アクセス解析のように「売り手」が有利なツールをどう考えるか~『いちばんいやらしいWebマーケティングの教科書』④ note版
アドベントカレンダー『いちばんいやらしいWebマーケティングの教科書』の企画で #いちいや でつぶやいていただいたツイートにマーケティングや経営学の視点でコメントをしていきます。(時間を見つけてすこしずつnoteに書いておりますが、カレンダーの購読者がだんだんと増えており本企画について好評いただいているのではと勝手ながら思っています。)
今回はアクセス解析ツールについて書きます。
今年はアクセス解析ツール「Google アナリティクス」の現バージョンのユニバーサルアナリティクス(UA)から新バージョンのGA4への以降について大変話題となりました。UAの終焉については確か昨年から発表されていたと思いますが、来年時点でGA4の「昨対」データを取得するためには今年のうちにGA4を準備しなければならないため、慌ただしくGA4への移行をされた会社は多いようです。
こうした中で、UAの有償版のサポート延長が2023年の6月末→2024年の6月末までの1年間延長されました。
これはいやらしい(?)のでしょうか。
GAには無償版と有償版とがあるのですが、機能的な差はほとんどありません。有償版にはデータの上限が無償版に比べてかなり大きかったり、BigQueryを接続して生データの解析ができるなどのメリットがありますが、それらを除けば無償版と有償版はほぼ変わりません。小~中規模のサイトであれば、かなり細かいことまでを無償版でデータ分析をし、一部のマーケティング施策の判断に使用することができます。
UAは2014年からサービスが開始されたため、約9年間すで日本の多くのウェブサイトの数値測定に使われてきました(その前の版を加えるともっと長く)。今回の騒ぎで多くの企業が困っていることから、また、UAが浸透する間に他の多くのアクセス解析ツールの淘汰や仕様変更が進んだことを考えると、UAは短なるツールではなく、無償・有償関わらず業界内で交渉力の強いツールとして存在してきたことがわかります。
企業がこの強いツールに「買い手」としての交渉力を発揮できてきたかというと私は疑問を持ちます。「無償だからとりあえずサイトに入れる」「途中で便利だと気づいたからマーケティング施策の意志決定をする会議の判断指標として使う」ということを自然に行ってきたと思います。
気がつくと「偶然取得されかつ限定されたデータ(=ウェブサイトの全数データ)」に執着する組織も増えてきたのではないでしょうか。身の回りであるのが①アクセス解析で細かいデータを取るうちにターゲット・セグメントも非常に細かいものになっていまている②マーケティング目標とは本来離れているのにいつも追っている指標が悪くなったから社内で大問題になり担当者が本質的でない対応に追われるというようなことです。もちろん、それらがGAのせいだけとは申しませんが、こうした誤解や誤謬を生み出すきっかけの一つにはなってになっていると思います。
私が言いたいのは、ビジネスにおいては(今回のケースで言えばGAのように)交渉力の強い相手を日頃からきちんと意識をすべきだということです。そして、強い相手がいるなら可能でそれらをかわしたり利用したりする立場に回るべきということです。
具体的には、
・ツールの細かい指標や多くの機能に惑わされないように常にウェブサイトの外の顧客を意識しどういった解析ツールでもシンプルな指標で成果分析をできるように日頃からターゲットセグメントとそれぞれの4Psをきちんと整理しておくこと
・どのようなツールであってもビジネスに利用できるように日頃から技術動向を押さえておくこと
・(外部のパートナーに運用を支援してもらう場合であっても)事業側としては、マーケティング目標からぶれないような効果計測ができるように指示が出せるようになっておくこと。また、ツールの設定方法を理解し、自分が設定した場合の想定工数と外部パートナーから提示される見積工数が違いすぎないかを確認できるようにすること
などだと思います。
こういった話は「無償ツールなんだから明日から使えなくなっても文句は言えない」という議論になることが多いですが、これはお金だけの問題ではありません。タダより高いものはないし、お金だけで解決できることは少ないのかもしれません。
5フォース分析のように自社と他者の関係を一般化して考えると見えてくることも多いと思います。