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男は誰も人生のプロレスラー①~ジ・エンフォーサー 片目の借金取り
われながら、なかなかいいタイトルだと思った。男はみな人生というリングのプロレスラーである。チャンプもいれば、ジョバーもいる。ベビーフェイスもいれば、ヒールもいる。シューターもいれば、ゲテモノもいる。さて、あなたはどんなレスラーなのであろうか。「戸越銀座の吸血鬼」「千のヅラを持つ男」「営業部のセクハラ大王」…ご自身にぴったりのニックネームを考えてみるのも一興か。なんなら但馬が名づけ親になってもよかですたい。
本コーナーでは、私但馬にとっての忘れじのレスラーを紹介していきたい。とはいっても、テリー・ファンクやハルク・ホーガンといったスター選手は登場しないと思う(たぶん)。なんとなく心に引っ掛かったまま放置してきた、そんなA~C級レスラーを中心に紹介していく。但馬流プロレスの殿堂である。第一回はこの男だ。
スキンヘッドに黒いアイパッチ、というビジュアルも強烈なジ・エンフォーサー、日本初お目見えは1981年の新日本プロレス「新春黄金シリーズ」だった。enfocerとは辞書で引くと、「法律に則り代執行をする人」「債権の取り立て人」とある。要は借金取りである。他に俗語としては「用心棒」「殺し屋」という意味があり、なるほど、そちらの方が悪役レスラーとしてはしっくりいくが、ご本人は、タイツのお尻やシューズに$マークを入れているので(扉写真参照。対戦相手はドスカラス)、やはり「借金取り」キャラにこだわりがあるのだろう。他に、エンフォーサー・ルチアーノというマフィア・キャラでも売っていたという。安藤昇が横井英樹の取り立てを頼まれ、チャカをぶっ放す事件を引き起こしたのは有名だが、アメリカのマフィアもヤクザ同様、取り立てをシノギの一部にしているのだろうか。
それはともかく、プロレスのリングに「借金取り」がどう結びつくのか、今ひとつよくわからない。古館伊知郎アナは「タイトル取り立て人」などと御大層な紹介をしていたが、当のエンフォーサーは坂口の北米ヘビー級に挑戦したものの、殴る蹴るに場外乱闘、せいぜいの芸当がクロー攻撃という典型的三流悪役ぶりをさらし、6分足らずでひねられてしまったのだからしまらない。むろん、猪木のNWFタイトルには挑戦させてもらえず、シリーズ中盤でテレビマッチからもフェイドアウトしてしまった。
それでもなお僕の記憶に強烈に残っているかといえば、やはりあのダヤンのようなアイパッチ姿のインパクトと「借金取り」のリングネームの奇抜さだろう。僕も一度だけ、電車の中で同様の黒いアイパッチをつけた長身の外国人を見たことがある。むろん、エンフォーサーではなかった。
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結局、エンフォーサーは、新日プロでは使い物にならず、まるで払い下げられたような恰好で同年7月の国際プロレス「ビッグ・サマーシリーズ」に参加。なんでも本人じきじきの強い売り込みがあったという。
同シリーズは、テレビ中継が打ち切られた国際プロレスの実質最後の興行で、このときの北海道羅臼大会を終えて同プロは解散してしまうのである。倒産会社が呼んだ最後のガイジンが「借金取り」とは、あまりにも皮肉とかうか物悲しい。
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面白いのは、『ダーティ・ハリー3』の原題がThe Enforcerであること。「日曜洋画劇場」で、淀川サンがこの意味を「借りた借りは必ず返す(復讐の鬼」と説明していた。直訳の意味は反対だが、なるほど、こちらのほうがしっくりいく。そういえば、『007は二度死ぬ』の原題も007You only live twiceだった。女性のアノときの声は、日本では「イクイク」で、英語圏では「Come Come」か。おっと、これは余談。
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先に、三流レスラーといったが、アメリカでのエンフォーサーは、アンドレ・ザ・ジャイアント、リック・フレアー、ダニー・ホッジ、マスカラス兄弟、ビル・ワット、ブラックジャック・マリガン、ネルソン・ロイヤルなどそうそうたるレスラーの抗争相手を務めている。ちなみに、片目はアンドレに潰された、というアングルもあったそうだ。
そのエンフォーサーの片目自体がギミックだという話もあり、僕も長い間そう信じていたが、「借金取り」キャラになる前、つまりジ・エンフォーサーの前身、ギロチン・ゴードン(Guillotine Gordon)と名乗っていたころの彼の写真を改めて見てみた。
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ごらんのように両の目の向きが不自然である。単なる斜視にも見えず、おそらく右目は義眼なのだろう。実は、ビル・ロビンソンやキラー・カール・コックスも義眼レスラーなのであった。
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プロレスは人生だ、ドラマだ。
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