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【コラム】紅葉時期に華厳の滝を撮影するということ

紅葉時期に写真を撮りに行く。それは、幾重にも重なる条件を突破し、撮影できる視点を確保できたものにのみ許される、移ろいゆく時間からの褒美である。カメラを趣味にしていると、春の桜・秋の紅葉の撮影には、季節の境界線を見誤らないセンスと、あらかじめ想定していたプランを達成させるための体力が必要だ。

今回の目的は、秋色の華厳の滝を俯瞰して撮影すること。華厳の滝での撮影を挟むように、前日の夜は戦場ヶ原で星景写真を撮影し、華厳の滝の撮影後は、日光東照宮で撮影する予定を立てた。本コラムでは、その中でも華厳の滝の撮影に焦点を当てる。

華厳の滝は、流れる水の量を調整している滝である。滝そのものは自然にできたものだ。日光の山々に降り注いだ雨が中禅寺湖にたまり、高低差の関係で自然と水が流れる経路がつくられ、時間の経過とともに経路の幅が広がり、見ごたえのある滝となっていった。

今から100年ほど前の1909年に、都心部への電力供給のため、滝壺から流れる川沿いに発電所が建設された。このとき、中禅寺湖と華厳の滝の間に調整弁を設置し、滝からの放水量を制御できるようにした。見た目は美しい滝だが、同時にダムでもあるのだ。

滝の名の由来となった「華厳」は、仏教の「華厳経」に基づく。「存在とはなにか?」「宇宙とはなにか?」を探求する教えを体系化したものだが、自然の美と調和を表す景観としてふさわしいことから、「華厳の滝」と名付けられた。名付け親は不明である。

そうした経緯はさておき、紅葉時期の華厳の滝は美しい。シンプルに写真を撮りたくなる景観であることはまちがいない。せっかく紅葉時期の華厳の滝を撮影しようと重い腰があがったのだから、やるからにはどうどうとした一枚が撮りたいのだ。引きで全景を入れられる明智平に撮影場所は決まった。

前提として、明智平は山の上にあり、アクセスはロープウェイに限られる。さらに、ロープウェイ乗り場はいろは坂の途中にあるのだ。注意すべきは、いろは坂は一方通行という点だ。ロープウェイ乗り場を見過ごせば、もう一周せざるを得ない。逆走は厳禁である。

ロープウェイに関してもう一つ気をつけたい点は、オープン時間が状況で変わる、ということだ。自分が向かった時は朝の8:30が第一便だった。だが、紅葉シーズン真っただ中で混みやすい時期などは、第一便の時間を早めて朝の7:30にすることもあるそうだ。

撮影時に注意したいことは、滝に光が当たらない時間帯がある、ということ。早すぎる時間帯は、滝に山の影が写りこんでしまい、陰った華厳の滝を撮影することになる。一目見れればOKの方や、写真ガチ勢でなければあまり気にしないが、カメラ組はそうはいかないのだ。

うわさによると、紅葉時期に陰る時間帯は、早朝とのこと。混むから早めに着くよう行動したが、朝早すぎて陰っていた...なんてことにもなりかねないので、早くいければよい、ということでもないみたいだ。とはいえ、光が差すのを待てば良いので、いろは坂やロープウェイの深刻な渋滞に比べれば、まだ対処の余地がある。

早朝の華厳の滝を拝むだけでも、これだけの注意点を鑑みなくてはならない。


  • 明智平へのアクセス方法はロープウェイのみ

  • ロープウェイ乗り場は、いろは坂の途中にある

  • いろは坂は一方通行

  • ロープウェイ乗り場は、混雑状況でオープン時間が変わる

  • 滝に光が当たらない時間帯がある

これだけの条件をクリアするには、シンプルに前日から潜り込むことである。駐車場は2ヶ所あるのだが、U字状のいろは坂の内側が無料駐車場で、外側が有料駐車場となっている。外側の駐車場は管理人さんが来ない限り夜間は封鎖状態なので、早めに無料駐車場を確保するのがベストなのだ。

紅葉時期に華厳の滝を俯瞰して撮影することは、これだけの条件がつきまとう。おまけに、せっかく現地付近に前乗りするからといって、戦場ヶ原まで足を延ばし、星景撮影にも励んだことから、体力面での反動がつきまとうことになってしまった。

日光に突入したのは昨夜の10時ごろで、曇り空がだんだんと晴れていくタイミングだった。晴れの状況は翌日の昼までつづいたので、写真撮影は概ね成功といえる。撮影のタイミングで晴れてくれたことはありがたく、天運だけは操作不可である。

この経験から得た教訓は、自然を相手にする撮影では、入念な準備と柔軟な対応が不可欠だということ。しかし、そうした苦労を超えて得られる一枚には、何にも代え難い価値がある。


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