Dancemania SPEEDの歴史14~classical SPEED~
classical SPEED
30分間の激烈運動会
2002年11月11日発売
SPEEDサブシリーズ第1段として、SPEED 9後に初めてのアルバムが発売されました。本編より10曲少ない20曲収録で値段もその分安い(通常3000円のところが2000円)のですが、何故か収録時間まで切り詰められ、なんとこのアルバム全体通しても30分で聴き終わってしまいます。
以降のサブシリーズは流石にもうちょっと収録時間も長くなっており、20曲とは言えここまで短いアルバムは後にも先にも今作以外存在しません。
時間と値段とを考えるとあまりコスパの良いCDではありませんが、「全人類にとっての有名曲」であるクラシックが元ネタとあって、時間の短さを補って余りある絶大な大衆性を有しています。誰が聴いても元ネタがわかるアドバンテージは、今作を人に勧める上でもそっくりそのまま長所になってくれることでしょう。
30分で終わるというのも、逆に考えればちょっとした時にすぐ聴き終われる手軽さにも繋がります。自分語りで申し訳ありませんが、筆者が高校生の頃は学校まで片道ちょうど30分程度だったので、登下校の際によく今作を聴いたりしていました。
classical SPEEDに始まるサブシリーズは枚数が特に多いので、今後何枚かにまとめてそれぞれ紹介したいと思います。が、せっかくの初作品&中期唯一のサブシリーズなので、このclassical SPEEDは一記事分で紹介いたします。
今作はSPEEDの3本柱こと海外レーベル「SAIFAM」「Runaway」「LED」に、S&Kの所属していた「Black Forest」というドイツのレーベルも加わり、そこに過去作のクラシックアレンジ楽曲やVenturaの新曲も入る内容。
まずSAIFAMは5曲。
01.ウィリアムテル序曲 / MC F 40
02.ラデツキー行進曲 / SPEEDORCHESTRA
03.弦楽セレナーデ / KK feat.MANU
06.剣の舞 / Blue Venice
19.新世界交響曲 / MAZERATI
このうち剣の舞がSPEED 10に移植されました。
今作はKCPでなくMSTがノンストップミックスを担当しているためか実は構成が結構攻めてまして、3曲目でいきなりBPM200の弦楽セレナーデが流れます。これだけ速い曲の後にBPM175のSpeed Over Beethovenへと繋げる緩急の付け方は、古くからDancemaniaメインシリーズに携わるMSTらしい巧みさです。
ウィリアムテル序曲、ラデツキー行進曲、剣の舞、新世界交響曲はそれぞれ「ザ・SAIFAM」なシンセのダンサブルなアレンジ。
ウィリアムテルはオープニングナンバーで最高のスタートダッシュを飾り、今作のアレンジがSPEED G版HAPPY TOYBOYSにも活かされています。
Runawayは以下の5曲。
07.交響曲第5番「運命」 / CJ CREW
08.白鳥の湖 / CJ CREW
09.Ave Maria / CJ CREW feat.LILLA D
10.軍隊行進曲 / CJ CREW
11.凱旋行進曲~アイーダ / CJ CREW
MST側の意向によって、今作はRunaway楽曲の収録時間がとにかく短いです。5曲合わせても6分行きませんし、白鳥の湖に至っては30秒弱で終わります。30分で終わる大体の要因はRunaway(とアルバム構成したMST)にあると言っても過言ではありません。
ただし、時間は短くともアレンジはもちろん安定の出来。「運命」は原曲よりテンポは遅くなりましたが、元々がダンスとは無縁のクラシックでここまでノれる一曲に仕上げてしまえるのですから流石です。
実はフル尺だと6分を超えるアレンジになっている当曲。アレンジ内容としては原曲をそのままなぞった展開のようで、それを考えると原曲の一番美味しい所だけを切り取ったMSTの判断は慧眼だったと言わざるを得ません。
その他4曲も元ネタの有名具合に負けないRunawayらしいスピードダンスになっています。サッカー日本代表の応援歌としても名高いアイーダは、聴けば思わずスタジアムの観客席にいるような感覚に。
凱旋行進曲~アイーダ
LEDは次の4曲。
04.エリーゼのために(Speed Over Beethoven) / ROSE
05.ハンガリー舞曲 / HARDCORE SYNTH ORCHESTRA
13.「カルメン」前奏曲 / Violent String Ensamble
20.交響曲第9番「喜びの歌」 / Hardcore Synth Orhestra+Jonny Mitraglia
エリーゼのためにはSPEED 9からの再録、またカルメンはSPEED 10へ移植。
LEDはRunawayと違い結構長尺で収録されおり、とりわけラストナンバー「第9」は今作最長の3分半も楽しめます。もちろんボーカル入りです。
LEDシンセの特徴が出まくったこってりユーロビートのハンガリー舞曲やカルメン含め、全体的にLED曲が散らばったことで、各曲の個性がより強調され、聴き飽きない構成のアルバムになってくれました。
ハンガリー舞曲
S&Kも参加するBlack Forestは以下の曲。
12.木星 / S.N.A.H.
17.G線上のアリア / Mr.VIB-E-RATOR
18.Prelude / S&K
前述の3本柱とほぼ同等の扱いを受けての3曲収録。ただ今作とSPEED 10以降は、本編・サブシリーズともに参加が無くなり、結果的に今作が一番「Black Forest」の名を見られる作品となってしまいました。
原因かどうかは不明ですが、上記3曲を聴くとLEDとSAIFAMの間の子な印象が強く、もしかするとEMI側から「敢えて重用するほどのレーベルでもない」と判断されてしまったのでは……と邪推してしまいます。
ただG線上のアリアやPrelude等、BPM190ながらもその速さを自然だと感じさせてしまうアレンジテクニックはあったので、もし3本柱にBlack Forestも加わり四天王となっていたら……SPEEDシリーズもまた別の発展を見せていたかもしれません。
Prelude
上記以外の曲はこちら。
14.クシコス・ポスト / Ventura
15.天国と地獄(Kick The Can) / BUS STOP
16.トルコ行進曲(Classic Cutz) / DJ Kambel vs MC MAGIKA
天国と地獄、トルコ行進曲(あとエリーゼのために)は、今作のタイトル・コンセプト判明時点から入ることが予測されていました。どちらもSPEEDリスナーには聴き馴染んだ曲ですが、3本柱(+Black Forest)には無い特徴を持ったサウンドで、CD全体の作風をより幅広いものにしてくれています。
トルコ行進曲
またSPEED 8以来の参加となるVenturaが、「運動会の曲」でお馴染みのクシコス・ポストをリミックス。聴けば思わずダッシュの姿勢をとってしまう……そんな日本人の身体に染み付いたイメージ通りの、ハイテンションなクラシックアレンジです。
クラシックの圧倒的普遍性と高速ダンスチューンたるSPEEDアレンジは、「晴天」と「運動会」くらい抜群の相性を見せました。収録時間の短さは目に見えたマイナスポイントではありますが、最後まで聴きやすい強みにもなるはずです。
SPEED BEST 2001やSPEED Gの曲目が今の若い人には通じにくい可能性も考えると、ひょっとすれば完全なるSPEED初心者にCDを勧める場合、今作が一番最適かもしれません。