三波春夫のラーゲリより愛をこめて
清朝最後の皇帝溥儀の生涯を描いたベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』は間違いなく、20世紀の映画ベスト100に入る名作だろう。どのシーン、どのシーンもただただ圧巻で、よくぞ撮れた、よくぞ撮ってくれた、といいたくなるほどの映画の宝物である。
最近、観直してみて、特に印象深かったのは、戦後、共産党の庇護(幽閉?)にあった溥儀が政治犯収容所で再教育(思想改造)を受けるシーンである。あそこに出てくるサディスティックでちょっとヒステリックな教官の役を三波春夫先生に演じさせたら、また違った迫力が出せるだろうになと思う。
あの新興宗教の教祖のような福々しい笑顔に目だけを冷たく光らせて、「君はまだ本当のことを告白していないね」となんどもレポートを突っ返す。わざと床に落とし、それを拾わせる。
三波さんは実際、シベリアに抑留経験があり、収容所ではダモイ(帰還)を勝ち取るために、積極的に洗脳教育を受けたというから、まさにうってつけの配役だろう。そのためか、戦後しばらくは「赤い浪曲師」と呼ばれていたこともあったようだ。
もう少しギャラの安そうなキャスティングなら、意外かもしれないが、今くるよさんなんかどうだろう。ポマードで髪を左右にぺったりと分け、あのギョロ目で威圧する。こちらは一瞬も笑顔はみせず、ただひたすらネチネチと溥儀をイジメぬく。ところが、引き出しの中にこっそり口紅を隠していたことを紅衛兵に見つかり反革命文分子として粛清されてしまう、哀れな女性幹部といった役どころだ。
ひとつ言えることは、共産主義は決して人を幸福にしない、これだ。
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