火力発電の輸出をするのは本当にダメなことだろうか?
環境問題は他人事ではない。
これは先進国の人々にとっては共通認識であることは間違いない。
国際的な枠組みとして京都議定書やパリ協定など世界各国が温室効果ガスの排出削減に取り組むことを目標にしている。
しかし、一部の発展途上国においては、GDP比で削減、つまり経済成長によって増加する温室効果ガスの排出を容認している。
そんな中、我が国では未来ある若者が環境問題について考え、問題提起を行い、ベトナムで火力発電所の建設に関わる日本企業に、どうして火力発電所に投資をするのか?と言う質問状を送付したようだ。
確かに、火力発電所はCO2の排出量が多く、環境負荷が大きいとされているが、彼(彼女)らは環境問題を多角的に捉えて欲しい。
ベトナムなど今後経済成長が見込まれる国々において、必然的に電力需要の増加が見込まれる。
加えて、ベトナムの一人当たりの実質GDP(自国通貨)とCO2排出量を1980年から2016年のデータの相関係数は0.99と非常に強い相関関係にある(恐らく他の発展途上国においても類似した結果が得られるだろう)ことから、今後の経済成長で日本の10分の1程度のベトナムのGDPが日本と同等のGDPの水準になると仮定すると単純計算でCO2を排出量が約10倍に増加する事になる。(※仮定の話なので分かりやすく日本と比較した)
このような発展途上国においては温室効果ガスの排出量が増加する事を前提とした環境対策が求められている。(つまり、GDPが10倍になってもCO2排出量の増加量を10倍以下に抑えられるかどうかに焦点があてられる)
太陽光発電など自然エネルギーの活用を推進すべきではないのか?
火力以外にも発電方法があるのになぜ石炭火力発電所なのか?
そういった疑問がでるのは当然である。
しかし、現実として我々が24時間何時でも電気が使えるのは、安定した電力供給が行われているためである。
安定した電力供給に必要なのは故障しにくく、24時間安定して稼働できることが条件であるのは言うまでもない。
その点において火力発電や原子力発電は優れており、世界全体では火力発電のみで6割強、原子力発電を含めると4分の3を占めており、原子力発電が難しい国や地域において火力発電に頼らざるを得ないのが現状である。
一方、太陽光発電は、晴れている昼間であれば電力を使えるが夜間や曇りや雨など太陽光が遮断されている状態では使用できず、不安定な自然エネルギーによる発電は、安定した電力供給としての利用は難しい。
また、水力発電や地熱発電もあるが、ベトナムで建設予定の火力発電所の発電量1,200MWに相当する規模の水力発電所は日本で7番目の発電規模のダム(玉原・俣野川)に相当することから非現実的とは言えないが、日本でもダム建設による周辺環境への影響などによる反対運動なども考慮すると、簡単に水力発電にすればいいとは言えない。(日本におけるダム建設の事例では旧民主党がダム建設の中止を公約にし、政権交代後に建設中止した事例があるのが記憶に新しいだろう)
環境に悪い火力発電を代替する発電が別の環境問題を引き起こすのでは、CO2排出削減が出来れば他がどうなっても良いと捉えられかねない。
温室効果ガスを増やさないではなく増加量を抑えるという考え方
火力発電所の新規建設はCO2の排出を増加させるのは事実である。
しかし、ベトナムで建設予定の火力発電所は高効率の発電が可能である。
効率の良い発電は同じ燃料の消費でも得られる電力が多くなる、つまり1kwhあたりのCO2排出量が抑えられる。
これは例え将来的に火力発電所を全廃にするにしても、それまでの期間は電力需要を補うために、すでにある発電効率の悪い火力発電所を稼働させ続けることに変わりないため、本来の目的である温室効果ガスの排出を減らすという主旨に反してしまう。
そして、火力以外で代替できるベースロード電源の候補は水力や原子力が考えられるが水力は前述した通りであり、原子力も容易ではないのは言うまでもない。
最後に
以上の事から「#石炭火力発電を輸出するって本当ですか」については個人的には賛同しかねるが、この運動を阻害してはならないとも同時に思う。
物事の見方が偏っている部分もあるが、環境問題を自分なりに考え、自分なりの行動を実行したというプロセスについては良い事である。(物事の見方の偏りは自戒の念も込めて)
賛成する自由もあれば反対する自由もあるため、否定的に見つつも頑張って欲しいと思う。
(最後の最後になりますが、冒頭の部分で未来ある若者云々とか年寄りっぽい言い回しをしているけどほぼ同世代です……)