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川島芳子を演じた女たち

川島芳子・本名愛新覺羅顯㺭(あいしんかくら・けんし)
 
清朝第10代粛親王善耆の第14王女。8歳で大陸浪人・川島浪速の養女となり、信州松本で少女時代を過ごす。16歳のときに突然の断髪、以後男装を好むようになり、一人称は「ボク」となる。この突然の“変身劇”の背景には、養父浪速によるレイプが起因しているといわれる。その後、田中隆吉陸軍少佐に認められ工作員となる。陸軍への協力は、ひとえに清朝復興の夢をたくしてのものだった。第一次上海事変の発端となる日本人僧侶襲撃事件を指揮したのが芳子だともいわれているが、真偽については定かではない。
昭和7年、芳子は流行作家・村松梢風に自分をモデルとした小説の執筆を依頼。この小説『男装の麗人』がきっかけとなり、虚実ないまぜの男装の女スパイ=川島芳子伝説が生まれることになる。芳子は戦後、国民党軍に捕らえられ、漢奸裁判にかけられるが、売国行為の証拠として挙げられたのは、梢風の小説と、それを原作とした映画だったという。
彼女の死後もさまざまなフィクション作品で「川島芳子」は生き続けており、まさに時空を超えるレジェンドなのである。

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【1932年・昭和7年】


・入江たか子 『満蒙建国の黎明』(新興キネマ)
※監督・溝口健二。入江プロ製作第一号作品。満蒙ロケを敢行。

女優の個人プロダクションのお抱え監督という立場に、溝口はいたく不満だったらしい。

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【1934年・昭和9年】

水谷八重子(初代) 舞台『男装の麗人』
※村松梢風の小説の舞台化。川島芳子伝説はここから始まる。

凛々しさでいえば、この八重子の芳子がダントツ。
八重子?と本物の川島八重子(右)。雑誌の対談での一枚らしい。芳子が石段の一段上に立っているのに注意。「男装の麗人」というイメージからか、芳子役には長身の女優がキャスティングされる傾向にあるが、実際の芳子は意外と小柄だったことがわかる。おそらく、この写真は足元をトリミングして掲載されたのだろう。ファッションセンスも光る。

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【1948年・昭和23年】

★川島芳子(愛新覺羅顯㺭)、北京市にて銃殺刑に処せられる(3月25日)。享年41。          

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【1954年・昭和29年】


・川路龍子 映画『燃える上海』(新東宝)
※原作・村松梢風。戦前“川島芳子”伝説生みの親・梢風が、その反省を込めて、川島芳子の実像に迫る?ことを目的に書いたという。梢風と思われる作家を山村聡が演じている。

龍子は「たつこ」でなく「りゅうこ」と読む。もともとSKDの男役として人気を博した人だけに男装も様になっている。後部座席にいるのは、山村聡。

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【1955年・昭和30年】

・パイ・ミン(白明) 香港映画『川島芳子』
※白明は65年の『戦地奇女子』では、「川島芳子によく似た」中国人女逆スパイを演じている。

『戦地奇女子』でニセ川島芳子を演じる白明。

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【1957年・昭和32年】

高倉みゆき 映画『戦雲アジアの女王』(新東宝)
※これがデビューの高倉は大蔵貢新東宝社長の愛人として有名。そのせいか、カラー、シネスコと当時の新東宝にしては破格の扱い。次回作『天皇皇后と日清戦争』では昭憲皇后を演じている。

お相手役は高島忠夫。丹波哲郎やキリヤマ隊長、スーパージャイアンツに一の谷博士、大門博士なんかも出ています。
「女優をメカケにしたんじゃない、メカケを女優にしてやったんだ」by大蔵貢。

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【1973年・昭和48年】


・不明 舞台『さよなら上海 幻川島芳子』

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【1983年・昭和58年】

高峰三枝子 TVドラマ『開幕ベルは華やかに』(テレ朝)
※水谷八重子をモデル(劇中では八重垣光子)にした有吉佐和子のミステリー小説が原作。高峰は劇中劇で川島芳子を演じる。

高峰三枝子、七変化。一番下に「川島芳子」。そのほか、有島一郎との130歳コンビでの『はいからさんが通る』も見られる。

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【1985年・昭和60年】

・松あきら 舞台『秘録川島芳子 見果てぬ蒼海

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【1987・昭和62年】

・パトリシア・ハー(夏文汐)香港・ 台湾映画『旗正瓢瓢』(Flag of Honor)

パトリシア・ハー。パット・ハーとも。脱ぎっぷりのいい女優さんでした。

マギー・ハン 映画(英伊仏中合作)『ラストエンペラー』
※いうまでもなく、20世紀の映画の中でベスト100に入る名作。監督はベルナルド・ベルトルッチ。

『ラストエンペラー』は確かに名作だが、坂本の甘粕と、この丸顔の川島芳子は違和感あり。よく見ると、今、NYにいらっしゃる、あのお方にも似ている。

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【1988年・昭和63年】

・フー・イーウェイ 中国映画『ロマンチックな女スパイ』(风流女谍)

・中島葵 舞台『終の栖(すみか)・仮の宿』
※中島は名優森雅之の婚外子。つまり、文豪有島武郎の孫。戯曲・岸田理生、演出は中島の伴侶でもあった芥正彦(元東大全共闘。三島由紀夫とやりあった、あの男)という、アングラ版川島芳子伝。

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【1989年・平成元年】

チャン・シャオミン(張暁敏) 中国映画『女スパイ川島芳子』

・山田邦子 テレビドラマ『さよなら李香蘭』(フジ)

山田邦子の川島芳子、これにはぶっ飛びましたな。

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【1990年・平成2年】

・アニタ・ムイ(梅艳芳) 中国・香港映画『川島芳子』

アニタ・ムイ。なんだかこわそう。実際の川島芳子もサルをペットにしていた。

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【1991年・平成3年】

・ガオ・リーホン 中国映画『蔡おじさん』

・ウォン・ワンシー(黄韻詩) 香港映画『ゴッド・ギャンブラーⅢ(賭俠2之上海灘賭聖)』
※主人公たちが戦前の上海にタイムスリップし、川島芳子とギャンブル対決するというアチャラカ映画。

ウォン・ワンシー。清朝のお姫様にはとうてい見えない。

・ジョイス・コウ(高麗虹) 香港映画『財叔之橫掃千軍』
※高麗虹はサモハン夫人。イタリア系のバタ臭い顔立ちは川島芳子のイメージとはちとかけ離れているが。ツイハーク&チン・ジウトン監督作品。(情報提供・とんろーわんさん)

どこが川島芳子のジョイス・コウ。

保坂知寿 劇団四季『ミュージカル李香蘭』
※劇団四季『李香蘭』ロード、これにより始まる。

保坂知寿。「ともじゅ」でなく「ちず」。四季版『李香蘭』では、彼女の川島芳子を一押しする声も高い。

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【1996年・平成8年】

・リー・ジャングン(李建群) 中国ドラマ『極東の陰謀』
※李はファッションデザイナーとしても活躍。

・綺堂杏美 舞台『私の扇 もうひとりの芳子』

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【1997年・平成9年】

・山崎佳美 劇団四季『ミュージカル李香蘭』

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【2000年・平成12年】

・椿真由美 舞台『MANCHURIA-贋・川島芳子伝』(劇団青年座)

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【2001年・平成13年】

・野口員代 舞台『怪盗ルパン・満州奇岩城篇〜川島芳子と少年探偵団〜』(月蝕歌劇団)

・大浦みずき 映画『シベリア超特急3』
※あのシベ超に、川島芳子が登場。

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【2002年・平成14年】

・張淑  中国ドラマ『非常国民』

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【2003年・平成15年】

・江角マキコ TVドラマ『流転の王妃 最後の皇弟』

※溥儀の実弟溥傑の妻愛新覚羅浩(日本人)の自伝、二度目の映像化。

江角マキコ。清朝の王女というより身長の王女。

・酒井悠三子 舞台『薔薇の仮面―川島芳子―』(あんがいおまる一座)

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【2004年・平成16年】

・リー・ユー(李鈺。李裕とも) 中国ドラマ『末代皇妃(ラストプリンセス)』

リー・ユー。川島芳子は第7話から登場。他の登場人物を圧倒した。

・ワン・ジンルー(王静茹) 中国ドラマ『関東英雄(关东英雄)』

・紫城るい 舞台『愛しき人よ―イトシキヒトヨ―』(宝塚歌劇団)

紫城と書いて「しじょう」。ミュージカル系の人の名前はほんとうに難儀。

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【2005年・平成17年】

・山崎佳美 劇団四季『ミュージカル李香蘭』

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【2006年・平成18年】

・永吉雅代 舞台『薔薇の仮面―川島芳子―』(あんがいおまる一座)
※2003年版(酒井悠三子)の再演

・美咲蘭 舞台『王女伝説―川島芳子の生涯―』(オフィス蘭)

・堀江真理子 舞台『男装の麗人伝説』(アリストパネス・カンパニー)

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【2007年・平成19年】

・菊川玲 テレビドラマ『李香蘭』(テレ東・角川映画)

菊川玲。川島芳子というより郵便配達夫だ。

・中路美也子 舞台『満洲國の黄金の都市―幻影の王道楽土―』(グループ演劇工房)

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【2008年・平成20年】

・ワン・ヤーメイ(王亚梅/王雅美) 中国ドラマ『シーウルフ作戦(海狼行动)』

ワン・ヤーメイ。軍装だけでなく、上海社交界シーンでのエレガントな毛皮姿もぐっとくる。

・黒木メイサ(14~35歳)/真矢みき(最晩年)/八木優希(幼年期) テレビドラマ『男装の麗人〜川島芳子の生涯〜』 (テレ朝)
※原作は村松梢風の孫(戸籍上は五男)の村松友視『男装の人』。

黒木メイサ。わりと好きな女優さんだが、軍服がこれほど似合わないとは。

・濱田めぐみ 劇団四季『ミュージカル李香蘭』

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【2009年・平成21年】

・貴城けい 舞台『貴城けいオンステージ2009』
※劇中劇で川島芳子を演じる。

・紫乃原(現しのはら)実加 舞台『怪盗ルパン・満州奇岩城篇〜川島芳子と少年探偵団〜』(月蝕歌劇団)
※2001年版の再演

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【2011年・平成23年】

・チャン・シーウェン(张曦文) 中国ドラマ『バニラビューティ(香草美人)』

チャン・シーウェン。もはや断髪もしていない。

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【2013年・平成25年】

・氷川あさみ 舞台『激動-GEKIDO-』

氷川あさみ。男装の麗人の濡れ場もあるらしい。観てみたかった。

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【2014年・平成26年】

・順芳 舞台『S/M オペラ~上海的処女篇』(銀幕遊學◉レプリカント)
※「O嬢の物語」を1920年代の上海の租界に舞台にしたエロティックな翻案劇。R16+指定。

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【2015年・平成27年】

・シャン・ウェイ(单薇)/何玉軒(幼年期)中国ドラマ『ラストエンペラーの伝奇(末代皇帝传奇)』

シャン・ウェイ。おそらく美貌でいえば、歴代「川島芳子」の中ではナンバー1だろ。異論は認めん!

・イエ・スアン( 叶璇)中国ドラマ『東方戦場(东方战场)』
※中国共産党湖北省委員会宣伝部の肝煎りドラマ。そのためか、清朝滅亡よりも共産中国建国物語にドラマの比重を置いている。

イエ・スアン。一体、どこの軍服だろう。

雅原慶 『ミュージカル『李香蘭』(浅利演出事務所)
※浅利慶太独立後、最初の『李香蘭』

雅原慶?ちょっと自信ない。

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【2017年・平成29年】

・壮一帆 音楽劇『魔都夜曲』

※李香蘭を浜崎香帆、高橋菜七のWキャストで演じていることでも話題になった。

壮一帆。軍服と旗袍(チャイナドレス)、二人のヨシコ。

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【2020年・令和元年】

・伊藤歩 映画『海辺の映画館―キネマの玉手箱』

※大林宜彦監督の遺作。戦争を知らない若者3人がタイムスリップし、明治維新から第二次大戦を追体験するというファンタジー物。

伊藤歩。声優さんでもありました。

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【2022年・令和4年】

坂本里咲 『ミュージカル李香蘭』(浅利演出事務所)

坂本里咲。「さとさく」でなく「りさ」。

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【2023年・令和5年】

・飛龍つかさ/玉置成美(Wキャスト) 日中合作音楽劇『李香蘭 花と華』

飛龍つかさ。ゴンタ顔。

・シオン・ダイリン(熊黛林) 中国映画『川島芳子を追え』(追杀川岛芳子)
※原題を翻訳すると「川島芳子を追いつめて殺せ」。シオンは、男装の他、チャイナドレスや芸者など七変化を披露。

シオン・ダリン。漢名が熊というのは萎える。

田中玲奈/中村亨人(幼少期) 音楽劇『二人のヨシコ 李香蘭と男装の麗人』

田中玲奈。♪違う違う そうじゃない by鈴木雅之

(後記)
●こう見てくると、昭和よりも平成以後のほうがむしろ、フィクションの世界では「川島芳子」が大モテのようである。やはり日本では劇団四季の『ミュージカル李香蘭』の影響が大であろう。物語の貴重な狂言回しとして、時代に翻弄された「二人のヨシコ」のひとり、李香蘭の合わせ鏡として、川島芳子が現代に甦ったのである。同ミュージカルは、浅利演出事務所に受け継がれ、その講演は現在まで900回を超えているという。つごう5人の女優が川島芳子を演じている。この年表では、同一女優による再演はオミットしているから、映画やドラマを合わせれば、毎年、誰かが川島芳子を演じている、といっても過言ではないかもしれない。
中国では90年代から国策としての抗日映画ブームがあり、”東洋のマタハリ“川島芳子のキャラクターは恰好の素材となった。その扱いも、漢民族の裏切り者=漢奸(本来、満州人である彼女に、この語はあてはまらないはずだが)から日本帝国主義に利用され捨てられた悲劇の女、まで振れ幅は広い。
本年表は、「川島芳子を演じた女優」をコンプリートすることを目的に作成したが、漏れがある場合はご容赦の上、ご報告をいただければ幸いです。今回の調査で、劇団ノルテによる『王女銃殺』という舞台作品で米倉裕子さんが川島芳子を演じているということがわかったが、初演日時などが最後まで不明で、年表に反映できなかった。もし、御存じの方がおられれば、こちらの方も重ねてご教授たまわりたいと思います。

●“男装の麗人””軍服の女スパイ“という、川島芳子のキャラター・イメージは、その後のエンタティーメントの世界にも強い影響を残している。
たとえば、勝新太郎・田村高廣の人気シリーズ『兵隊やくざ★強奪』(68年)に出てきたゲリラ部隊の女ボス秋蘭(佐藤友美)の軍服姿を見て、川島芳子を脳裏に浮かべた人も多かったのではないか。

『兵隊やくざ★強奪』での佐藤友美。しびれるほど
カッコよかった。「犬におなり!」とか言われてみたい。

日活ロマンポルノ『昭和エロチカ 薔薇の貴婦人』(80年)では、明らかに川島芳子にインスパイアされたであろう、ナチ軍装の麗人・岩槻涼子(飛鳥裕子)が登場する。こちらは一人称も「ボク」で、なかなか様にはなっていた。

ヤボな修正入れたくないが、念のため。日活ロマンポルノでは、原悦子や美保純のアイドル路線より、宮井さんや飛鳥さんのお姉さん路線の方がすきだった。

となれば、『赤い天使』(66年)の主人公・西さくら(若尾文子)の情事のあとの謎の軍服コスプレもここに挙げておきたい。

戦場の愛と性を描いた増村保造監督の問題作『赤い天使』。仏の変態アーティスト・ロマン・スロコンブも大絶賛。

先ほども触れたが、中国では抗日映画ブームである。単純に日本軍の残虐行為を描くものはさすがに飽きられ、近年では日本軍の美貌の女将校が定番キャラとなりつつあるようである。美しく強く冷血でかつ一抹の哀しみを秘めた、それら敵キャラには特定のファンも多いという。ちょうど立ち位置としては、東映戦隊モノの悪のお姉さんといったところか。これもまた、川島芳子効果といえるかもしれない。

抗日映画に出てくる女将校たち。
結構可愛かったりする。

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但馬オサム
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