僕が語っておきたい下北沢⑫~銀行ギャング泣かせ
世田谷区というのは地図で見ると東京23区でも結構広い。東は渋谷区、目黒区に接し、西は調布市、狛江市、三鷹市、川崎市に接している。南側のお隣さんは杉並区だ。それだけに、世田谷区内でも地区によってかなり景色が異なる。ここが東京? と思うくらいに緑と河川に恵まれた地区もあれば、下町のように路地が入り組みやたらとゴチャゴゴチャとした街もある。下北沢はそのゴチャゴチャした世田谷の代表格である。下町生まれの僕には、そんなところもシモキタと相性がよかった。細い道をくねくね行くと思わぬ場所に出たり、意外な近道を発見したり、散策の楽しみはつきなかった。
もっとも、僕のような散歩愛好家だからそんな呑気なことがいえるのであって、ドライバーにとっては下北沢周辺は鬼門なのだそうだ。とにかく道が細く一方通行だらけなので、一度迷い込んでしまったら抜け出るのに大変なのだ。そういえば、引っ越しを手伝ってくれた友人もそれで文句を言っていたし、終電を逃してタクシーで帰るときなど、運転手さんに説明するのも往生したものだ。カーナビなんてなかった時代である。
と、まあ、ここまでが話のマクラ。ここからが本題である。
ある朝、というか、僕にとっての朝は正午なのだが、バリバリという激しい音に起こされた。アパートの頭上を複数のヘリコプターが飛んでいるようである。何があったのか、よくわからぬまま何気にテレビをつけると、空撮カメラがどこか見覚えのある光景を映している。ん、わが街、下北沢の駅前である。正確にいうと、駅前の富士銀行(現みずほ銀行)だった。
なんでも銀行強盗があったらしい。こりゃびっくりだ。自分の住んでいる街で銀行ギャングが起るなんて、誰が思う。ひょっとして、うちの近所に犯人が逃げ込んでいるのでは、そう考えるとドキドキしたもんだ。
しかし、この時点ですでに事件は解決していた。二人組のギャングは車で逃走したものの、すぐに捕まってしまったという。シモキタ名物の一通地獄にはまり、往生している間に御用となったのである。
事前に逃走経路を確認しておかなかったというのもお粗末な話だが、律儀に交通標識を守って捕まったというのもどこか可愛らしい話ではないか。
犯罪を礼賛するわけではないが、銀行ギャングという言葉に妙なロマンを感じた昼下がりでもあった。
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