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ピンク映画と特撮

 90年代に入って、再びピンクの撮影現場を取材する機会があったが、現場の雰囲気もだいぶ変わっていた。
 作品にもよるだろうが、80年代のピンク映画は、むろん作品によるだろが、70年代的倦怠をいくぶん引きずっていたような気がする。90年代に入ると、だいぶ内容もカラリとしていた。いわゆるピンク四天王(サトウトシキ、佐藤寿保、瀬々敬之、佐野和弘)と呼ばれたニューウェーブ的監督の台頭もあり、軽量級かつ伝統的なポルノと四天王のアートシアター系の作品と2極化が進んでいた。
 相変わらず、アフレコだったが、女優さんの前張りが消え、それに代わる新機軸が導入されていた。カメラの前に透明のアクリル板を立てるのである。その、アクリル板の女優さんのアソコにあたる部分にグリスを塗るのだが、カメラを通すと、そこが黒い毛がモヤっと見える天然のボカシになるという寸法だ。息で曇らせた窓ガラス越しに景色を見るような感じといえば、わかりやすいか。デジタル処理でボカシを入れると費用がかかるが、これだと現場処理だからタダだ。古典的な特撮テクニックにグラスワークがあるが、それの応用だろう。過激で露出度の高いアダルトビデオに伍してやっていかなければいけないピンク映画界なりの苦肉の策を感じた。
 ただし、このテクニックにも難点がある。グリスを塗った部分から女優のアソコがはみ出ると当然NGになってしまうから、どうしても濡れ場のポジションは固定化する。それから、もう一点、映倫との絡みである。作り手は、観客サービスも考え、グリスの塗りをできるだけ薄くして見えやすいようにしたい。しかし、映倫はそれを許さない。はっきりいって、ボカシの濃淡がどこまで許容されるのかという明確な基準はない。すべては映倫様の胸先三寸、ご機嫌次第なのだ。映倫がNGといえば、最悪撮り直しだから作り手も気が気ではない。ここいらへんの攻防は、僕もビニ本を作っていた経験上、よくわかる。
特撮という言葉が出たので、ついでに面白いお話をしよう。このピンク映画の現場取材でのとき、一人のダンディな中年の男優さんを紹介された。久須美欽一さんといい、成人映画には欠かせない演技派俳優のひとりである。久須美さんはもともと東宝系の俳優さんで、なんと『ゴジラ対メカゴジラ』で沖縄の怪獣キングシーサーとアンギラスのスーツアクターを務めていたという。

「アンギラスは出番が少なくて残念だったね。キングシーサーは土着の怪獣ぽい動きを工夫した」(久須美氏)

 他には、ゴッドマンやミラーマンなどヒーローを演じることもあった。『流星人間ゾーン』のゾーンファイターも久須美さんである。ゾーンファイターは、両手首にミサイルランチャーを装着し、そこから発射するミサイルマイトを必殺武器としているが、曳光弾の発火のための電気コードはスーツ内の両脇腹から脇の下、腕の内側を通り、手首に伸びていという。人体の一番柔らかい、敏感な部分である。一度、そのギミックがショートし、両脇を大やけどしたなどという話を伺って、スーツアクターという仕事の過酷さを知る思いだった。
久須美さんは現在でもピンク映画を中心に活躍されている。


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但馬オサム
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