気散じたるや、わたしは羽ばたく鳥になる
その日の朝は、いつもは見ないはずのテレビをつけた。すると福井にオープンしたばかりだと言う『ツリーピクニック アドベンチャー いけだ』のメガジップラインの映像が流れてきた。
わたしは子どもの頃、父親に時々公園やアスレチックに連れて行ってもらったが、特別アスレチック好きなわけではなかった。けれどワイヤーロープに吊るされたタイヤに乗ってブーンと渡り滑っていく小さきジップラインは大好きであった。
テレビでこの映像を見る少し前に、福島の知人を訪ねる際、このツリーアドベンチャーがあるホテルに宿泊したのだが、『何て楽しいんだ!!』とちょっとハマったところでもあった。
飛びに行くぞ福井。
そう思った数日後、たまたま福井出身の友人と出かけることになっていた。
「福井にできたメガジップラインに行きたいとか思っちゃって。日本最大級なんだって〜。」
それなら地元の友人を紹介しようか、と話がトントンと進み、せっかく行くなら金沢も行ってみたいと思い、急遽、福井・金沢一泊2日の弾丸ひとり旅を計画した。
当時のわたしは疲れきっていた。時間に追われハードワークの毎日の中で、頭がどうにかなりそうであった。気晴らしに山を飛び渡るには今しかないと思ったのだ。
初めてお会いする友人の友人は、とても優しい人だった。福井駅まで車で迎えに来てくださり、「実は腰痛持ちだからツリーアドベンチャーはご一緒できないけれど、メガジップラインは僕も是非チャレンジしてみたいんだ。」と言って、わたしが先に遊んでいる間はすぐそばにある温泉に入っていると言う。腰痛持ちだったなんて、本当に申し訳なかったと思いながらも、アスレチックでは2組の母娘親子とご一緒させていただき、まるで同じグループで来たかのように楽しむことができた。この人はたった一人で埼玉から遊びに来たのだろうか、と気遣ってくださったのだと思う。
そしていよいよメガジップラインへ。
山の尾根間に張られたワイヤーケーブルは2段階(2ライン)に分かれており、合わせて全長約1キロもある。最高地上高は60m。
デッキに向かう頃にはあいにくの曇り空。気温の低さもあったのだろう、少し頭痛がしてきたのだが、ここで飛ばないわけにはいかない(いや、無理はしてはいけないよ)
「3、2、1、GO〜!!」
鳥の気分というよりは、『途中で止まってくれるなよ』という気持ちの方が強かったような気もするが
こんな景色が見れるなんて!
それはそれは、とっ ても楽しかった。
帰り道、まだ予定をしていた電車の時刻までには時間があったので、駅近くのカフェに連れて行ってくださった。お礼にご馳走させていただきたかったが、受け取っていただけるわけもなく、手土産で渡した地元の有名なラーメンセットより、もっと高級なお土産にすれば良かったと、後悔しながら駅まで送っていただいた。
福井の人たちの優しい心遣いに包まれて駅を後にする。乗客も少ない静かな電車の中で、すっかり日が暮れてしまった外の景色を見ながら、金沢へと向かって行ったのであった。