大月櫂音

小説とか映画とかの感想や批評を上げていきます。よりカジュアルなものははてブにて(https://speculativemoon.hatenablog.com)/アイコン画像:五百式立ち絵メーカー(https://picrew.me/ja/image_maker/625876)

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最近の記事

【雑感】アノミー・アズ・ナンバーワン

 本稿の主題はAIであり、文学であり、その混淆であり、そしてその中枢にはこの芥川賞受賞をめぐる一連の「反応」があるが、しかし情けないことに、僕は『東京都同情塔』も、九段理江の作品も読んだことがない。フォロワーがずっと勧めているので読まねば読まねば、と思いつつ、気づけばこんなところまで来てしまった。  そういうわけで、本稿における論理的根拠の多くは、先に引用した荒木氏のポストに依っている。それが真実であるかどうか、僕にはわからない。けれど本稿は、さしあたりそれを真実として、あ

    • 【時評】「世界の敵」の遍在と呪いについて──上遠野浩平『ブギーポップは呪われる』

      ・はじめに  例によって、やっぱり『ブギーポップ』の時評は難しい。特に今作は語るところが多すぎ、一つにまとめようとすると論理が散逸してうまくいかなくなってしまうわけで……。  そういうわけで、ここでは一つに焦点を絞って論を展開していきたいと思います。そのことによって抜け落ちてしまう文脈は致命的なほどに多いですが、大目に見てください……。 ・本文  当然のことながら、〈ブギーポップ〉シリーズとは、キャラクターとしての「ブギーポップ」を描くシリーズだ。だがブギーポップが登

      • 【時評】繭の日々は青色に沈む──『呪術廻戦』「懐玉・玉折」について

        ・はじめに  一時期「青春の終わり」というモチーフに惹かれていたことがある。  無論、それは今でも変わらない。そのモチーフは僕にとって特別なものだ。けれどかつて、高校生くらいの時にそこに感じていた切実さ、それ以外に生きる場所はない、とさえ言えるほどの危うさは、今はもうない。少年(少女)の限定的な時間であるところの「青春」が「終わること」。その寂寥や無情、あるいは希望を、僕は切実に求めていた。  そんな時期に出会ったのが、この『懐玉・玉折』だった。コミックス『呪術廻戦』の8・

        • 【論評】朱金色の世紀末──〈ジョジョ〉コンテンツの文脈再定義からみる上遠野浩平『クレイジー・Dの悪霊的失恋』(「解釈」篇)

          ・はじめに ある作品があり、そのコンテンツを拡張するものとしてスピンオフが描かれるとき、それが「解釈」の色彩を帯びない、ということはありえないように思う。スピンオフは、原作者によって書かれない場合例外なくこの「解釈」の重力圏に包摂され、作者(原作者にあらず)はその中で独自の物語を語るしかない、というような。それは評論と創作のハイブリッドであり、その点においてパーソナルな質感を帯びる。スピンオフにおいて「作者」という「主体」は、原作以上に重要なものになるように思う。  上遠野

        • 【雑感】アノミー・アズ・ナンバーワン

        • 【時評】「世界の敵」の遍在と呪いについて──上遠野浩平『ブギーポップは呪われる』

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        • 【論評】朱金色の世紀末──〈ジョジョ〉コンテンツの文脈再定義からみる上遠野浩平『クレイジー・Dの悪霊的失恋』(「解釈」篇)

          【各話感想】呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変(第2期)

          ・はじめに  随時更新していく(予定)の『呪術』2期の各話感想リスト。オープニング、エンディングの感想はたぶん一話のところにあります。 ・「第一話」  アバンタイトル。夏油のモノローグから開始する。『懐玉』編自体、挿話的に展開される、一定の長さの話であるため、テーマを明示しておくこの手法はかなり有効な気がする。ファンの反応とか視点はかなり五条寄りであることが多いが(というか、漫画的には五条視点の回想だしね)、話をまとめる上では夏油視点の方がすんなりいくというのはあるはず

          【各話感想】呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変(第2期)

          リアリティという絶望についての仮説──劇場版『岸部露伴ルーヴルへ行く』時評

           NHKによるドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』は、しばしばその大胆なまでの改変要素によって人気を博してきた。「原作改変」という言葉は、少年漫画を原作とした実写映画の乱立期においてはネガティヴなニュアンスで使われることが多かったが、このドラマはそうした傾向に逆行するかたちで、原作改変が素晴らしい表現に結びつく可能性を示し続けてきた。  無論、原作改変が非難されがちだったのは、それがしばしば原作と、それが持っていた魅力を損なう形で行われるためであった。僕自身も、代理店やその他

          リアリティという絶望についての仮説──劇場版『岸部露伴ルーヴルへ行く』時評

          「滅びとの和解、そしてスコップで切り取る世界について──『冬にそむく』(石川博品)時評」

          (本稿には『冬にそむく』本編の鑑賞を前提とした表現が含まれています。ご了承ください)  サブカルチャーには二種類の破局の表現形式があると僕は考えている。一つは「衝撃」によるもの。『ヤマト』の遊星爆弾や『ガンダム』のコロニー落とし、『君の名は。』の隕石落下などがそれにあたる。そしてもう一つは「認識」によるものだ。『天気の子』における「水没」の表現がこれに該当し、大音響と閃光による破局を敢えて回避することで、ひたひたと進行する「滅び」を描き出そうとしたそれは、映像作品における破

          「滅びとの和解、そしてスコップで切り取る世界について──『冬にそむく』(石川博品)時評」

          その「魂」に救いはあるか──『シン仮面ライダー』時評

          (鑑賞を前提としたネタバレが多数含まれておりますのでご了承ください)  この映画は特異だ。それは間違いない。「仮面ライダー」としては大体において誠実だったが、特撮映画として、そしてドラマとしては極めて異質で、それこそがこの映画の評価を分けているポイントなのだろう。だが僕は、この映画の価値はそこにあるのだと主張したい。その異質さが、この映画を単なる仮面ライダーのリブートを超えた、独自の仮面ライダー論を描破した傑作にしたのだ、と。  この映画の異質さはどこにあるのか。僕はそれ

          その「魂」に救いはあるか──『シン仮面ライダー』時評

          『「自傷的自己愛」の精神分析』と自分について

          (けっこうパーソナルな内容で、気持ち悪いので注意です。また、タグにあるように、日記という体で書いています。内容が内容であり、書評にできる自信がなかったので……)  最近、いい感じに色々なことがどうでもよくなってきている。  それは勿論、無力感と虚無感が強まっていることを指すのだが、とはいえ、それは悪いことばかりでもない。無力であることと引き換えに僕は自分に対して少しだけ正直でいられるようになり、そうした傾向の結実として、僕は一つの本を手に取ることができた。  それが斉藤環の

          『「自傷的自己愛」の精神分析』と自分について

          日記のはじまり、『秒速〜』のおわり

           つい先日用事で神戸まで遠征し、その際に購入した本の中に『伊藤計劃記録』がある。これは14年前に物故したSF作家、伊藤計劃のブログを本としてまとめあげた本なのだけど、相当に読み応えがあり、こう言って良ければ文学的な価値に満ち溢れているように思う。  Twitterの方では繰り返し書いてるが、僕は若造にすぎないので、ブログが全盛期の頃、それがどのように利用されていたのかを知らない。そのためブログという形態については漠然としたイメージしか持っていなかった。過剰な改行と、毒にも薬に

          日記のはじまり、『秒速〜』のおわり

          今年(2022年)にやったゲーム【後編】

          ・MGS1(インテグラル) <まえがき>  ステルスゲームの金字塔(以下略)。  諸々の事情によりPSVITAのアーカイブスでやったのですが、完全に早とちりでインテグラル(セリフが全部英語になってるやつ)をやってしまい後悔……やっぱり最初はオリジナルでやりたかったなぁと。 <あらすじ>  アラスカに浮かぶ孤島、シャドーモセス。合同軍事訓練の真っ只中に、そこは特殊部隊FOXHOUNDによって占拠されてしまった。シャドーモセス島では、アメリカ陸軍が秘密裏に新型核搭載型二足歩行

          今年(2022年)にやったゲーム【後編】

          今年(2022年)にやったゲーム【前編】

           めちゃくちゃ偏ってますがやりたかったのでやります。  まえがき→あらすじ→感想の順に語る構成にしています。ネタバレは基本ありません。 ・ベーコン・ザ・ゲーム <まえがき>  突如TLに出現した謎のゲーム。もう200ステージ以上はやったのになんでこの謎の掌がベーコンを運んでくるのか、なんでフライパンがベーコンを打ち上げているのか分からないんですが…… <あらすじ>  省略 <感想>  運ばれてくるベーコンを投げる。このゲームはつまるところその繰り返しであり、ゲームとし

          今年(2022年)にやったゲーム【前編】

          鎮魂と祝福の所在──『すずめの戸締まり』感想

          “──「喪失を抱えてなお生きろと、声が聞こえた。(中略)それが人に与えられた呪いだ」 「でもきっと、それは祝福でもあるんだと思う」”(『星を追う子ども』より)  新海誠監督による長編アニメーション映画『すずめの戸締まり』が「喪失」を描いた映画であることは疑いようがないだろう。川村元気プロデュースの前二作も個人的には同じモチーフだったように思うし、もっと言えばこれまで描いてきた作品はどれもそうだったようにも思うが、今回はそれがかなり直接的に表れていた。  災害とは当然のことな

          鎮魂と祝福の所在──『すずめの戸締まり』感想

          「青春の終わり」のモノローグ──新海誠『雲の向こう、約束の場所』試論

           この映画には、一つの予感が漂っている。  それは青春でありながら爽やかでないもの。それは恋でありながら届かないもの。それは達成でありながら手に入らないものだ。  それの名前は「喪失」。つまるところ、この映画は喪失についての物語だ。  前作『ほしのこえ』も、次回作の短編連作『秒速5センチメートル』も、どちらも同じテーマをもつ。届かない思い、聞こえない声。繋がっているという幻想の中にしか居場所がないという悲しみ。その鮮烈で内省的なイメージを、モノローグに結晶させてフィルムに投

          「青春の終わり」のモノローグ──新海誠『雲の向こう、約束の場所』試論

          『クレイジー・Dの悪霊的失恋』一巻感想──『恥パ』からのジョジョ解釈の進化について

           この項目ではわりと真面目な考察というか感想を、ネタバレに一切配慮せずにつらつらと書いていく。未読の方は注意されたし。  『悪霊的失恋』1巻は、全体として、一話に対して僕が感じていた印象を見事に覆してくれた。  僕は一話を最初に読んだとき、この作品が『恥パ』でやったような、ジョジョを上遠野作品の文脈で書いていく作品であるように感じた。  しかし、一巻を読んだ今、僕はそれが誤りであったように感じたのだ。  先述した「上遠野作品の文脈で書いていく」ものを「上遠野ジョジョ」と呼ぶ

          『クレイジー・Dの悪霊的失恋』一巻感想──『恥パ』からのジョジョ解釈の進化について

          ”仮面ライダーリバイ”の物語として──『仮面ライダーリバイス・バトルファミリア』時評

          (noteで公開するにあたって補足しておくと、この文章は今年の8月に書かれたものである)  うだるような暑さにやられ、筆が動かないうちに鑑賞から二週間経とうとしている映画がある。毎年お馴染み仮面ライダーの夏映画『仮面ライダーリバイス バトルファミリア』である。  去年も、確かその前もなかったので今作は久々の「夏映画」ということになるのだけど、早々にぶっちゃけてしまえば、総合的にはこれはいつもの夏映画だったように思う。適切なスケールと適切な盛り上げ方。大きく外すことも、メ

          ”仮面ライダーリバイ”の物語として──『仮面ライダーリバイス・バトルファミリア』時評