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僕が語っておきたい下北沢⑨~BOOKSおりーぶのことなど

 80~90年代の下北沢の本屋について書いてくれというリクエストがあった。 
 わがアパルトマン銀紙楼と道路(鎌倉通りというのを最近になって知った)を隔てて真ん前にあるのが、玉子太巻きが絶品の和菓子屋の伊勢屋で、その隣がBooksおりーぶである。外見も内装もよくある街の本屋さんなのだが、都内のマンガファンには結構有名なお店だったらしい。僕はそんなことを意識したことはなく、ただ家のお向いさんということもあって、買う買わない、立ち読みするしない、に拘わらず一日に一度は立ち寄っていた。というより、外出する際はまずここに寄り、帰宅するときも寄るというのがいつのまにか、身体生理に組み込まれてしまったようである。
 一度、川崎ぶらに、おりーぶの店頭で相原コージ氏のサイン会があるから並んでくれと言われ参加したことがあるから、やはりマンガファンには有名な本屋なのだろう。そのときのサイン本は今も書棚にある。
 Booksおりーぶが全国のマンガファンに知られるようになった最大のきっかけは、同店の番頭・田北鑑生(たきたかんせい)氏がとり・みき氏のマンガキャラ・タキタくん(本稿扉絵に使用)としてたびたび作品に登場するようになったからだろう。タキタくんのキャラはさすがにご本人の特徴をよく捉えているが、実物はあのような三白眼でもなく、無口で不気味な感じではない、とだけ記しておこう。

タキタくん

 とり氏もご近所に住んでいたらしく、何度かそれらしき人物をおりーぶで拝見し、田北氏とおたく話に興じるのを、立ち読みするふりして聞き耳立てたりしたものだ。
 そうそう、前項でも少し触れたが、僕がときどき『薔薇族』を買ったのもおりーぶだった。ひょっとして、田北氏には僕がゲイだと思われたかもしれない。一応、趣味でなく資料で買っているんですとアピールするためにわざわざ領収書を切ってもらったりしたが、かえってわざとらしかったか。かと思えば、僕が絡みをやったエロ本があるのを見つけて、恥ずかしかったなんてこともあった。
 とり・みき氏がシモキタの住人であると知ったのは、マンガにたびたびご近所ネタが登場するからだ。
 おりーぶの並び、井の頭線の下北沢駅(西口)に向かう途中に、親父一人で経営している汚くて不味い定食屋があった。「名物印度カレー」などと看板に書いてあるので注文してみると、ただのインスタントカレーで、しかも焦げ臭かったりする。一度、とり氏のマンガにその店が登場したことがある。店の親父も常連の赤ら顔の客(いつもコップ酒を飲んでいる)もそっくりで、一発でそこがモデルだとわかった。親父がバルサンを炊いたまま貼り紙みもせず帰ったために、煙を見た人の通報で消防車がやってきたというエピソードも実話である。
 マンガで描かれた、親父と赤ら顔の会話も、実際、とり氏が耳にしたものだろう。いかにもこの二人の間で交わされそうな会話なのであった。

赤ら顔「俺なんか、この間、車借りて乗ったんだよ」
親父「車なら妹の旦那も持っているけど、あれは揺れるねえ」

 今どき、車を借りたのを自慢するのもどうかと思うが、ダメ押しの「揺れるねえ」にはツボった。どんな車なんだw なまじ本人たちを知っているからよけいに。

 一本取られたと思ったのか、赤ら顔氏、話題を変えて、
赤ら顔「この間なんか、〇〇行ったら千円札拾っちゃったよ」
親父「千円札なんて✕✕✕行けば、よく落ちてるよ」

 どこじゃい、そこw
 よく食堂やラーメン屋など、「当店が紹介されました」などといって入口に雑誌の記事など貼り付けているのを見るが、どなたか親父に、とり氏のこのマンガを貼るように勧めなかったのか。全国のマンガファン、とりわけ、とり・みきファンがきっと押し掛けてくるだろうに……こないかw

 Booksおりーぶは、10年以上前に閉店しており、店のあった場所はパンク系のブティックになっている。田北氏はご健在のようで、X(ツイッター)でお名前を拝見した。経歴には、元書店店員、マンガ原作者にあった。原作に関しては初めて知りました。不明を恥じます。

とり・みき/田北鑑生『DAI-HONYA』


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但馬オサム
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