祭りのはなし|埼玉県小鹿野町の鉄砲まつり
埼玉県秩父市飯田町にある飯田八幡神社では、毎年12月7日と8日の2日間にわたり、「鉄砲まつり」が開催される。この祭りでは、御神馬が参道を駆け抜ける際、火縄銃を構えた隊員たちが空砲を放ち、火縄銃を奉納する。全国的にも珍しい、迫力と伝統が融合した祭りだ。
鉄砲まつりの起源は江戸時代にさかのぼり、およそ200年前に始まったとされる。狩猟の時期が近づくと猟銃で試し打ちをしたことや、猪や鹿を捕らえる道具として鉄砲に感謝の意を込めたことが由来とされている。どれが真実かは定かではないが、いずれにせよ、鉄砲を神聖視した文化がこの祭りを生んだことは間違いない。
祭りの日、西武秩父駅からバスを乗り継ぎ、飯田八幡バス停で降りると、どこからともなく銃声が聞こえてくる。音のなるほうに向かって歩を進めると、その音は続くものの、銃を構えた人の姿は見当たらない。それもそのはず、銃声はあらかじめ録音されたもので、祭りの日にはそれが一日中流されているのだ。
神社の境内に入ると、舞台では神楽が催されていた。「松井田神楽」と書かれたのぼりが立ち、雨乞い祈願で知られる「松井田の雷電さま」に由来するものではないかと想像した。かつて水不足の折、勧請によってこの地に伝わったのだろうか。神楽の音色とともに、祭りの由緒正しさを感じた。
また、社殿を背に階段を下りた左手の舞台では、子供と大人が交じった歌舞伎が披露されていた。晴れ渡る空の下、高らかに響く挨拶の中で、2024年度をもって地域の小学校が閉校するという告知もあった。祭りとともに地域の歴史が刻まれていることを実感する一幕だった。
クライマックスの銃火奉納では、警察や消防に見守られながら、火縄銃を構えた隊員が御神馬の疾走に合わせて一斉に空砲を放つ。その瞬間を一目見ようと、観客はカメラを構え、火縄銃の火薬が弾ける瞬間や御神馬の躍動感をそれぞれの視点で切り取ろうと熱中していた。
地方の小さな町や村には、先祖代々受け継がれてきた風習が多く残る。鉄砲まつりもその一つであり、人々の努力によって脈々と続けられている有限の文化だ。こうした祭りは、そこに人がいることでこそ成り立つ。その場を訪れ、写真に残すことの大切さを改めて感じた。なぜなら、写真で撮れるものは、常に「今しか撮れない」ものだからだ。