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【コラム】時間のはなし|時間とは人間による発明品である

時間は有限である。妙に説得力のある文言ではあるが、そもそも時間とはこの世に実際に存在するものなのだろうか。物質として存在するということは、人間側からすれば、触れたり、視覚で捉えたりできないものを、なかなか信じがたいと感じるのも無理はない。

酸素や二酸化炭素も日常的には観察できない。しかし、肺呼吸によって酸素を取り入れて生きているという事実は否定できず、また、人間の数が増えるにつれ、二酸化炭素の排出量も増加し、南極の氷が溶ける環境が進行しているという現象も、確かに一理ある。

これらは、人間に備わっている五感では捉えづらいものだ。五感で感知できないからといって、存在しないと決めつけることはできないし、実際にその影響を与えている。では、時間はどうだろうか。時間は実際に存在していると言える物差しのようなものが、人間には備わっているのだろうか。

残念ながら、人間に備わっているセンサーで、時間を正確に測るようなものはない。もしくは、脳機能には組み込まれているが、未発達の部分であるといったところだろう。試しに、1秒単位でカウントアップをして、10分ジャストを目指してみるとよい。まずズレる。

しかし、世間では時間をベースに仕事や予定を組み立てるし、腕時計やスマホで時間を確認する習慣は、誰もが持っている。人間は時間という物差しで予定を組み立てるという事実がある以上、時間がこの世に存在しているように思えてしまう。

では、さらに深掘りしてみよう。そもそも「1秒」とは何なのか。それは、原子時計の中にあるセシウム133原子の振動回数が「9億1926万3170回」に達した時が1秒なのだ。驚くべきことに、私たちが日常生活の基準にしている時間は、セシウム133の振動回数に依存しているのだ。

原子時計とは、カシオのG-Shockやオーデマ・ピゲのような腕時計のことではない。時間を確認するための道具ではなく、時間を決定するための装置だ。世界各国には時間を管理する施設があり、日本のNICT(情報通信研究機構)やアメリカのNIST(国立標準技術研究所)、ドイツのPTB(物理技術連邦研究所)などがある。

世界中に存在する原子時計から得られた振動回数は、フランスのBIPM(国際度量衡局)へ定期的に送信され、ズレや偏りを補正し、全体的な平均値が割りだされる。ここではじき出された数値がTAI(国際原子時)として「最も正確な時間の流れ」として決定される。

私自身、物心がついたころから腕時計はカシオのG-Shockを愛用している。ディスプレイに表示される時間は、時計自体が計算したものではなく、時間を管理するデータセンターからの送信によって、正確な時間を刻んでくれるのだ。

BIPMで正確な時間が計算され、各国の施設へ送信される。その後、日本では、東京都小金井市にあるNICTが受信し、東日本は福島県のおおたかどや山標準電波送信所、西日本は佐賀県のはがね山標準電波送信所に送信される。関東に住む私には、福島県から送信されるデータが届き、G-Shockに時間が表示される。

時間は有限である。時間の概念とは別に、時計に表示される数字の羅列がある。これを私たちは「時間」として認識している。完全に人間が作り上げた人工物であり、日・月・年といった自然の周期に依存しながら、人間の生活単位を整えるための物差しが「時間」なのだ。


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