【コラム】日光東照宮|歴史と芸術が交差する徳川の聖地
「日光を見ずして結構と言うなかれ」とはよく知られた言葉だ。この言葉が指すのは、日光東照宮を中心とする美しい社寺群のことだ。その中核を担う東照宮は、徳川家康を神格化した「東照大権現」を祀る霊廟であり、日本の歴史や文化、そして芸術の結晶ともいえる場所だ。
日光東照宮の建立は1617年に始まり、1636年に三代将軍家光の手による大改修で現在の姿となった。その荘厳さと華やかさは、江戸時代の権力を象徴すると同時に、当時の工芸技術の粋を集めたものだ。
特に有名なのが、「陽明門」と呼ばれる門だ。この門は「ひぐらしの門」とも称され、あまりの彫刻の美しさに見入っていると、いつの間にか一日が過ぎてしまうという意味が込められている。龍や麒麟、唐獅子など、東洋の霊獣を描いた精密な彫刻が門全体を覆い尽くし、色鮮やかな装飾が見る者を圧倒する。
ほかにも有名な彫刻として、人間の成長過程における倫理観を象徴しているとされる、見ざる・言わざる・聞かざるの「三猿」や、表面上の静けさと裏側に描かれた雀の動きを対比的に表現し、東照宮全体の平和と繁栄を象徴している「眠り猫」などが人気だ。
東照宮はその建築美だけでなく、周囲の自然との調和も見事である。背後にそびえる杉並木や参道の石畳は、訪れる者を時空を越えた旅へと誘う。樹齢400年以上の木々が生い茂り、歴史と自然が共存している東照宮は、家康の意志とともに生きる聖域となっているのだ。
現在、日光東照宮は世界遺産「日光の社寺」の一部として登録され、国内外から多くの観光客が訪れる人気スポットだ。400年を超える歴史を感じ撮れる場所として、近年では大々的な修復作業が進み、鮮やかな色彩や緻密な彫刻が当時の姿を取り戻しつつある。
日光東照宮は日本の文化と歴史の縮図であり、徳川幕府の権力の象徴でもあり、そして自然との共生を体現した場所だ。陽明門をくぐり、三猿や眠り猫に目を向け、家康の眠る奥社を訪れたとき、人は日本の伝統がいかにして現代まで息づいてきたかを実感するだろう。
令和の時代においても、日光東照宮はその静かな存在感をもって、日本文化の象徴であり続ける。