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SPEC診断概論


あなたに合った走り方とは?

突然ですが、あなたは自分の走り方に満足していますか?
もしかしたら「何が自分に合っているのか」と悩んでいる方がほとんどかもしれません。
では、どのように走ったら上手くいくのでしょうか?
本やyoutubeなどでも走り方に関する情報があふれていますが、人によって言っていることが違ったり、中には全く真逆なことを言っていたりするものもあります。
なぜそのようなことが起こるのか?
それは人にはそれぞれ「動きの特性」があるからです。
これを「スポーツ動作特性(Sports performance characterisutics)」、略して『SPEC』と呼んでいます。
みなさん一人一人が、体にやさしく、かつパフォーマンスを高めることができるSPECを持っています。
つまり「合う走り方」とは、あなたが持つSPECに合った走り方のことなのです。

SPECは「直立二足歩行」の性質

我々ヒトは四つ足動物から進化しました。
この二本の脚で移動する形態(直立二足歩行)は、ヒトだけが獲得した特殊な「体の使い方」です。
野球をしていようが、サッカーをしていようが、あるいは日常生活を送っていようが、この移動形態は変わることはありません。
そのぐらい基礎となる体の使い方なのです。
この動きの根本となる「直立二足歩行の性質の違い」がSPECです。
これがベースとなって、パワーやスピード、持久力などの「能力特性」という武器が加わり、さらにそれぞれのスポーツの「競技特性」という鎧をまとった状態がスポーツにおける体であると捉えています。

SPEC式スポーツにおける体の捉え方

SPECは、こうした能力特性や競技特性が発揮しやすくなるための基礎であり、その方法の違いが動作特性の違いになります。
その代表例がフォームです。
人によって持っている動作特性が違うので、どうやったら上手くいくかという方法が違ってきます。
だから発信する人によって言っていることが違っていたり、真逆になったりするのです。
特に、球技のような複合的な動きをしない「走る」という動作は、SPECの要素が前面に出やすくなります。

走りに必要な4つの要素

現在、SPECでは計算上1000通り以上の体の使い方から、その選手に合った使い方をお伝えしています。
とても多いように感じるのですが、実は大きく分けると16通りの特性に分類することができます。
これと関係するのが動きに必要な4つの要素「重心移動」「体重移動」「バランス」「リズム」です。
これらは全て必要なのですが、その人ごとに優位となる要素があり、それがその人の走りの属性を決定します。

SPECの16分類

自分のSPECを知り、合う走り方を見つけるためには「自分の体をどう動かすか」だけではなく、「走るための環境とどう関わるか」という視点が必要になります。

重心移動・体重移動・バランス・リズムとは環境との関わり方のこと

先ほどお伝えした、走りに必要な4つの要素もそれぞれ関わる環境が違ってきます。
重心移動とは「重心という空間に浮いた点が移動すること」なので、関わる環境は空間になります。
体重移動とは「足の裏から地面に伝わる力が移動すること」なので、関わる環境は地面になります。
バランスとは「重力に対して姿勢を保ったり調節したりすること」なので、関わる環境は重力になります。
リズムとは「身体があるまとまりを持って、時間の経過の中で反復すること」なので、関わる環境は時間になります。
つまり、
重心移動優位の人は『空間属性のSPEC』
体重移動優位の人は『地面属性のSPEC』
バランス優位の人は『重力属性のSPEC』
リズム優位の人は『時間属性のSPEC』
を持っていることになります。
さらに、前後・上下・左右・回転の4つの動きのタイプを加えて、「4つの属性×4つの動きのタイプ」で16通りのSPECに分類されます。
これらの内の一つがあなたの走りのベースとなるのです。

4つの属性×4つの動きのタイプ=16通りのSPEC

着地の仕方も直立二足歩行の性質の違い

走り方に関して議論されていることはたくさんあります。
その代表例が「着地の仕方」です。
「フォアフット着地がいい」「かかと着地は良くない」「基本はフラット着地だ」など、みなさんも耳にしているのではないでしょうか。
これも直立二足歩行の性質(SPEC)の違いです。

良し悪しが議論されていることはSPECであることが多い

他にも、
●前傾 or アップライト
●リーチアウト(ひざ下を前に振り出す動き)をする or リーチアウトしない
●体の前に着く or 体の真下に着く
●1軸走法 or 2軸走法
なども良し悪しではなく特性なので、合う人と合わない人がいます。
これらの要素は、マラソンや陸上といった競技特性の話ではなくSPECの違いです。
「何が正解??」と考える時には、SPECという「もっと掘り下げた視点」から見る必要があります。
そして「正解」とは「あなたにとってどうか」ということです。

SPECを知ることは答えではない!

SPECとは、二本の脚で立って移動する時の体の使い方のことですが、それを知ることが目的ではないはずです。
「もっと速く走りたい」「もっと楽に走りたい」「ケガなく走りたい」ということが目的なのではないでしょうか。
そのために「自分に合った走り方」という答えを見つけているのだと思います。
SPECは、そこにたどり着くための大切な要素であり道しるべになります。
「フォアフット着地をすること」が答えなのではなく、「フォアフット着地という要素を使って楽に走ること」が答えだということです。

とはいえ、本当に特性なんてあるの?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、みなさんはそれを日頃から目にしたり、体感したりしているのです。
「○○するのは間違いなので、△△しましょう!」
「こうすると上手くいきます!」
こういったYouTubeなどの情報、そしてあなたがそれをみた時に、
「そうそう、それを意識したら上手くいった!」
「そんなんじゃ良くならないよ、間違ってる」
という思考が働いた感覚、それらは情報を発信する側にも受け取る側にもSPECがあって、それがパフォーマンスに大きく影響することを感じているからなのです。

しかし、走り方に関する情報は様々であり、中には真逆なものもあったりと交錯しています。
そこで自分に合ったSPECを知ることで、どの情報を選べばよいのかという手がかりにすることができます。
そして、同じような体の使い方を伝えているランナーやトレーナーの情報に触れることで、より具体的に走りに活かす方法やコツを効率よく得ることができます。
それらを自分の感覚に落とし込み、試行錯誤することで自分に合った走り方という「答え」を見つけることができるようになります。

SPEC診断は自分を知る「手がかり」であり、それをどう使うかが大切

タイプを知ることは、能力を発揮するための”自分の傾向”を知ること

タイプ分類というと、「型にはめる」などネガティブに捉える方がいます。
しかしスポーツに限らずビジネスや自己啓発の世界でも、能力を発揮し自由になるためには自分の行動や思考の傾向を知ることが大切とされています。
つまり繰り返し現れるパターンを知るということです。
同じように走る上においても、自分のパターンを知ることはとても大切になります。
走るということは、手脚を交互に動かしていく動作です。
この繰り返しの中で、人それぞれ特徴的なパターンが現れます。
例えば、マラソン世界歴代2位のキプチョゲはつま先を外に向けて着地するパターンが特徴的です。
これが42キロの間、大きく変わることはありません。
では、つま先が内を向いたり外を向いたりすることが自由なのでしょうか?
きっと「フォームがバラバラ」と感じると思います。
自由と無秩序は違います。
ファーブルの有名な言葉に「自由は秩序を作り、強制は無秩序を作る」というものがあります。
これだけみると自由に走ればいいじゃないかと思うかもしれませんが、みなさんの経験上、自由に走っていれば上手くいきますか?
いかないですよね。
だからこそ指導者やyoutubeなどのノウハウの必要性があるわけです。
つまり、「こうすると上手くいく」というルールが先にあって、それに基づいて自由に動くことで秩序が生まれます。
それを表したシミュレーションがあります。
『ラングトンのアリ』と呼ばれるシミュレーションで、2つのルールのみにしたがって移動します。
①白いマスにきたら90度右に方向転換し、黒色に変えて1マス進む。
②黒いマスにきたら90度左に方向転換し、白色に変えて1マス進む。
すると、はじめはランダムにうろつくのですが、10000歩を越えたあたりで、突然まっすぐな秩序が生まれます。

実際の蟻の行列も、自由にあちこち動く中で偶然に最短距離を見つけ出して行列という秩序が生まれますが、その前提として「地面にホルモンを残す」というルール、「ホルモンの濃淡による共通言語」としてのルールがあります。
逆に、そのルールがなければ秩序は生まれないのです。
もし結果が無秩序になるのであれば、それはルールというシステム自体が悪いのではなく、強制になってしまうようなルールの内容が良くないということになります。
さきほどのファーブルの言葉を借りると、「自由を生むルールは秩序を作り、強制を生むルールは無秩序を作る」ということになります。
走りにおいても、「フォアフット着地」などは「どのように地面に着くか」というルールの一つです。
ここで大事なのが、同じルールであっても人によって自由を生んだり、強制を生んだりすることがあるということです。
なぜこの違いが生まれるのかというと、人にはそれぞれ動きの性質(=スポーツ動作特性:SPEC)があるからです。
「どのようなルールを取り入れると、その人に合った走り方(=秩序)を引き出せるのか」という基準で、その共通する傾向ごと分けたのがSPECのタイプ分類です。
さあ、あなたはどんなルールを取り入れたらよいのでしょうか?
一緒に見つけていきましょう!

SPEC診断の手順

  1. SPECを引き出すためのプレエクササイズ(4種)

  2. SPEC判別テスト(2種)

まず、本来持っているSPECを引き出すために4種類のプレエクササイズを行います。
これは必ず行ってください。
なぜなら、過去のケガや走りのイメージ、取り組んでいるトレーニングなどによって体がズレている可能性があるからです。
その状態でテストを行っても、合わない動きを「正しい」と感じてしまい、本来のSPECを判定できなくなります。
今感じている「やりやすい」が「合っている」とは限らないのです。

次に、2種類の判別テストを行います。
ポイントは、「頑張らないこと」と「力まないこと」です。
動きずらいのに力ずくで動いてしまうと正確な判別ができなくなってしまいます。
力を抜いて動くように心がけて、違いを感じ取るようにしましょう。
また、過去のケガのダメージが大きかったり、動きの癖が強すぎたりすると、一度のプレエクササイズでは本来のSPECを引き出せないことがあります。
判別テストの動きの違いをはっきり感じ取れるようになり、結果が安定するまでプレエクササイズを繰り返しながら定期的にテストを行ってみてください。

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